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透明な触手

 不思議な夢。




(自分は異常者なのか……何故同じ夢を?)



自分を冷ややかに見つめている別の意識も感じられた。




 幻想的な森。



蒼い二つの月が微弱に照射していた。



微風が頬を微かに撫でていた。



体が金縛りになったみたいに動かなかった。


 

5メートル先の左斜め前方に小柄な、横顔が可愛いらしい少女が立ちすくんでいた。



何かに抗うようなそぶりであった。



緑色の大きく耳が張り出した不気味な仮面が空中に浮遊し、ユラユラと揺れていた。



突然、緑色の仮面が反転した。

鮮やかな蛍光カラーの裏はどす黒い暗緑色の苔に覆われていた。



暗緑色の無数の苔が微妙に(うご)めいている。



(こけ)から生成されているかのように、(おびただ)しい数の透明で光り輝いている触手が、ゆらゆら揺れながら近づいてきた。



少女と仮面の空間は益々輝きを増してくる。



『イヤー来ないでぇ』



少女の混濁した意識が突然流れこんできた。



透明な触手が、(まと)わり付くように、

少女の身体に。


皮膚を貫き少女の身体に融合する。



少女は、ガクガクと操り人形みたいに、動きながら、不自然な形で首が傾く。


そして瞳は、メラメラと蒼く燃えていた。



突然、少女は手足を突っ張るように、身体をのけ反らせる。



『くックッ』



奇妙な呻き声とも、笑い声ともつかぬ声が、邪悪に歪んだ唇

から洩れる。



歪んだ唇から、透明な液が滴り落ちた。



二つの月の淡い光に、反射して、キラキラと煌めく。



少女の脳髄は、しっかりとエンドルフィンを分泌させていた。



酸味を帯びた、なんとも言えない匂いが、漂ってくる。



緑色の仮面が、少女の顔面に融合するように貼付く。



すると、少女の身体はググッと一回り大きくなった。



少年は、肩甲骨のあたりを、ポーンと突かれたような感触で、金縛りが解けた。




驚愕の表情をした少年の前に、雪のように白い肌に、濡れたような瞳と唇の少女が

『覚醒して……』

と、少年の耳元で囁く。


(通常はすぐ目覚めるのに……今回は何故)


(婬獣魔に、喰われると永久に目覚めないのよ)



少年の頭の中に、少女の声がなだれ込む。



(夢獣魔って何処に……まさか、緑色の仮面と融合した少女?)



(違うわ……最初あの仮面が存在していた闇の空間に)




少年が、その空間に意識を集中した。



突然少年の脳髄に、波のように押し寄せる不気味な感覚。


邪悪なオーラ。



暗黒の闇に、ボォっと浮かび上がる、不気味な顔。



乱抗歯の間から覗く、赤いザラザラした蛇のような、チロチロした舌。



頭からすっぽり覆う修道僧のような、黒マントの姿が暗黒の闇から、弾かれたように現出する。



「ブルギヌーレよ、さすがだな……憑依融合」



チロチロ(うごめ)く赤い舌から漏れる、呻き声ともつかぬ不気味な声。



「ラマツキドールよ、あの二人任せたぞぇ」



神経を逆撫でるような、粘着力のある声が、仮面と融合した少女の半開きの唇から漏れた。



「あたし雪蘭、坊やの名前は?」



「僕、天野伸一だよ」



「どうしたの伸一くん」



「……雪蘭おねえちゃん、これは僕の夢?」



「ここは宇宙の始まりと終わりが混沌としている場所。

迷宮超夢の狭間。

坊やには難解だねぇ。

夢と現実が複雑に溶け合った世界。

普通の人間には侵入出来ない筈……」



「おねえさんは普通の人じゃないの?」




「そう。普通ではないわ。

どう見たって、変でしょうこの世界」



前後に火柱の上がっている沼。



天空に浮遊している古代遺跡の斜めに、二つの蒼白い月。



周囲を見渡しながら雪蘭は呟く。



───と、その時


不気味で邪悪な怨念のような物が、雪蘭の意識の中に滑り込もうとしていた。



瞬時に意識を遮断して、丹田の気を一気に解き放つ!



『な、何者じゃ……』


少女と融合した緑色の仮面の、(めく)れた唇から人の神経を逆撫(さかな)でする粘着力のある声が漏れる。



邪悪に蠢く唇に連動して、暗緑蛍光カラーの大きく張りだした耳が、ピクピク震える。



「……さぁ、少なくとも仲間じゃないわ」



雪蘭が、相手を挑発するような口調で呟く。


『ブルギヌーレ……何故、介入する』



ラマツキドールが、ブルギヌーレの脳内に囁く。



『ラマツキドールよ、この女、普通の人間では無いぞぇ……我が超邪念が

浸入できぬ……初めてじゃ』




「ブルギヌーレよ、ワシを見くびるなよ……所詮(しょせん)ワシの蠱蟲(こちゅう)の敵では無いわ」




ラマツキドールが麼教(まきょう)の呪文を唱える。



『ψπζΩЦЭ……』


「お姉ちゃん、どうしたの?

急に周りが真っ暗闇になったよ」



「大丈夫、心配しないで……」



雪蘭が、伸一の頭を撫でながら云った。



___________________________



一寸先も見えぬ暗黒が周りを、支配する。



『うっふ…やるわね』


雪蘭が、『フウッ』と息を吐く音に、反応して伸一が雪蘭のいる辺りを凝視する。



「えっ、三日月が……」



「これは、半月刀というのよ」


半月刀が、発光しているみたいにオレンジ色に周りが輝いている。



「ねぇ、何を吹き掛けたの?」


「伸一くんは、知らなくていいの……」



雪蘭が、人指し指と中指を舌の奥に突っ込む。


すると透明な液が指を伝わって滴り落ちた。



そして右手に持った半月刀に吸い込まれるように付着する。



「伸一くん、これを飲んで……」



「これは、正露丸?」


「違うわ……救生玉露丸っていうの。全ての邪気の侵入を遮断し、気の暴走を防ぐのよ。あたしを信じられるなら飲んで」



「僕、信じる」



伸一は、何の疑いもなく唾を溜め込んで、ゴクリと呑み込む。




「伸一くん、勇気あるね……もし、毒だったら。これから余り人をむやみに信用しない方がいいわよ」



「……もし、毒だったとしても、僕は後悔しない。心の声に従って死ぬような事になっても、それには深い意味があると信じているから……」



「……伸一くん、偉いね」



伸一の髪の毛を、撫でながら、雪蘭が呟く。



(普通の子供が、このゾーンに迷い込む訳がないわね)



「お姉さん、暗黒の中を、得体の知れないガス状の物が、ゾワゾワと押し寄せてくるよ」


「解ってるわ……」

低い唸り声と一緒に、体毛をそそげ立ちするような異様な気に、普通の人なら発狂するわね……救世玉露丸が間に合って良かったわ」



雪蘭は、半月刀を腰のケースに納め、左肩に吊るしてある短機関銃を取り出す。




安全蓋を開き、短機関銃の引き金を絞って

ラマツキドールとブルギヌーレに乱射した。


『ドドドッ~』



豪快な響きが、空気や地面を振動させる



60連発の弾倉は、一瞬にして尽きた。



『クックック』



「我々に、オモチャなど笑止千万……」




『うっふふ……』



微笑しながら、雪蘭は短機関銃を足下に落としながら、腰に吊るしてある半月刀を右手に納める。




「何が可笑しい?」



「オモチャで、ご挨拶よ……」



雪蘭が、左手に付着している夢汁を、再び半月刀に吹き掛ける。

オレンジ色の輝きが増幅する。









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