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頭は絞らず、捻れ

 休日。私の部屋。

 特にする事もなくボーッと、私たちは過ごしている。

 コイツは私の部屋にあるマンガを読んでいるし、私は学校の宿題をしている。

 ――パリッ。

 乾いたものが割れる、独特の音が部屋の中に鳴り響いた。恐らく、私がお茶請けとして持ってきた煎餅をコイツが食べるときに鳴ったのだと思う。

 ――ボリッ、ボリッ、ボリッ。

 パリッの次にくるのはこれだろう。口の中で煎餅を噛み砕くときにでる音だ。

 そして、これらの音が鳴り止むと、

「うん、これは中々いい煎餅だね」

 と何故か誇らしげにコイツは言った。

 えっと、何を基準にして「いい・悪い」を決めているのかは分からないけど、その煎餅近所のスーパーで二番目に安かった物だった気がする。

 ――ズズズッ。

 飲み物の啜る音。私が煎餅と一緒にお盆に載せて運んできたお茶を、コイツが飲んでいるのだろう。

「はぁ~。お煎餅とお茶の組み合わせは至高だよねぇ」

 この上なく気の緩んだ声。

 というか、普通他人の家でここまでくつろぐ事が出来るものだろうか。まず私は無理だ。

 でもまぁ、私がこんな事を言ったところで――。

『他人なんて寂しいことを言わないでっ! わたしと君はもう家族みたいなものじゃないっ! そして、この家はわたしにとって第2の家といっても過言では……』

 なんて暴論を放ってくるかもしてない。いや、かもしれないでは無く、かもしれる。あれ、「かもしれる」って何だ?

 まぁ、それは置いておくとして。何だよ第2の家って。過言では何だよ。

 第2の家といっても過言では……。 

「あるに決まってるだろっ!」

「んンっ!?」

 私が、自分の脳内で作り上げたコイツにツッコミを入れるという、一人漫才とも呼べない自演に、コイツが噎せた。

 ケホッ、ケホッと咳込む。

「ん? どうした急に咳込んで」

「いや、ちょっと……。君が、突然叫ぶからっ」

 ケホッ、ケホッと咳込む。

「大丈夫か?」

 私は席を立ち、噎せるコイツの後ろに回って背中をさする。

「う、うん。まぁ、大丈夫」

 暫くさすっていると、咳の頻度が少なくなっていき、二・三分経った頃には治まった。

「あーーー……。死ぬかと思ったっ!」

 コイツは投げやりに叫ぶと、床に大の字になって寝ころぶ。スカートの裾がふわっと宙に舞う。

 そして、私を見上げる形で、「もう、キミが悪いんだよ」と軽く頬を膨らませ、私に文句を言ってきた。

「別に私は悪くないだろ」

「いやいや、キミの所為だよ。キミが叫ばなきゃ、わたしは噎せなかったんだから」

「だとしたらアレだ。私の脳内に出てきたお前が変なことを言わなきゃ、私は叫ばなかった。つまり責任はお前にある」

「なにそのヒドい暴論はっ?」

 ガバッとコイツが起き上がる。

 顔が近い。

 コイツの額に凸ピンをかます。

 オウッ! と情けない声を出してコイツは再び倒れ込んだ。

「……ヒドくない?」

 コイツは額をさすって私に訊いてくる。

 ヒドくない。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「ちょっとトイレ行ってくるね」

 そう言ってコイツが立ち上がる。

「ああ、盛大に漏らしてこい」

「漏らさないよっ?」

 というか、漏らして一番困るのはキミだからね? と置き台詞を残してコイツは部屋を出ていった。

 待つこと数分。

「ねぇねぇ! すごい! すっごく気になることが出来たっ!」

 バーン! と勢いよく扉を開けてコイツが部屋に入ってくる。

「扉は優しく静かに開けろ」

「あっ」

 私の指摘にコイツは「しまった」という顔をしながら扉を閉める。

「……ゴメンね?」

「次から気を付ければ、別にいい」

「はーい」

 先生に注意された小学生のような返事をして、コイツが腰を下ろす。

「えっと、それでなんだけどさ――」

「ちょっと待て」

 コイツが話を切り出そうとするのに制止を呼び掛ける。

 なに? という困惑した顔で、コイツは私を見つめる。

「まぁ待て。取り敢えずお茶を飲もう」

 話が長くなりそうだし、一度喉を潤しておかないとな。

 私は急須にお湯を注ぎ、お茶を淹れる。

「ほら、コップを出せ」

「あ、うん……」

 コイツは何故か両手でコップを持って差し出す。私はコップを受け取ると、お茶を注ぐ。

 コイツの分が淹れ終わると、次いで私のコップにお茶を注ぐ。

 コトン。とコイツの前にコップを置く。

「あ、どうも」

「ん」

 そして――。


 ズズズ…………。


「はぁ~~」

「ふぅ……」

 互いに息がこぼれる。

「よし、話せ」

 喉の潤いは万端。私は話を促す。

「えっとさ、これって煎茶だよね?」

 そう言って、コップの中に残っているお茶を指さす。

「そうだな」

 私は肯定。

「これって、煎餅だよね?」

 そう言っ、テーブルの中央に置かれたお盆に乗っている煎餅を指さす。

「そうだな」

 再び私は肯定。

「両方とも「煎」って付いてるよね」

「そうだな」

 三度私は肯定。

「それで、「煎」って何なのかな? って気になった訳です。まるっ!」

 言い切ったっ! とコイツは満足そうな顔をして大きく背伸びをする。

 それにしても、「煎」ねぇ……。

 私は再びコップに口を付ける。

「「煎」っていうのはあれだな。簡潔に、ぶっちゃけて言うと、「強い火力を与える」ということだな」

「強い火力?」

「例えばほら――」

「……煎茶?」

 私は煎茶に人差し指を向ける。

「この煎茶は強い火力を与えて、植物――茶葉の成分を煮出したものだ」

「ふむふむ」

 コイツが私の言葉に相づちを打つ。

「そして煎餅」

「せんべい!」

「煎餅は、水分が無くなるまで熱した物だ」

「そうだよねぇ、煎餅硬いもんねぇ」

 コイツは煎餅の入った袋を摘んで持ち上げると、ピンと軽く指で弾く。煎餅からはカチンと軽く硬い物に当たった音が鳴る。

「煎茶と掛けて、冬の炬燵と解きます」

 弾いた煎餅をボーッと眺めながらコイツがなぞかけをしてくる。

「その心は?」

 私が聞き返すと、コイツは真剣な眼差しとドヤ顔を私に向ける。

「どちらもホットで……、ホッとさせてくれますっ!」

 コイツのよく通る声が、部屋の壁まで染み渡る。

 カッ! と見開いたコイツの目と、私の目がぶつかる。

 この視線の衝突を例えるとすると、コイツの視線が大型トラックで、私のは原付バイクあたりだと思う。

「今の、何点?」

 真面目な表情を維持したまま、コイツが尋ねてくる。

「そうだなぁ。取り敢えず57点くらいで良いんじゃない?」

 こういうモノの採点基準とか判らないし。

「異議ありっ!」

「却下」

「却下しないでっ! どうして私の頭を絞って考えた作品を「取り敢えず」で片づけちゃうのっ?」

 そうか、頭を絞ったのか。

 ……ん? 

「……え、頭? お前。え? 頭? 絞ったの? 頭?」

「あれ、何か変? だって頭脳を精一杯働かせることを頭…………、じゃなくて知恵だよそれっ!」

 うおおおおぉぉぉぉ。両手で顔を覆い、花盛りの女性が出して良いものでは無い、くぐもった奇声を上げる。

 私は煎餅を一枚手に取る。席を立ち、蹲っているコイツの前に立つ。そして、哀れな雰囲気漂うコイツの肩に優しく手を置いた。

「うぅ……。見ないで、惨めなわたしを見ないでぇぇぇ」

「気にするな、間違いは誰にだってあるさ」

 そう私が語りかけると、「え……?」とコイツは顔から手を外し、私を見上げる。

「わたしを……、頭なんか絞っちゃうわたしを、許してくれるの?」

 コイツは目に涙を溜めながら許しを請いてくる。

 端から見ると感動的シーンぽいが、内容を聞くと頭にハテナが浮かんできそうな言葉だ。

 私はそっと煎餅を持っている方の手をコイツに差し出す。

「あっ……」

 私の行動に、雨が止んだ後の雲の間から差し込む日の光の如く、パァッと明るい表情に変わった。

 コイツが煎餅を受け取る。

 大事そうに両手で抱える。

「許して、くれるんだね?」

 期待した目で、コイツが私に訊いてくる。

 期待するコイツに私は応える。

「許し――――」

 ゴクリとコイツは唾を嚥下する。

「――ません」

 ポトリとコイツは煎餅を落とした。

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