鳥の羽
倒したモンスターが光の粒子になり、溶けるように消えていく。
カロンは腰の鞘に短剣を収めると、アイテム欄を表示する。
目当てのアイテムが表示されていることを確認すると、カロンは大きく息を吐いた。
最近、鉱山で鉱石集めをしつつも、カロンはいろいろなフィールドやダンジョンなどを巡っている。
早く自分の手で短剣を作ってみたいと思ってはいても、いろいろな所へ行ってみたいという気持ちも抑えきれないのだ。
今、カロンがいる山岳地帯は、鳥系のモンスターが多く生息する。
ハガネの作った悪魔の翼を見て思うところのあったカロンは、鳥系のモンスターの生息地を調べ、山岳地帯に通いつめていた。
戦闘を終え、一息ついていると、連絡を知らせる電子音が響いた。
「よお、青年。今、大丈夫か?」
「構わないよ」
通信相手はハガネであった。
「悪魔の翼が完成したから、その連絡だ。いつでも渡せる」
「ハガネさえよければ、今から行ってもいいか。相談したいことがあるんだ」
「いいぞ。場所は工房でいいか?」
「了解。工房の前についたら連絡する」
「わかった」
カロンにハガネの返事が届き、連絡が終了する。
帰還の書を使い、カロンは街へと戻っていった。
工房とは、工業区にある施設で、アイテム製作を行うための施設である。
スキルに対応した製作ツールを所持していれば、どこでも製作を行うことは可能だ。
だが、工房でのアイテムの製作は利点がある。
使用に手数料がかかるが、工房で製作を行うと、成功率やアイテムの質などが上方修正される。
工房内のしっかりとした器具や設備で製作を行うために付加されるボーナスだ。
よほどの緊急時や手数料を払いたくないなどの事情がない限り、アイテムの製作は工房で行われる。
ハガネと工房で会う約束をしたので、カロンは工業区を目指して歩きだす。
借り物ではなく、自分の悪魔の翼が手に入るとなるとカロンの足並みも徐々に早まっていく。
「ハガネ、工房に着いたよ」
「中に入って待っててくれ」
工房の前でハガネに連絡して、カロンは工房の中へと入っていった。
入ってすぐの場所はロビーであり、正面に受付。
受付の横には、扉が一つだけある。
しばらくすると、その扉を開け、ハガネが出てきた。
ロビーを見回し、カロンを見つけて近づいてくる。
「悪い悪い。ちょっと手が離せなくてな。じゃあ、行くか」
そう言うと、ハガネは受付に向かう。
「工房を使用しているハガネだが、カロンの入室を許可して欲しい」
受付にそう告げ、鍵を手渡す。
「わかりました。ハガネ様の工房へのカロン様の入室を許可します」
鍵が鈍く輝く。
工房の管理は鍵で行われているようだ。
「よい製作が出来ますように」
「ありがとう」
受付の差し出した鍵が、再びハガネの手に戻る。
「工房は部屋借りだから、受付で申請すれば、複数人でも使える。この鍵をドアの鍵穴に差し込んでまわせば、工房に移動できる」
ハガネが鍵を使うと、二人は工房の中へと移動していた。
中心に大きな部屋があり、その周りをぐるっと小部屋が取り囲む造りだ。
いくつかの小部屋の中を覗くと、置かれた設備や器具が異なっている。
製作するアイテムによって、部屋を使い分けて使用するシステムのようだ。
「まずは、悪魔の翼を渡しておく」
ハガネはトレード画面を開き、アイテム欄から悪魔の翼を移動する。
「その悪魔の翼も青年にやる。大量にコウモリの翼を調達してきてくれる礼だ」
「いいのか?」
「ああ」
装備している試作品の悪魔の翼をトレード画面に移そうとしているカロンに、ハガネがそう声をかけた。
ハガネ側に悪魔の翼だけが表示されているトレード画面を互いに確認すると、二人は了承をタッチした。
トレードが成立し、悪魔の翼がカロンのアイテム欄へと移動した。
「青年も俺に用事があるんだろ?」
アイテム欄の悪魔の翼を確認して、喜びに打ち震えているカロンに、ハガネに声をかける。
「これ見てくれるか」
アイテム欄から一つの素材アイテムを取り出すと、カロンはハガネに渡す。
「鳥の羽って素材アイテムなんだけど、宝飾に使うらしい。悪魔の翼があるなら、ひょっとしてと思ってさ」
「あるよ。天使の翼ってアクセサリーが」
悪魔の翼の製作で、宝飾スキルが順調に上がっているハガネには、何の材料かわかった。
悪魔の翼の製作が落ち着いたら、調達を頼もうかと思っていた素材アイテムが、ハガネの手にある鳥の翼だ。
いやあ、まいったね。先に持ってこられるとは。
ハガネは驚きの表情を浮かべる。
「やっぱり、あったんだ。製作できるなら、また作って欲しい。材料は集めてある」
「まだ、試作すらしてねえんだ。うまくできたら渡すから、鳥の羽は買い取らせてくれ」
「わかった」
ハガネの考えを先読みしたかのように材料を用意してきたカロン。
あまりの偶然に、驚きを通り越し、笑いさえこみ上げてくる。
その笑いを必死に抑え込みながら、ハガネは買い取る意思を伝えた。
「何がおかしいんだよ?」
「いやあ、青年の行動が俺の考えを先読みしていたかのようにどんぴしゃだったから、すげえなあと思ってよ」
おかしなことも起きていないのに、笑いをこらえているハガネ。
カロンには、何でハガネが笑っているのか不思議だった。
「とりあえず、手持ち分、全部渡すから製作に役立ててくれ」
カロンはトレード画面を開くと、鳥の羽を全て移動させる。
ハガネは、数を確認すると、買取金額を算出して、金額を入力した。
「なんかずいぶん多くない?」
「驚かさせられた上に、盛大に笑わせられたから、その分を上乗せだ」
買取金額がずいぶんと多いことに気づいたカロンが指摘に、いまだに笑いをこらえているハガネは答える。
「はいはい。じゃあ、遠慮なくいただくよ」
呆れ顔のカロンがトレード画面の了承をタッチ。
続いて、ハガネも了承をタッチし、トレード成立の電子音が響いた。