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white elephant

「坂木くんはぁ、高校ってどこに行くとぉ?」


「え?」


「出来たら一緒の高校に通いたいとけどぉ」


「……何で?」


「んもう、そんなん言わんでも分かるやろー?」


「いや、分んない。高校って自分の行きたいところを選ぶものだろ。それと、とりあえず腕、離してくれない?」


 え~、そんな冷たかことば言わんでよぉ~、と相手はクネクネして大きな胸をこすりつけてくる。……こいつ、名前なんだっけ。クラスメイトなことは分かってるんだけど。それよりもこいつが付けている香水が臭くて鼻がもげそうだ。


「うちな、本当に坂木くんと一緒の高校に行きたいんよぉ」


「……だから何で」


「だからぁ、うち、坂木くんのこと好きとやもん。だから一緒の学校に行きたかと。もう、ここまで言わせんでよ~」


 相手は上目づかいで俺を見上げてきた。……けばい。まつげがまるでタワシのようにワサワサしていて、一瞬子供の頃に捕まえた毛虫を思い出した。


「……悪いけど、俺、男子校だから」


 俺はそれだけ言うと相手の腕を振り払い背を向けて階段を下りる。大事な用があるからと呼び出された結果がこれだ。貴重な時間を無駄にしてしまった。腕にさっきの女の香水の香りが残っていて、俺は眉をしかめた。


 教室に戻ると、クラスの男どもに取り囲まれた。


「徹、どうだった?!」


「え、何が」


「告白されたんだろ? 片瀬に!」


 そうか。あの女は片瀬という名前だったのか。聞いても思い出せないところをみると、どうやら最初から知らなかったみたいだ。


「どこの高校に行くのかって聞かれた」


「ふんふん、それで?」


「なんでそんなこと聞くのかって言ったら、好きだから一緒の高校に行きたいって言われた」


「わぉ! それでそれで?!」


「男子校に行くからって、断った」


「えぇっ、何で?! 徹、彼女おったっけ? 好きな女でもいんの?」


「彼女も好きな女もいない」


「じゃあ、とりあえずOKすれば良かったったい。付き合いよけば好きになるかもしれんたい。片瀬はまぁまぁかわいかし、あの胸ばい」


 あの巨乳はいっぺんでいいから揉んでみたかなぁ、と周りの男が騒ぎたてる。しかも、すぐにヤラせてくるらしーぞ、それマジで? 俺もお願いしてみようかな、いやお前じゃ無理やけんやめとけ。


「……興味ない」


「えぇっ!」


 お前、もしかして……と周りの男が一斉に驚いて一歩退く。いや、男にも興味ないから、と言うと安心したようにまた一歩近づいてきた。


「お前、モテるのにもったいなかばい。背も高かし、顔もよかし。成績だって、スポーツだって出来るとに。クラスどころか学校中の女がお前に惚れとるとに」


 それは言いすぎだ。たまに告白されたり手紙を渡される程度でしかない。そう言うと、嫌味かよ、と言われた。


「何て言うか……必要だと思ったことがないんだよな。女って面倒じゃん。突然泣き出したり、かと思うと怒りだしたり。すれ違いざまにぶつかってきたり」


 俺がそう言うと、何故か肩をポンポンと慰めるように叩かれる。


「そっか、徹ちゃんはまだ人を好きになったことがないんだな。お前はずっとそのままでいてくれ!」


 徹ちゃんってなんだ、子供扱いか。

女を好きになったことがないのってそんなにおかしいか?

ついこの前まではみんな虫やボールに夢中だったじゃないか。


 好きだの嫌いだの言ってる時間があったら、勉強したり友達と遊んだりする方がよっぽど有意義だと思う。

別に恋愛が嫌いなわけじゃない。

恋愛映画だってよく見るし、俺だって人並みに性欲はある。


 ただ、俺には必要ない。

ただ、それだけだ。



white elephant:無用の長物

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