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#2 大星、人助けを試みる③

人数不足で球技対抗戦を棄権しなくてはならないらしい野球部。

大星はその助っ人になることで作戦を遂行しようと考え、早速部室へと向かった。

 雪は相変わらずパラついているが、サッカー部は未だ元気に練習を続けていた。普段は野球部と校庭を二分する形で練習を行っている為、全面が使える今日は広々としていて気分が良いのかもしれない。傍目から見ると雪にはしゃぐ犬のようだ。


 大星たちはそれを横目に校庭の隅に建てられたプレハブ小屋の部室へと向かっていた。


 決して広い校庭ではないにもかかわらず、二つの部活が混同して練習を行っている状況からも、学校側が力を入れていないのが見て取れる。

天川高校野球部は過去に輝かしい成績もなく、とりわけ設備が充実しているでもなく、それ故にちゃんと野球をしたい生徒はそもそも入学してこず、いわゆる典型的な弱小というヤツだ。

現在の部員は総勢10名。内一人はマネージャーの為、選手は試合が出来るギリギリの人数しか在籍していない。


 そこに部長が怪我をするという事態が起こった。


「ふ~ん、そこにアンタが加わろうって話?」

「ああ。簡単に言うならそういうことだな」


 そう言ったくろこはウサギ姿に戻っており、大星の左肩に前足を掛けた状態で乗っかっている。


「えっと、大星さんって野球得意なんですか? あ、別にその見た目で、とか、そういうことは思ってないです……、ごめんなさい」

「謝んなよ。思ってるって言ってんのと同じだぞ、それ」


 そう言ったのはましろだ。こちらは右肩に乗っかっている。


「まぁ確かにオレ野球やったことねぇけど」


 大星は子供の頃、一緒になって野球をやるような友達はいなかった。父親が生きていればキャッチボールくらいはしたかもしれないがそれもない。要は完全なる素人だ。


「でも矢場くん、運動神経だけは昔から良かったよね」


 奈智にはくろしろの声は聞こえていないが、大星の反応を聞いて話の内容を掴んだのだろう。


「おいっ奈智オメェ、それでフォローしてるつもりじゃねぇだろうな?」


 睨む大星に奈智は「しまった」みたいな顔をしたが、視線の先にある部室から誰かが出てくるのを見つけると、その表情が「しめた」に変わる。


「あっ、あれ、部長くんだよ」


 奈智は大星のジト目から逃げるように、部長くんの元へと駆け寄った。大星もそれに続く。


「ああ、岬先輩。さっきはどうもです」


 部長くんはペコッと頭を下げた。怪我をしたのは左手らしく包帯が巻かれていた。おそらく小指か薬指だろう。


「あのね、そのさっきの話なんだけど、こっちで代役見つけてきたから棄権しなくてもよくなったよ?」


 奈智がそう言うと、部長くんは訝しげな目で大星を見た。


「えっと、もしかしてそちらの……?」

「三年の矢場だ」


 正直、大星は心の中で「あぁん? なに見てんだよ? オレじゃ不満だって言いてぇのか、この根性無しがっ」と叫んでいたが、それが込み上げてこないように堪えていた。さすがにそれを口にすれば助っ人を断られるだろうことくらい想像がつく。


「どうも。二年の笹原です」


 部長くん改め笹原がそう名乗った時、部室からもう一人、女生徒が姿を現した。


「笹原くん、その人に出てもらお? 人数が揃えば棄権なんてする必要ないよね?」


 その女生徒は笹原の袖を掴み、まるで懇願するようにそう言った。


「マネージャー……、もう決めたことだから」


 しかし笹原はそう呟き、こちらへと向き直ると、


「先輩方、せっかくのお話ですが野球部は対抗戦を棄権しますので」と、頭を下げた。


 それを受けて大星と那智は思わず顔を見合わせた。どうにも大星のことを不満に思ったから断った、という感じではない。


「ちょっと待って。どうして勝手に決めちゃうの? みんなだって納得してな――」

「うるさい!」


 必死に食い下がるどうやら野球部のマネージャーらしい女生徒を笹原は一喝した。

 マネージャーはその声にビクッと固まってしまう。


「……ごめん」


 笹原はマネージャーから視線を逸らし、そう呟くと一目散に走り去っていってしまう。


「…………」


 大星は突然のことに、ただただ走り去る笹原の背中を目で追うしかなかった。


「えっと……、大丈夫?」


 奈智も同じでしばし呆然としてしまったようだが、目の前のマネージャーが涙を流しているのを見て我に返ったようだった。


「えっ、あ、アレ? だ、大丈夫です。すみません……」


 マネージャーは自分が涙を流しているのにも気付かないほど驚いてしまっていたようだ。奈智に言われて慌てて袖口で顔を拭う。


「わたし、なんで……、アレ、おかしいな?」


 だが、その涙は拭っても拭っても溢れ出てくるようだった。


「ビックリしちゃったんだよね。大丈夫。もう大丈夫だよ」


 奈智はマネージャーを抱き締め、優しく頭を撫でた。


「ねぇねぇ、アンタなにボーっとしてんの?」


 肩に乗ったくろこが大星に耳打ちする。


「あぁん? ……ああ、そっか。おい奈智、そっち任せてもいいかよ?」

「うん」

「オレ、今のナントカってヤツ追いかけてみるわ」


 なにやら対抗戦を棄権する云々を部内で揉めているであろうことだけは察せられた。涙を流す女子マネージャーに大星が出来ることは何も無い。ならば去っていった部長を追う方が自分の役目となる。


 大星は走り出した。



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