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心の重さ

 例を挙げてみるとすると「愛が重い」、「気持ちが軽くなった」なんて言葉があると思う。

 重い、軽くなった。これらは「重さ」を表す表現だ。一般的に、重さというものは「質量」を測るときに使われたりする。

 しかし、如何なものだろうか。「愛が重い」、「気持ちが軽くなった」。何れも「心」という抽象的で捉えにくいものを対称としている。

 質量を測るときに用いる重さという概念に対して、質量というものがあるのか分からない「心」。

 私としては何か矛盾しているように感じて仕方がない。モヤモヤする。

「――ということなんだけど。お前はどう思う?」

「……ふぇ?」

 口にスプーンを銜え、首を傾げるコイツ。

 私の問い掛けに対して、非常に情けないというか真面目に話している此方を脱力させるような反応を返してきた。

「お前、話聞いてたか?」

「えっ、あ、うんっ。ばっちり聞いてたよ! ブッダの話を一語一句聞き漏らさないようにしてたアナンダくらい聞いてたよっ!」

「そうだな。お前が今食べているプリンの話だったな」

「そうそう。このプリン、結構なあたりだと思うよ」

 私の話に相槌を打つ。心の中では「あー、危なかったー」とでも思っているだろう。表情からもホッとしているように感じる。

 ふーん。コイツの中では、私はプリンの話をしていたのか。

「プリンの話と言ったが……、実は嘘だ」

 私の暴露に、ピシッと空気に亀裂が入るようなおとが聞こえてきた。主にコイツの周りから。

 実際に声には出していないが、「なん、だって?」とでも言っているかのような表情をしている。

「なん、だって?」

 あ、口に出した。

「えっと、それも嘘じゃないよね?」

 嘘に嘘を重ねてどうなるんだよ。

 私がそう文句を言うと、コイツは軽く笑って誤魔化した。


 ◇   ◇   ◇    ◇


「うーん、心の重さかぁ」

 コイツに再び事のあらましを話すと、難しい顔をして唸り始める。

「確かに「心」って目に見えなくて、曖昧なモノかもしれない。でも、人にとって心ってスゴく大切なモノだと思うんだ。だからこそ、分かる形――重さとして表そうとしたんじゃないかな……?」

 本当の処はどうか分からないけどね。と、言葉として上手く伝えきれていないのか、話しきってもコイツは渋った表情をしている。


 見れないからこそ、見たい。

 分からないからこそ、分かりたい。

 表せないけど、表したい。

 伝えたいからこそ、伝わるようにした。


 それって、とても素敵な事だと思う。


 ……コイツも偶には良いことを言うじゃないか。

 ちょっとは誉めていいかもしれない。

「でもさ、ちょっと思ったんだけど」

「……ん?」 これから一言掛けようとして、コイツに出鼻を挫かれる。

 何だ、まだ言うことが有ったのか。

「さっき、「気持ちが軽くなった」、「愛が重い」って言ってたでしょ?」

「ああ、言ったな」

 それがどうかしたのだろうか?

「気持ちが軽くなったって、どのくらい軽くなったのかな?」

 コイツはコテンと可愛らしく首を傾げる。

 傾げるが――、

「……はぁ?」

 私の頭の中は「?」で埋め尽くされた。

「わたし、何か変なこと言ったかな?」

「言ってるな。現在進行形で」

「え? 何を?」

「特に追求する必要のないことについて追求しようとしている」

「どのくらい軽くなったのかって?」

「その通り」

「でも、気にならない?」

 気にならないと言えば、嘘になる。

「心の軽さ、気にならない?」

 ニコニコと、期待するような顔で私を見てくる。

 そんなコイツに私は……。

「はぁ……。分かったよ。考えれば良いんだろ? 考えれば」


 相も変わらず、私はコイツに甘いらしい。

お付き合いいただき、ありがとうございました。

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