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過去 Ⅲ

八月、第十期生が入って来た。

理性的なディラン、白兵戦に強いハク、攻守のバランスに優れたシュリ、気の強いネオンの四人が入りG倶楽部は加速した。

もう少しすれば海外支局に人を送れる、軍事外交もその手の中に掴める矢先だった。

戦闘兵士として立ち位置を掴んだローワンが気の強いネオンを仕込み始め、それは上手く行ってるかに見えた。

「どうだ、奴は。」

組手から格闘訓練に変わった頃モクが尋ねるとローワンは嬉しそうに笑った。

「徒手は良い、眼も脚も強いし何より気力が有る。良い兵隊になりそうだ。」

ローワンはネオンを仕込む事が楽しそうだった。

「お前も早く誰か仕込めよ。少しは楽になるぞ。」

そんなローワンに水を差したと云うか、異を唱えたのは歳から言えば最年長、異色の東大医学部出身で落ち着いたディランだった。

「ローワン、それは全力なのか?」

不審そうなローワンに遠慮なく続ける。

「かなり手を抜いて相手をして居る様に見える。それではネオンが実戦で苦労するだろう。」

ローワンの表情が変わった。

「お前に何が判るんだ。初手から叩く訳には行かない、少しずつレベルを上げて行かないともたないんだ。」

ムッとしたローワンにディランはすぐに手を引いた。

「そうか、それは済まなかったな。」


どうも馬鹿にされてるような気がする。

ローワンが呟いたのはその数日後、中庭での事だった。

「頭が良いのは判るがな、俺みたいな高卒で戦闘専門を鼻で笑ってるように見えるんだ。」

隠れ煙草とも言い切れないが一応この二人はおおっぴらな喫煙を避けていた。

大半の仲間は知ってはいたが神藤中佐には隠しておきたい、子供のいるオヤジはなかなか煩いから。

「そうかな、俺はそんなの感じないぞ。ってか相手にもされてない様だが。」

「お前ってホントに呑気だよな。」

未だに最年少の二人は先輩面を吹かせる事も無い。

唯仲間の一人として出来る限りのフォローをしていたに過ぎない。


次の任務が入ったのは秋の初めだった。

南米コロンビアを訪れていた外務省官僚が暴動に巻き込まれた事件の救出作戦では、神藤中佐の指示でローワン、ネオン、ジ-ンとハクが出る事になった。

「ネオンとハクには少々早いが経験を積んで貰いたい。」

救出だけなら何の問題も無かった。が、結果は悲惨な物となった。

辛うじて官僚は確保したもののネオンは死亡、ジ-ンも傷を負いローワンとハクは打ちひしがれて帰国した。


「ローワン、お前はまだ若い。人の面倒を見るのは早計だ。」

容赦ないディランの言葉に顔を上げたのはモクだった。

「何だその言い草は。実戦がどんなものか知らないのはお前だろう。

ローワンや俺達がやって来た任務と同じだけの何を持っていると云うんだ。見せて見ろ!」

それは入隊して初めて見せるモクの怒りだった。

ギョッとしたようなコオやウルフの表情、思わず身を引いたバード。

だがローワンはモクの肩を掴んで止めた。

「いや、俺が悪い。俺の緩さがネオンの命を奪ったんだ。今後は・・・訓練で殺しても実戦で死ぬ事の無いように鍛え上げてやる、先ずは俺自身から。」

ぞっとするほどの冷ややかな声。

戦闘兵士ローワンが真の意味で覚醒した瞬間だった。



格闘訓練や白兵訓練は一般的な教練だった。

徒手で戦う格闘訓練はマーシャルアーツを根源とした形が有り躱しから受けまで決まっている。白兵も小銃に打突用の銃剣を着けての乱戦だったがそれも訓練としては形が有った。

ローワンが得意とするのは戦闘訓練。

それは相手を殺す為の技術、徒手からナイフ、小太刀等長小物までを使いありとあらゆる手段を用いて敵を倒す術だった。

ローワンの訓練では相手が居ない為コオハクシュリにジ-ンからウルフ、モクまで入り総がかりになったがバードとディランは加わる事は無い。

ディランははっきりと断った。

「俺には意味が判らん。個人技などどれ程やってもふり幅は最小だろう。」

神藤中佐は無理強いはしなかった。バードにも。

「あの二人は別の使い方が有る、皆が同じ方向を向くのは却って危険だ。」

その代り、と云うのかローワンのふり幅の少ない個人技に一番熱心に付き合ったのは神藤中佐だった。

「ロゥの掌は鋭いな、長小物も要らないだろう。」

叩きのめされる度に嬉しそうに笑う。

それは苦しい想いの中で独り闘うローワンの拠り所となった。


黒服の支給に続いてチップの装着が行われたのはこの頃。

幾つもの任務をこなし、相変わらず痛い思いをしながら完全な軍事系のローワンとモクはいつの間にかG倶楽部で浮いた存在になって行った。

単に早く軍人になりたかっただけのジ-ンはIQも高く大局を見渡す眼も持っている。

コオもバードもそしてハクとシュリも陸士大出身の為、頭脳派軍団に偏って行った為だった。



「来期は軍事系を補強する。」

神藤中佐の言葉に頷いたのはジ-ンだった。

「力技が必要な時にあの二人しか居ないのは気の毒だ。使い倒すと潰れるぞ。」

「無理やりに力技に持って行く事もあるまい。外交で片付くならその方が良いだろう。」

ディランだけはそう云ったが・・・

その頃から軍事外交官として頭脳派たちが活躍し始めていた。

真っ先にジ-ンがパリに飛び欧州を見はじめ、バハマにはバード、アフリカの基地局にはディランが向かった。

語学や地理などの教育担当として残ったのはコオ。

そして第十一期生が入って来た。驚くほど綺麗な顔立ちのボニ、小柄で切れの良いライラ、格闘技に精通しているギムリ。ギムリはローワンが受け持った。


「モク。」

呼ばれて執務室に行くと神藤中佐は困った様な顔をモクに向けた。

「ボニは外交向きだがライラはスナイパーにしようと思ってる。面倒見てくれないか。」

「いや、俺は出来ない。」

それはモクの本音だった。

スコープの中で死んでいくのは敵と云う名の人間。

自分の指が殺した人間を必ず見つめなくてはならない尋常ならざる職種。

こんな仕事をやるのは自分一人で良いとモクは考えていた。

「理由は?」

神藤中佐は何が有っても声を荒げず必ず理由を問うた。

「ライラが壊れたら俺も壊れる。きっともっと狂う。」

その瞬間だった。

神藤中佐の拳がモクの左顔面に炸裂し、その身体が吹っ飛んだ。執務室のドアを突き抜けて床に叩きつけられた男の頭上から酷く低い声が落ちて来た。

「お前だけが良ければいいのか、お前の技術を次に伝えようとは思わないのか。」

半身を起こしたモクの胸ぐらを掴みあげて、

「見誤ったか、お前ならばG倶楽部の存在の意味を理解していると思ったのは間違いだったのか。」

そのあまりに真剣な声にモクは中佐の眼を見返した。

「俺達は日本陸軍最精鋭だ。表では手の出せない場所を護っているんだ。

その為に命を施す。お前が命を懸ける様に他のG倶楽部員も掛けてるんだ。なればこそお前の技を後世に伝えろ。残せ。そして繋いで行け。壊れるはG倶楽部に非ず。」


「お前は優しいからな、バードがそう云っただろ。」

濡らしたタオルを渡してローワンが覗き込んだ。

「大したこと無さそうだな。お前が初めてだぞ、中佐に怒突かれたのは。」

黙ったままのモクにローワンは笑った。

「辞めるか。」

「いや、辞めない。」

「それじゃライラを鍛えてやれ。死なない様にお前の総てを繋いでやれ。俺達はいつか必ず死ぬんだ、それさえ餌にして奴を伸ばしてやれ。」

「・・・承知。」

以後、毎日毎日が辛かった。

言葉が伝わらない、云いたい事が山ほど在るのに。

もどかしい想いの中で苦しむモクに声を掛けたのはウルフだった。


「なあモク。何のために同期が居るんだ。お前云っただろ、八つ当たりするって。バードもジ-ンもお前の事を頼むって云ってたぞ。」

身体も心もほどけた瞬間、涙が吹き出した。

生まれながらに跡継ぎとされ教育係に育てられ、母を亡くし父には疎まれ振り回された挙句のこの路だった。

誰をも頼る事の無いように教育された子供には只々我慢するだけの道程だった。

「甘えて良いんだぜ、俺だって困ったら手を借りる。

その為の同期だろう。」

四つ年上の同期は森のクマさんの様に可愛い眼で笑いかけモクの余計な力みを溶かして行った。



「今日は泊まって行けるの?」

どこか懐かしい優しい声に、だが男はそっけなく手を振った。

連隊基地を稼ぎ場にしている飲み屋街。その路地裏に有るアパートは小奇麗では有ったが何処か浮ついた風情を漂わせていた。

慣れた様子で小道に出る男を窓から見送って女は眼を閉じる。

それはこの半年、全く変わらない日常だった。もう溜息も出ない・・・


出逢ったのは勤め先のバー、再会したのはその夜のうち。

客に無理やり連れて行かれたスナックだった。

「あ、こんばんは。」

独りで飲むまだ若い軍人に興味が引かれた訳では無い。

此処に連れて来た馴染の客がどうしても嫌で何とか離れたかったから。

それに気付いたのか男は少し皮肉そうな笑みを浮かべて横の席を空けてくれた。

咥え煙草の横顔が優しく見えたり、冷たく見えたり。

口数は少ないし騒ぎもしない。でも隣にいると何故だかあったかい。

いつの間にか部屋に招いていた。


「でも、駄目だね。」

由紀には解かって居た。

「セイさんは私を見てない、眼にも映って無いもんね。」

自分を通り越して違うひとを見ているのは最初から知って居た。

それでも良いと顔を見る度に思ってしまう。

「馬鹿だよねぇ。」



第十二期生が初年兵訓練に入った春、珍しくこのひと月は静かな日々が続いたその日変化が起こった。

「俺は明日からアフリカだ、ディランと入れ替わる。」

告げたコオの方が心配そうだった。

ローワンは既に吹っ切れた様に後継を育てる事に没頭している。

無論度重なる任務をこなし、訓練を怠らないロゥに付いて行ける者は未だに居ないのだが。

軍事外交官を育成する為に一定周期で入れ代わり立ち代わり三つの基地局を廻り、合間に日本に帰国すると云う忙しい日々を送る仲間と違い、ローワン、モク等軍事系は神藤中佐の手元に留め置かれている。

いざ事が起きた時に速攻で現場に送り込まれるためだったが、今まではジ-ンかコオと云った同期が必ずまだ若いローワンとモクを援護する形で組まれていた。

それが今回は無い。どころか戦闘系を否定するディランが帰国となった。

「ウルフに頼んでおくが短気は起こすなよ。」

そう繰り返してアフリカに飛び立ったコオと入れ替わりにディランが帰国した。

細やかな事件はその月のうちに起こった。


「今日も出るのか?」

通常作業着に着替えたモクに声を掛けてのはローワン、ディランが帰国してからほとんど毎日の様に夜遊びに出かけるモクを心配しての事だが、当のモクはうっすら笑っただけで身軽に出て行った。

背中を見送ったローワンが視線を転じるとそのディランと眼が合う。

「ローワン、奴は毎晩何処に行くんだ。」

黙ったままのローワンを更に問い質す。

「自分の立場が判っているのか奴は。G倶楽部員が事を起こしたら大事だぞ。」

「何も問題なんか起こさないさ、モクだって馬鹿じゃない。」

言い捨ててローワンは出て行った。



女が働いているバーは古くて気持ちの良い店だった。

使い込んで艶を放つカウンターに席は十も無い。

年季の入ったバーテンと由紀と云う名の女しか居ないこの店に初めて来てからもう一年近く経っていた。小一時間飲んで出ると連隊では無く路地裏に足を運ぶ。じきに女が小走りに追いつき女の部屋に向かうといつの間にか決まっていた。

決して泊まる事は無い。

門限の十二時までに帰営するのは自分なりにけじめをつけて居る心算だった。

「何か有ったの。」

「ああ、此処の方が落ち着くからな。」

顔を見せるのは今まで週に一度が良い処だったのが、この数日は続けて訪れている。

日頃酷く口数の少ない男に応えを期待した訳では無かったから返事が返された事に正直驚いた。

だからうっかり言葉が出てしまった。

「・・・あ、たまには泊まっていく?」

一年経っても会話らしい会話になった事も無いし、少し嬉しい言葉を貰って、つい・・・だが。

女の眼を見た視線は冷たい光しかなかった。

その後、女は何時もの様に見送る事も出来なかった。



「モク、欧州でジ-ンが呼んでる。」

神藤中佐の声に男はピクリと反応した。

欧州ではそう簡単に問題は起きないが、いざ事が起きると大事になる。

基地局としては厄介な位置にあった。

だが構えたモクに神藤は思いがけない言葉を告げる。

「外交武官として届け物をして、ついでにしばらく遊んでくればいい。」

「・・・何だそれは。」

不審そうな若い顔に神藤中佐は笑った。

「有給休暇と思えば良い、心配しなくても事が起きたらすぐに呼び戻すさ。」

要は息継ぎ期間だったのだろう。


甘える気は無かったがモクはパリのジ-ンの元で久しぶりに心身ともに寛いでいた。

「ディランはお前らを嫌ってる訳じゃ無い。イザとなれば武力行使を躊躇う事も無いし、それだけの腹も括ってる。が、それ以前に戦闘を回避するための努力を求めているんだよ。

そうで無ければ軍人にはならんだろう。」

一夜、酒のグラスを手にジ-ンが続ける。

「若いお前やローワンに一番きつい仕事を押し付けて居る様にも思えるんだろう。確かに否定は出来ないが。」

「解かったよ、お前も他の奴も心配して呉れるのは解かった。俺も出来るだけ努力とやらをしてみるさ。」

わざわざパリまで呼んでまで宥められるほど危うく見えたのかと思わず苦笑が浮かんだ。

ジ-ン達の気遣いは、仕事には長けていても若く人生経験の乏しい二人を護る優しさだと知って居る。だから反感など湧き様も無かった。

「奴も解かって居るんだ、お前達の存在が必要な事は。神藤中佐とも俺とも随分話し合ったからな。」

煙草に火を点けてジ-ンが薄く笑う。

「人がもっと成熟すればこんな仕事は無くなるはずだ。だが、今現在の俺達が手を引く訳には行かない。戦乱の最中で助けを求められたなら、その手を振る切る事は出来ない。手段を持っている俺達がそれを使わなくては意味が無いしな。もっとも日本人だけが対象とは少しばかり了見が狭いが、まぁ国家権力の最たる極みの軍人では文句も言えん。」

「何時か国境を超える事は可能なのか?」

綺麗な眼が僅かに伏せられた。

「さて、誰かがフラッグシップとなるなら。俺にはそんな勇気は無さそうだが。」

いつの日かそんな人間が現われるのだろうか。

モクの眼に自分たちよりも遥かに若いG倶楽部員が日本と云う枠を飛び出して働く画が見えた様な気がした。

「どちらにしろ俺達の生きてる間には実現しないだろうが、いつかは来る筈のその日の為に俺達に出来るのは一歩でも前に進んでおく事だけだ。」

戦闘専門でもモクの怜悧さはジ-ン等には疑う余地は無い。

東大を現役合格した頭脳だとディランに告げたと聞いてモクは困った様に眼を閉じる。

「だから受かっただけだって、卒業したなら威張りも出来るが講義の一つも受けて居ないんだぜ。あまり振れて呉れるなよ。」

東大医学部を首席で卒業したディランには片腹痛いだけだろうと思ってしまう。

だがジ-ンは、

「入らなきゃ出られんさ。ディランの奴は当然だが真面目に驚いていた。唯の組長の跡取りだと思っていたらしい。」

「唯の組長の跡取りもお払い箱にされた男で、今は唯の狙撃手だ。帰ったら訂正しておこう。」

笑いながらそう告げたがそれは実現しなかった。

帰国したモクを待ち構えていたのはごく私的な出来事、だがそこにはディランが絡んでいた。



「由紀は店を辞めたぞ。」

その言葉はモクが土産の小さな箱を通常作業着のポケットに入れて出ようとした背中に掛かった。一瞬何を云われたのか判らなかったモクだが、振り返るとディランの表情を消した顔がそこにあった。

「相談を受けてな、お前が本気なのか遊びなのか判らないと。俺に聞かれても答えようは無いが話を聞くうち・・・向こうの態度が少々おかしくなってきた。正門の前で張り込まれるのは俺の趣味では無いし、相手自体も俺の好みでも無いからな、そう告げたら居なくなった。お前が本気だったら謝るべきだと・・・」

モクは全く表情を変えないままディランを殴り倒していた。

更に掴みかかろうとするモクをローワンとウルフが両側から抑えるが、それすら振り切る勢いにローワンが怒鳴る。

「ギムリっ、中佐を呼べ!」

「止めろモク!」

帰りかけていたボニとライラも間に入るがモクはその手も払いのけてディランに迫った。

騒然とする中に神藤中佐の声が響いた。

「モク! 控えろ!!」

モクの顔色も表情も全く変化は無かったがその眼には滅多に見られない怒りの焔が揺らめき立って、その眼を真近に見たディランは蒼白な表情で立ちつくしていた。

「何が有った。」

神藤中佐の問いにもモクは答えず黙ったままディランを見つめている。

切れた唇を拳で拭いながらディランは神藤に眼を向けた。

「ディラン、部屋で待機しろ。モクは・・・おい!」

くるりと踵を返して出て行ったのはモク、その背中の余りの強さに神藤中佐でさえ追う事も出来なかった。


ディランがその店に偶然入ったのはモクがパリに発った日、優しげな顔立ちの由紀と云う女が小首を傾げて聞いたのは

『セイさんと同じ部隊の人みたい。』

特徴を聞けばすぐに解かる、そうだと云ってから話はモクの事に当然及んだ。

ディランが安心したのはモクが女に何も語って無い事だった。寝物語にG倶楽部の事を漏らす迂闊はさすがに踏んでいない。

「それは当然だろう、お前モクを其処まで馬鹿だと思ってるのか。」

強い言葉でローワンが眼を怒らせた。

「それで?」

神藤が促した。

いろいろと相談されたが当たり障りなく応えて行くうちに女の態度が変わって来たと云う。

「どうやらモクは真面に口も利かなかったらしい、適当に話させておけば女の気も済んだ筈なんだが。」

ディランの言に神藤中佐が僅かに笑う。

「余計な事を云わない様に、迂闊な事を云わない様に黙るしかなかったんだろう。奴はもともと口数の多い方じゃないし、何よりまだ若い。」

それにしても、と神藤中佐はディランを見返した。

「やり過ぎだ。適当に切り上げれば良かったんじゃないのか。奴からすれば怒るのは当然だ、謝っておけ。」

「無理だ。」

ローワンが口を挟んだ。

「モクは自分の事では滅多に怒らない。初年兵の頃どれほど罵られても気にもしなかった奴だ。そのモクがあれだけ怒るなら・・・ディラン、お前は地雷を踏んだと云う事だ。」

「地雷・・・?」

ローワンの冷たい視線が神藤中佐に向けられた。

「俺が云う事じゃ無いのは承知してるがディランを離した方が良い。次に何かあったら殺されるぞ。」

そのあまりに冷ややかな声にディランの表情が変わった。

「たかが女の一人でか、まして心変わりした女が消えたぐらいで・・・」

「ふざけるな!」

ローワンの手がディランの胸ぐらを掴みあげた。

「自分のやったことを棚に上げて、何だその言い草は!」

「ロゥ。」

ローワンは仲間に手を出す事は無い。

それは己の手が加減と云うものを出来ないと知って居たから。

だから神藤は一言でローワンを抑えられる。そしてローワンは、 

「お前に、モクの何が判る。」

吐き捨てる様に呟いて出て行った。


神藤中佐が下した判断でディランがバードと入れ替わりマレーシアに発ったのは翌日、バードがジ-ンと変わりジ-ンが帰国したがその結果さえモクにはどうでも良いかのような態度を貫いた。

だがローワンには、一言。

「ロゥ、奴を脅し上げたらしいな。」

返事も待たずに続けた。

「手は出すなよ、これは俺の借りだ。」





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