Be happy together
年下彼氏第43話「永遠と約束」の徹sideです。
綾乃さんの前にそれを差し出した時、彼女は何だこれはと明らかに不思議そうな表情を浮かべた。そしてそれが何かに気付いた瞬間、「えっ! えっ?!」と目を白黒させていて、それが面白くて少しの間俺は笑いを堪えながら見つめていた。
俺が弁護士を目指し始めたのは、いつのことだろう。
子供の頃の夢とは、真逆の職業。きっかけは、両親の死後に出会った高田さんと言う弁護士がくれた六法全書だと思う。
それはちゃんとしたものじゃなくて、何分の一にもコンパクトになっていた入門書のような物だったけど。俺はそれを何度も何度も、ページの端がボロボロになるまで読み込んだ。
その頃には、もう、俺は法律という不可解な物に心を囚われていたんだろう。ページとページの間に、何か大切な物が書かれている気がして陽が傾いていることにも気付かずに読み耽っていた。
そして中学校になって、図書館で本物の六法全書全書を見た時、そのあまりの分厚さに驚愕した事を思い出す。何度も借りてそれこそ丸暗記するくらい読んでいたら、呆れた時子さんがわざわざ大きな本屋まで行って買って来てくれた。そして、法律方面に明るい東京の大学のパンフレットまでも。
「徹くん、法学部だったの?!」
綾乃さんの言葉で、俺は我に返る。知らないのも当然、俺は大学の話を一切話さなかったからだ。ただでさえ俺達の間に横たわる歳の差の問題を、これ以上広げたくなかった。俺はそんなことちっとも気にしてない。だけど、前に一度話したら綾乃さんが少しだけ哀しそうな顔をしたんだ。自分では気付いて無いんだろうけどね。それ以来、俺は大学の話題を避けてきた。
そして俺はもう一つのプレゼントを差し出した。悩みに悩んでようやく決めた、透明な石が一つだけ付いた、彼女の未来を拘束したいと言う男の独占欲丸出しの輪っかを。
それは彼女が今身に付けてくれているネックレスにとてもよく合っていた。去年俺があげたプレゼントを律儀に着けて来てくれている、彼女の気持ちが嬉しかった。
「僕と結婚して下さい」
いつも一人称は俺なのに、この時は緊張して僕、になってしまった。そんな肝心なとこでいつも決まらない俺なのに、彼女はすごく驚きながらも、一切の躊躇はせずにYESの返事をくれた。
幸せになろうと言った俺に、もうこれ以上ないくらいに幸せだと言いきった綾乃さん。俺はレストランの中だというのに、今すぐ抱きしめたくて仕方無かった。
彼女が幸せを感じてるのは、俺のせい。その事実がこんなに嬉しいなんて。きっとそれ以上に俺が幸せな事を、彼女は知らないんだろう。
今までも不遇も、彼女に出会うためだったと思えば子供の頃の俺は救われる。今の俺だからこそ、きっと彼女の得難さが分かったんだと思うから。
お父さん、お母さん、そして時子さん。
夏に墓前で綾乃さんを彼女だって紹介したの、覚えてるよね。
もうすぐ――といってもだいぶ先にありそうだけど。
いつか、俺のお嫁さんになってくれるってさ。
何だかこんなこと言うのは恥ずかしいけど。
俺、今とってもとっても幸せな気持ちで一杯なんだ。
だから、これからは俺だけじゃなく、俺達二人を見守ってて欲しい。
俺は目の前で指輪を見つめて涙ぐみながら微笑む綾乃さんに見惚れた。
きっとこれからもずっと俺は彼女から目が離せないんだろう。
坂木徹、19歳は、榊綾乃、あなたを全身全霊で愛する事を誓います。
なんて、結婚式の誓いの言葉みたいだね。
ねぇ、綾乃さん。
俺達はとても素敵な恋をしてると思わない?
たくさん迷って悩んで、そしてここに辿り着いた。
あなたとなら、未来を描ける気がするんだ。
だから、一緒に生きていこうよ。
二人ならきっと、永遠を見つけられる。
そして、いつかこう言うんだ。
俺達の出会いは、確かに運命だったね、って。
遠い未来の、その先で―――。
Be happy together:一緒に幸せになろう




