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赤と白。幸せな時

 クリスマス。イエス・キリストの降誕を記念する日である。

 一般には十二月二十五日に祝われるが、ユリウス暦――太陽暦の一種で、ローマのユリウス=カサエルが紀元前四十六年頃にギリシアの天文学者であるソシゲネスに改正させた暦を使用しているものはグレゴリオ暦――グレゴリウス十三世が一五八二年にユリウス暦を改正して制定した暦の一月七日にクリスマスを祝うらしい。

 因みに日本においては「恋人と過ごす日」と言う認識が「家族と過ごす日」とされている欧米諸国よりも多くいため、宗教的なものでは無く、最早イベントの一つとして捉えられつつある。



「クリスマスだね~」

 私の目の前にいるコイツがヘニャッと緩んだ表情で、和んだ雰囲気をまき散らし、そんな事を口にする。

「そうだな。クリスマスだな」

 私はコイツの言葉に適当に相槌を打つ。

「楽しいねぇ、クリスマス」

 ふふふ、と笑う。

 確かにクリスマスには色んなイベントが催されたり、街々がイルミネーションで華やかに彩られ、幻想的空間に放り出された錯覚に陥ってしまう。

 コイツがこんなに楽しそうな顔をするのも無理は無い。

「しかし、今の私たちの状況は楽しいと言っても良いモノなのか?」

「え、楽しくない?」

 私とコイツ、計二名は今、私の家でおでんをつついています。

「なぁ、何で私たちはクリスマスだと言うのにおでんをつついているんだっけ?」

「え、忘れちゃったの? 私が昨日、君に「お夕飯何食べたい?」って聞いたら「おでん」って言ったんだよ?」

 思い出した。

 昨日の、コイツと電話をしていた時の事だ。

 今日のコイツの家族の予定。父は仕事。母は友人とパーティ。弟も同じく友人と。コイツ、未定。

 私の家族の予定。父と母がデート。私、未定。

 お互いがお互いを笑い、重く虚しい溜息を吐く。

 そして私の家で過ごす事になった。その時に聞かれたのだ、「じゃあ、夕飯は私が作るよ! 何かリクエストはあるかな?」と。

 うん、そうだった。そして、ふと頭に浮かんできたのがコンビニに寄った時に見たおでんだった。それで考えるまでも無く、それが当たり前かの様に、「おでん」と答えたのである。


『えっ? お、おでん?』

 思い出すと、私の答えにコイツ動揺していたな。聞き返していたし。

『何だ? おでんだと何か問題でもあるのか?』

 問題ありまくりだよ私。その料理一つでクリスムードなんて吹っ飛ぶぞ。

『いや、問題は無いけどさ。ほら、ほかにも有るでしょ。クリスマスと言ったら〇〇、みたいな物とかさ』

『特にコレと言ったのが思いつかない。おでんで』

『うん、分かった……。じゃあ、美味しいおでんをご馳走するね! あとケーキも!』

『期待してる』

『任せて!!』


「思い出した?」

「うん、思い出した」

 それはもう酷鮮明に。後悔するくらいに。呆れるくらいに。

「じゃあ、食べようか?」

 イイ笑顔で私を見る。

 にこやかな笑顔の筈なのに、薔薇の様に美しい物には棘があるを体現するかの様に、チクチクと質量を持って私を攻めている様に感じる。

 私は返事をする代わりに、大根に箸を伸ばす事で、態度で反省の意を示す。



「はい、ケーキだよ」

「おー」

 おでんを食べ終えた後、コイツが冷蔵庫からケーキの入った箱を持ってくる。

「それも何と、駅のあの通りにある、あの洋菓子店のケーキだよ!」

「おおっ!」

 あのお店のケーキ。口コミから始まり、どんどん有名になっていった洋菓子店のケーキ。一度食べてみたかったんだよな。

「良く買えたな。あの店結構人並んでただろ? 今の時期なら尚更」

「まあね。開店する少し前に着くように行ってみたけど、それでも既に五・六人は並んでたかな?」

「そうか、ありがとな」

 私がお礼を言うと、「わっ、褒められちゃった」と恥ずかしそうに、照れくさそうに頬を仄かに赤くする。

「は、早く食べよっか」

「そうだな」

 私はレアチーズケーキを、コイツはイチゴのタルトを取り出す。

「いただきます」

「頂きます」

 フォークですくい、食べる。

 口の中でふわっとチーズが溶け、レモンの香りがスッと鼻から抜ける。

 只々純粋に、美味しいと思った。

「……美味しいね」

 コイツが尋ねてくる。

 甘くて美味しい食べている時、人は幸せな顔をする。と言う言葉を何処かで聞いた覚えがある。

 聞いた当初は「ふーん」と余りその言葉に実感を抱く事が出来なかった。しかし、コイツの顔を見てようやく意味を掴む事が出来た。

 

 ケーキを食べているコイツの顔は、見ている此方までそんな気分にする様な、本当に幸せそうな表情を浮かべていた。

「どうしたの?」

 私がジーッとコイツを見て、コイツの言葉に反応をしなかったのに疑問を感じたのか、コイツが首を傾げる。

「ああ、ゴメンゴメン。お前の顔見てて、凄く幸せそうだなって思ってさ」

「うんっ! すっごく幸せ!」

「そうか」

「でも、私だけじゃなくて、君もそんな顔してるよ?」

 そう言われ顔に手を当てる。頬が上がっているのが分かった。

「ふふふっ、クリスマスマジックだね」

「何だよそれ」

「別名サンタさんからの贈り物」

 どちらかと言うと、後者の別名の方が正式名称に思えるのだが。

「あ、そうだ。ねぇねぇ、君は何時までサンタさんを信じてた?」

「ん? サンタは実在するぞ」

 私の答えに「え?」と先程までの嬉しそうな顔から一転、驚き目を丸くする。

「本当? 冗談じゃなくて?」

「本当。お伽話に出てくる様に空を飛んでいる訳じゃないけど、『グリーンランド国際サンタクロース協会』というのが在るんだ」

「『グリーンランド国際サンタクロース協会』?」

「そう。そしてそこには『公認サンタクロース』が何人も登録されている。他にも北欧フィンランドにあるロヴァニエミという州都の郊外にはサンタクロース村が在るんだ。一年中クリスマスムードに包まれているらしい」

「へぇ……」

 まぁ、知っていなくても別に人生を存する訳でも無い、雑学的知識だけどね。

「そうそう、もう一つクリスマスで気になってる事が有るんだけど。聞いてもいい?」

 この前も言った気がするけど、自分で調べようとは……、思わないんですよね、はい。

「良いよ」

「わーい。で、疑問なんだけど。どうしてクリスマスで子供がプレゼントをもらうのに靴下を用意する必要が有るのかな?」

 ここで「最近は靴下じゃなくて枕元の方が一般的じゃないか?」と言ってしまえば終わりそうな気がしないでも無いが……。

「それについては、サンタの元となった聖人のニコラウスという東方教会の司祭を知る必要があるな」

「聖人のニコラウス?」

「聖ニコラウス。小アジアのローマ帝国リュキア属州のパタラの町に生まれた大主教で、『ミラ・リキヤの大主教奇蹟者聖ニコライ』と呼ばれている」

「はぁ、凄い人なんだねぇ」

「うん。とてもとても凄い人。そして、この人の聖伝には弱い人、貧しい人を助けたお話が多く残っているんだ。それも他人に気が付かれない様にこっそりとね」

「気が付かれない様にって……、まさかっ?」

「そのまさか。クリスマスプレゼントはこの聖ニコラウスの人助けから始まったんだ。

 とある、娘に苦しい仕事に出させてしまう位貧しい一家に、酷く同情した聖ニコラウスが夜中(・・)煙突(・・)からその家の娘たちへの贈り物(・・・)として金貨を何枚も投げ込んだんだ。すると金貨は、偶然にも暖炉に干してあった靴下(・・)の中に入った。翌朝、起きると一家が靴下の中に入っている金貨にビックリ。その金貨のおかげで、3人の娘は幸せな結婚をする事が出来た。というお話だ。

 そこから靴下にクリスマスプレゼントを入れるという話が出来たんだと思う」

「それは、何ともミラクルな話だね」

「ミラクルだろ」


「あ、見て! 雪が降ってる!」

 長話の後、喉が渇いたのでお茶を飲んでいるとコイツが楽しそうに窓の外を指さす。

「へぇ、ホワイトクリスマスか」

 私たちは窓の方まで近づいて外を見る。

 雪が深々と私の視界を白く染めるかのように降り注ぐ。

「雪、積もるかな?」

 窓の外を凝視したまま、期待するかのように、ウキウキと聞いてくる。

「どうだろう、この地域は雪が降ること自体少ないからなぁ。明日にならないと分からないかも」

「なら、大丈夫だよ! これはきっとサンタさんから私達へのクリスマスプレゼントなんだから!」

 私の方を向き、無邪気な子供を思わせる笑みを浮かべ、私に言ってきた。

「そっか。なら明日は雪だるまを作ろうか」

「うんっ」

 私とコイツのクリスマス。特別な事をした訳でも無く、何て事無い一日だったけど、確かな幸せを感じた一日だった。



「ああ、そうだ。知ってるか? ドイツ由来のサンタクロースは双子でな。一人はお前も知っている様に紅白の衣装で子供にプレゼントを配るサンタクロース。もう一人は……」

「もう一人は?」

「黒と茶の衣装で、悪い子に石炭やジャガイモ、動物の内臓など、得体の知れない恐怖グッズを配るサンタクロース」

「なにそれこわい」

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