アイテム鑑定
帰還の書を使うと、一瞬だけ強い浮遊感。
すぐに足の裏に固い地面の感触を感じ、カロンは街の中に立っていた。
カロンがホームにしているこの街は、王都と呼ばれている。
その名の通り、町の中心部には王城がそびえ立つ。
石畳の道や石造りの建物などは、西洋の街並みを連想させる。
商業区を目指して歩き始めたカロンだったが、木陰のベンチに気づき、そこへと腰を下ろす。
アイテム欄を開いてみると、未鑑定になっているアイテムばかりであった。
アイテムの鑑定をするために、カロンは商人に職業チェンジする。
商人は、NPC商人とのアイテム売買を有利に進められる、街の商業区に露店を開くなどのスキルを持つ職業である。
カロンが始めた鑑定は未鑑定のアイテムの情報を表示するためのスキルだ。
鑑定のレベルが高いほど、アイテムの情報がより詳しく判明する。
職業が商人だと、ボーナス効果で鑑定のスキルレベルが底上げされ、鑑定したアイテムについての情報量が増える。
更に、最低限、名称だけは判明する効果付きだ。
未鑑定のアイテムを片っ端から鑑定していくカロンだったが、鉱物のいくつかは名称だけしかわからなかった。
しかし、名称から宝石であることがわかった。
換金アイテムはNPC商人に全部売るにしても、素材アイテムはどうするか。
短剣の製作に使える鉱石やインゴット以外にも、いくつか素材アイテムを入手したのだが、カロンには使い道がわからない。
製作系のスキルを会得していると、鑑定済みのアイテムの詳細画面に、どのアイテムの材料になるのか表示される。
鑑定のスキルレベルが低い場合でも、どの製作系のスキルで使用するかという情報だけは判明する。
その素材アイテムを使った製作を行えない場合には、完成品のアイテム名は表示されない。
使用用途がわからない素材アイテムの詳細には、このスキルでの製作で使用するとのみ表示されている。
とりあえず、倉庫にしまっておくか。
その製作スキルを今は会得するつもりが無いカロンは、アイテムを預かってくれる倉庫サービスを使用することに決めた。
アイテム欄を閉じると、カロンは座っていたベンチから腰を上げ、商業区へと歩き始めた。
NPC商人に換金アイテムを売って、ついでに、消耗品の補充をしとくか。
NPC商人相手に売買をするつもりのカロンの職業は商人のままだ。
実は、この売買もスキルの一つである。
NPC商人が販売するアイテムの価格は割引され、反対に、買取金額は割り増しされる。
もちろん、商人に職業チェンジしておけば、わずかだが割引や割り増しの率が上昇する。
上昇率がわずかなためか、職業チェンジをせずに買い物をする人も多い。
売買を行う際には、毎回、職業チェンジを行うカロンだが、金に強い執着があるわけではない。
用意されている職業やスキルなんだから、有効に使おうという意味合いの方が強いのだ。
商業区に着いたカロンは、いきつけの店へと向かう。
「青年、青年、何か良さげな素材アイテム持ってたら、俺に売ってくれよ」
店に入ろうとしていたカロンに声がかけられる。
カロンが振り返ると、露天を開いている男と目があった。
「NPCより高値で買い取るからさ」
男はそう言うと、人好きのする笑みを浮かべた。