もしも明日――
「ねぇねぇ」
何時もの事。何時も通りコイツが話しかけてくる。
だから私も何時も通り「なんだ?」と答える。
そんな放課後。
「もし、「お前は明日死ぬ」って言われたら、どうする?」
首を傾げるその様は可愛く見えるが、話のネタは非常にヘビーなモノだ。
「どうしてそんな事を聞きたがるんだ?」
「うーんと、気になったから?ほら、こう言う質問って良く有るじゃん。コミュニケーションの一環みたいな?」
「なんだそりぁ……?」
そう言って私は笑い、「そうだな、私だったら「お前は一年後に死ぬ」って言い直せって言うな」と答える。
私の答えに対し、目の前にいるコイツは「へ?」と口をぽかんと開ける。
「何だ、何か可笑しかったか?」
「う、うん。物凄く十分すぎるくらいに可笑しかったと思う」
そう言うものだろうか。別にその「明日お前は死ぬ」と言った相手が私を殺すわけでもないし、私が自殺するわけでもないので、こんな答えでも良いと思うのだが。
そして私が一年と言った理由は、一日では私がやり残したことをやり切れないと思うので、なら一年くらい有れば良いかなと思ったからだ。
「なら、お前はどう答えるんだ?」
「うーん。そうだね、好きな人と一緒にいる、かな?」
「そうか、それは良かったな」
「何その投げ遣りすぎる感想は!?」
「だって別にお前の答えなんて興味無かったし」
ベタすぎる答えだったし……。
「ならどうして聞いたの!?」
「私だけ答えるのもどうかと思ったから」
「そうなんだ……。あっ、そうだ。私の言った好きな人って誰か気にならない?」
コイツが私にウィンクしてくる。何かそれが腹立たしく感じる。
「そうか、それは良かったな。頑張れよ」
「私未だ何も答えてないよ!?」
「え、違かったの?」
「だから何も言ってないよ!?そして君だよ君!好きな人!」
えっ?ちょっと、同性愛は……。
私は少し椅子を後ろに引き、コイツから距離を取る。
「ちょっと待って!別に好きって言っても恋愛的なモノじゃないよ!?友達として!親友として!最後に一緒にいるのが君なら良いなって思って言ったんだよ!」
「そ、そうか……」
余りの気迫に圧され、頷く。
「うん、分かってくれたみたいだから、許す!」
満足そうに「うん、うん」と首を振る。
そんな良い表情をしているコイツに「なら、「もし、明日地球が滅亡するとしたら」お前はどうする?」と問い掛ける。
「へ?それって私の質問とどう違うの?」
「死ぬのが自分一人か皆かの違いだな」
私の答えに「うーん」と難しそうな表情をする。
「君は、どうするの?」
「私か、私はどうもしないな」
何時ぞやのマヤ暦が云々の時だって、特に意識せずに何時も通り起きて、何時も通りご飯を食べて、図書館に行って、帰ってきて夕食を食べて、寝て。の何時ものサイクルを送っていたし。
あ、でもアレは間違いで本当は2015年だとか言われてるんだよね。まぁだからどうしたという話なんだけど、私にとっては。
恐らくその日になっても私がする事は変わらないと思う。
「で、お前はどうなんだ?」私はコイツに尋ねる。
「私は、美味しいモノが食べたいな。取り敢えず美味しいモノを食べてる時は凄く幸せな気分になるし、その日に本当に滅亡するのかは知らないけど、取り敢えずその日を幸せに過ごしたいと思う」
好きな人と一緒にね、と付け加えて。
「でも、地球が滅亡する前に……、私のテストが滅亡しそうだよぉ!!」
コイツの叫びが閑散と教室に響き渡る。
やる気を無くし、コイツは体を背もたれに預ける。
窓から差し込む夕日がコイツの顔を照らす。
「五月蠅いなぁ。今ので十分休憩は取っただろ、さっさと解け。私を帰らせろ、と言うか帰って良いか?」
私達は今、来週から行われる定期テストのための勉強をしている。
私達、とは言っても実際コイツが分からないところを私が教える、といった形を取っているため、私達と言って良いものなのかは疑問なのだが。
「ダメ、絶対ダメ!帰ったら一分おきに電話掛けてやるんだから!」
「ナニそれゲスい……」
地味のように感じるが、相手に多大なストレスを与えること間違いなしの精神的、体力的に相手を追いつめる恐ろしい手法だ。
しかし「着信拒否にするがそれでも良いか?」「ごめんなさい」といった風に解決される。
「はぁ、どうして勉強しなくちゃいけないんだろう」
哀愁を帯びた声色でコイツが呟く。
「古典とか勉強する意味有るのかなぁ、何で私達現代人が過去の言葉を学ぶ必要があるの、いや、ない!」
「見事な反復法だな。勉強の成果が出ている」
コイツの反語を使った主張を誉める。
「あ、どうもどうも」
「でもその反語って、さっき漢文で勉強したから今使ったんだよな?」
「え、うん。そうだけど」
「それが答えなんじゃないのかな」
「どういうこと?」
私の切り出しにコイツが尋ねてくる。
「んー、そうだな。その前に飲み物買って来ても良いか?喉が渇いた」
「うん、いいよ。あ、ついでに私の分も。午後ティーのミルクティーね」
はいはい。と私は席を立ち、自販機に向かっていった。
「はい、ミルクティー」
「すごいね、これが最新のミルクティーなんだ」
目の前に置かれたモノに対し、感慨深く言う。
「ああ、私もビックリだ」
「違うよね、何がどうなってこうなったのかは分からないけどさ、絶対違うよね。赤紫色のラベルに中の液体はラベルよりも深い赤紫。そしてロゴには明らかに「Dr Pepper」って書いてあるよね。誰がどう見ても午後ティーじゃなくてドクペだよド・ク・ペ!」
机を両手で叩き、キッと睨んでくる。
「済まない、言い訳の使用も無いほど、普通に押し間違えた。私の奢りでいい」
「奢りでも要らないよ!?それよりも君の持ってるバンホーテンココアを私は所望するよっ!」
そう言ってピッと私の手に持っている物を指してくる。
「分かった」
「あれ、意外と素直」
「やっぱり撤回」
「ゴメン嘘!君は何時も優しいよっ!」
「許す」
「許された!」
私はココアをコイツの前に置き、コイツはドクぺを私の前に移動させる。
蓋を空け、一口飲む。「わっ、飲んでるよ……」という呟きが前からしてくるが無視。うん、この独特過ぎる味は正しくドクぺだ。
「さて、さっきの質問の答えだけど」
そう話し始めると、コイツの顔は少し真面目なものに変わる。
「私達が生きるのを、少しでも有利にするために勉強してるんだよ。
だって、何事にも対して何も知らないよりは知っていた方が良いだろ?中には知らない方が良かったと思えるものも有るかもしれないけどさ。まぁそれも勉強の一つだろ。
温故知新って言葉があるだろ。古きを学び、新しきを知るってね。今を知る上で、今を学ぶにしても、先人が培ってきたモノが必要になる時も出てくるんだよ。
確かに強制されて学ぶ事ほど身に付かないモノは無いと思うけど、だからこそ嫌々学ぶんじゃなくて自分から学ぼうと思う気持ちが必要なんじゃないかな」
「……ずいぶん長く語るんだね」
言うな恥ずかしい。
「でもまぁ、分からなくもないかな。教科書の内容は一度読んだだけじゃ余り覚えられないけど、好きなマンガや小説の内容って以外と覚えられるよね。教科書ってマンガと違ってあんまり読んでて面白いとは思えないし、退屈だし……。でもマンガとかって読んでて面白いから、記憶に残るんだと思う」
「だとすると、必要な事は「うわぁ、教科書って面白い!!ハマるわ!!」って思う事だな」
「うん、それ無理」
「だろうな。私だって出来ないもの」
「じゃあ何で言ったの!?」
「お前になら出来ると……」
「期待が重い!」
「愛は?」
「どんと来い!」
両手をバッと広げ、「ヘイカモーン」と何かを迎え入れようとしている。
「なら早く問題を解け。愛する私の為に」
「うぅ、愛も重いよ」
ヘニャリといった感じに項垂れ机に突っ伏す。
「テストが終わったら出掛け――」「さぁこんな所でヘコタレてる暇なんて無いよねー!そうだよねー!」
さぁ解くぞー、どんどん解いちゃうんだから!と腕まくりをし、頬をパンパンと叩き、気合い一新といったところで――――
「あ、この問題教えて?」
呆れるようなで落ちを魅せた。