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愛しき時間たち

 夏休みは稼ぎ時だ。

普段は大学の講義があるせいで長時間勤務は難しいものがあり、なかなか稼げない。学費は心配ないものの、その他にも家賃、光熱費、友達との交際費など、お金はいくらあっても余る事は無い。綾乃さんとのデートも絶対にケチりたくない。ということで、バイトの労働時間の制限ギリギリまで働いた。


 その他にも短期のものを掛け持ちでいくつかやった。

夏はイベント目白押し、仕事には事欠かない。内容は野外ライブの会場設営や引越の荷物運搬、選挙の出口調査なんてものまで。選挙権も無いのにね。


 そして今日は久々の完全オフ。そして綾乃さんとのデート。

毎日のように店で会っていたのに、こうやって外で待ち合わせして会うのは少し照れくさい。


 楽しみにせいていたせいか、予定より大分早く目覚めてしまった。

そして、家に居てもそわそわ落ち着かないから、待ち合わせの時刻よりずっと早く公園へと向かう。日差しが暑すぎて、俺は涼を求めて日陰になっている噴水の傍に座った。噴水からスチームのような冷気が来て、少しだけほっとする。

 九州人は南に住んでるんだから暑さに強いだろ、とこっちに来てよく言われるけど、そんなこともない。むしろコンクリートの照り返しがひどいこっちの方がより暑い気がする。木陰に入っても全く涼しくならない。


 人を待つ、というのは実はあまり得意じゃない。待っている時間が長ければ長いほど不安が大きくなるから。

 だけど、綾乃さんは別。待ってる時間さえ愛おしいと感じる。

でも今日はそんなに待つことなく綾乃さんは現れた。ごめんね、と謝りながら走り寄る綾乃さんを見ると幸せが込み上げる。俺を眩しそうに見上げる彼女を、俺も愛しさを込めて見つめる。


 綾乃さんは少し痩せたみたいだ。そういえば去年の夏も、そして冬も痩せてた気がする。冬は…まぁ色々あったから仕方ないにしても、夏バテするタイプみたいだ。

 今日は何か食べやすくて栄養があるものを一緒に食べようかな。といっても何が栄養付くのかさっぱり分かんないけど。肉! 丼ぶり! ってワケにもいかないんだろうなぁ。


「見つけた、徹ちゃん!」


 前方から聞いた事のある声が聞こえて視線を向けると、莉衣菜(りいな)が立っていた。福岡に居るはずの、俺の従妹。父の弟・正臣の娘。俺とは2歳離れていて、たしか今は高校3年生のはず。聞くと、莉衣菜はオープンキャンパスで東京に来たらしい。そうか、もうそんな時期か。


 俺はそういうイベントに一切参加することなく試験も福岡で受けたから、大学を実際にこの目で見たのは家探しのために上京してきた時のついでに、だった。

 無駄に広いしキャンパスがいくつも別れてるし、大変そうだなと言うのが第一印象だった。1年半程前のことなのにもう遠い事のように感じる。

 正臣おじさんとは遺産相続の一件以来、険悪な感じで過ごしていたため、莉衣菜とも自然に疎遠になってしまっていた。会うのは2年半ぶりか、すっかり見違えた。


 俺が綾乃さんを彼女だと紹介すると、莉衣菜は少し不満げな顔をした。きっと親戚のお兄ちゃんを取られたみたいで複雑な気持ちなんだろう。俺達は一人っ子同士だから、互いを少しだけ兄妹のように思っていた。特に莉衣菜はそうだったと思う。

 俺ももし莉衣菜に彼氏が出来たと知ったら、心配でしょうがないと思う。だって、ほら、男の衝動ってやつをよく知っているからね。


 莉衣菜は一緒に映画に行きたいと言いだした。初めての一人旅に不安になっているのだろう。本当は綾乃さんと二人が良かったけどしょうがない。

綾乃さんが断ってくれたら、という甘い期待も早々に打ち砕かれたし。

綾乃さんと莉衣菜は最初ギクシャクしていたようだけど、一晩過ぎると仲良くなっていたようだ。


 呼び方も『莉衣菜さん』が『莉衣菜ちゃん』に変わっていた。

俺が中々泊まれない綾乃さんの家に泊まるなんて、何かズルイと思ってしまう俺は心が狭いんだろうな。


 まぁ、でもこれで親戚付き合いの輪に綾乃さんはすんなり入ったわけだし。

誰にも反対なんてさせないけど、もしもの時は莉衣菜が味方になってくれるだろう。

 なんてことを考えて、俺は一人こっそりとほくそ笑んだ。



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