ソロプレイヤー
パソコンの電源を入れて、インターネットに接続する。
ゲームのログイン画面を立ち上げ、パスワードを入力すると、ゲーム世界での分身が画面に映る。
操作するキャラクターを選択すると、ゲームの世界に意識を飛した。
次々に新しいものが出る一方、いつの間にか終了しているものも多いオンラインゲーム。
その中でも、比較的長く、安定したログイン数を保っているゲームが、パソコンのディスプレイの中に広がっている世界の正体だ。
現実に迫るほどの細密さで再現された世界は、パソコンのディスプレイ越しでも、自分がそこにいるかのような臨場感を生む。
街の中を迷い無く歩いている男は、プレイヤーの分身として、この世界に生まれた。
操作するプレイヤーから、カロンと名づけられたプレイヤーキャラクターである。
倉庫や商店街で消耗品や装備を整え、カロンは一人で街の外へと出て行く。
オンラインゲームでは、他のプレイヤーとパーティを組んだり、ギルドの仲間と出かけるプレイヤーも多い。
中には、一人でプレイする、ソロプレイヤーもそれなりに存在する。
カロンもソロプレイヤーだ。
ソロで活動する理由は、拘束されたくないから。
時間や行動を制限されるような人付き合いを避けるためである。
ゲームのキャラクターといっても、操作しているのは人なのだ。
ゲーム内での付き合いも、現実での人付き合いとなんら変わることはない。
言葉のみでのやり取り、匿名性などの条件が加わり、言葉以外の情報がある現実での付き合いよりも、扱いが難しい。
自分の思うまま、自由に動きたいカロンにとって、ゲーム内での人付き合いは色々なメリットを含めても、足枷でしかなかった。
そろそろ、短剣も作ってみたいから、鉱山に行ってみるか。
そう決めたカロンは地図で鉱山の場所を確認し、駆け出した。
このゲームのモンスターは大きく分けて、三つのアイテムを落とす。
まずは、換金アイテムだ。
その名の通り、店で売り、この世界での通貨を得るためのものだ。
落とすモンスターによって形態が異なるため、換金以外に目的が無いものだが、コレクターがいたりする。
次は、素材アイテムや消耗品。
素材アイテムは様々な製作品の材料になるもので、消耗品はポーションなど使うとなくなってしまうものだ。
最後にレアアイテム。
装備品や特殊な素材アイテムなどで、モンスターが落とす確率がとても低く、入手しにくいため、高値がつくことが多い。
鉱山には、鉱物やインゴットを落とすモンスターが生息しており、鉱物の採掘ポイントもランダムで発生する。
カロンは、鉱山の入り口に到着すると、装備と所持品をチェックして坑道の中に入っていった。
坑道の中は、ところどころに明かりが設置されているため、そこそこに明るく、鉱石を集めに来ている人の姿があちこちに見られる。
あまり近くでモンスターを倒すと、トラブルになることもあるため、カロンはあまり人のそばへと近寄らず、奥へと進んでいった。
奥に進むにつれ、徐々に人は減って行き、誰もいないところまで来ると、カロンは歩みを止めた。
今日はこの辺でアイテム集めだな。
カロンは短剣の柄を握り直すと、モンスターと採掘ポイントを探し始めた。