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#2 大星、人助けを試みる②

「それでね、さっき生徒会室に野球部の部長くんがきたんだけど」


 大星が教師に財布と傘を届けた後、職員室前にて奈智がそう切り出した。

 すでにどの部活動とも三年生は引退しているので二年生の新部長のことだろう。


「なんかその部長くんが練習中に怪我をしちゃったみたいで、いまの野球部って人数ギリギリでしょ? 選手が足りなくなったからって、対抗戦の棄権を申し出てきたの」


 言われて大星はふと先程の校庭の様子を思い浮かべた。


「そういや今日は野球部練習してなかったな」


 大星がずっと陣取っていた校門前からも校庭の様子が見えていた。

 確かに今日は天気が悪いが、練習を中止するほどの雪でもない。何しろ試合を間近に控えているのだから休んでいる場合でもないはずだ。

 もしも「試合前に風邪でも引いたら困るから」などとなよなよしいことを考えているのなら棄権したって結果は同じだろう。


 とんだ腰抜け――、大星はそう思いかけたところで些細な違和感を覚えた。


「あれ、対抗戦ってよォ、助っ人オッケーじゃなかったっけか?」

「そうなの。公式戦じゃなくて二校合同のお祭りみたいなものだからね。うちの生徒なら誰でも参加できる」


 だとすれば一人の欠員くらいどうとでもなる。

 部を引退した三年生の中には奈智のようにすでに進路が決まって暇を持て余しているヤツもいるだろうし、球技関連の部に属していない生徒の中にも野球経験があるヤツがいるはずだ。

 もっといえば単に人数合わせでその辺を歩いているヤツをとっ捉まえたっていい。


「私もそう言ったんだけど、どうしても棄権じゃなきゃダメなんだって。おかしいと思わない?」


 対抗戦は明後日、土曜日だ。

 今日はもう遅いが、明日一日が残されているにもかかわらず、この時点で棄権を申し出るとはどういった理由があるのだろうか。


 大星は少し考えてみた。


「そうだな……。声を掛けたけど誰も見つからなかった。そもそも声をかけられそうなダチがいなかった。あ~、あと、声をかける勇気がなかった。んなとこじゃねぇか」


 どれにしたって残念な理由だ。


「ブハッ、野球部の連中、そんなに人望ねぇのかよ~」


 大星が自分で言って噴き出すと、「…………」と、奈智がジト目で視線を送ってきた。凄まじいまでの『お前が言うなオーラ』が突き刺さる。


「矢場くん」

「お、おう……」


 奈智に名を呼ばれ、大星はバツが悪いままに直立不動で返事をした。

 まだ濡れていたのか汗なのか区別がつかない冷たい何かがスーッと額から垂れてくる。


「お・か・し・い・って、思うよね?」


 奈智は再び念を押すようにそう言った。それでようやく大星も気が付いた。

 奈智は『野球部が何か困っているのではないか』と言っている。


 それは大星が苦手とする分野を理解した上で、わざわざ情報を持ってきてくれたということだ。確かに、現在の野球部は試合を棄権せねばならずに困っていると思われる。最悪、大星が怪我人の代わりに出場するなどすれば、これはまさに人助け、幸福を分けてもらえるチャンスといえよう。


 私がいるってこと、忘れないでほしい。

 奈智のその言葉の意味に気付くまで、自分は一体どれだけ時間を要するのか。

 大星は己の鈍感さが恨めしかった。


「助かる」


 大星は素直に頭を下げた。


「うん。じゃあ早速伝えに言った方がいいよね」

「だな」


 もしも他の助っ人が見つかってしまえば大星の出番は無くなってしまう。そうなる前に、二人は校門に待たせてあったくろことましろを拾ってから、野球部の部室へと向かったのだった。


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