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初恋記念日

年下彼氏の第37部「深夜のキス」~38部「lovely anniversary」あたりのお話です。

 綾乃さんが、おかしい。


 面白いって事じゃ無くて正確に言うと、挙動不審。

話しかけても気もそぞろで、ううとかあぁとか意味不明なうわ言を口走る。

 そして、無意識にその視線は俺の唇あたりに留まり、はっと我に返って赤面してる。ほら、今も。


「いつもの所で待ってるね」


 耳元で囁くと目に見えて頬を赤く染め上げる。まるでリトマス反応みたいに俺が近付くとその色を変える。

綾乃さんが、おかしい。今度は面白いっていう意味で。

こんなに遊べる人だとは出会った時は考えもしなかった。


 原因は、分かってる。

事の発端は1カ月も前。

その頃俺は、綾乃さんを見るたびに押し倒したくなる衝動に駆られていて、それを押さえるためになるべく接触を避けていた。送る時も玄関まで。お別れのキスなんかしようものなら、止まらなくなる自信があった。


 ―――それがどうやら、綾乃さんは不満だったらしい。


『最近キスしてくれない』


 そう拗ねた顔で甘えた綾乃さんは、悪魔のようにかわいかった。

そんな風に思ってくれていたなんて知らなかった。欲しがってるのは、いつも俺だけだと思ってた。


 そんな無防備なあなたの顔を誰にも見せたくない。

俺に対してだけ。俺だけの特権。それがこんなにも嬉しく感じるなんて。だから俺は何度も綾乃さんの反応を伺ってしまう。それが好かれている証拠に見えるから。


 それにしても、綾乃さん大丈夫かな。将来的にもっとすごいことするんだけどなぁ。まさか、コトに至る前に気絶したりしないよね? それはちょっと勘弁だなぁ。

これは特訓が必要だね。もっともっと綾乃さんを俺に慣れさせないとね?

あぁ、ヤバイ、これ、超楽しい。




 今日は俺の、初恋記念日。

ちょうど一年前のこの日に、俺は綾乃さんに恋をした。いや、とっくに始まっていた恋を、自覚した日だ。


 俺にとっての恋は、イコール独占欲だった。

誰も求めない、何も期待しない。そう思って生きてきた俺が、唯一誰にも渡したくないと思った(ひと)

 初めての感情に俺は戸惑ったっけ。気付いたら、特に理由も無いのに目線が、心が彼女にどうしようもなく引きつけられていた。

 必死だった、どうすればこの人が手に入る?俺のものになってくれる?そして彼女の弱みに付け込んだ。我ながら、なんてあざとい。


 だけどそんな俺の狡さを綾乃さんは全然覚えて無くって、拍子抜けだった。

俺のなけなしの良心と罪悪感を『そうだったっけ?』の一言で吹き飛ばしてしまった。

彼女はたった一言で、俺を変える。天国へも地獄へも。

全く、きっと俺は一生彼女に適わないんだろうな。


「鉄板がお熱いのでお気を付けください」


「あ、ありがとうございます」


 ウエイトレスさんが注文していた料理を運んで来て、綾乃さんがお礼を言った。

 レジでお会計をしてもらう時や、コンビニの入口で開けて待っててくれる人が居る時、綾乃さんは必ず相手の目を見てお礼を言う。

 そんな綾乃さんをとても好ましいと思う。誰もが見落とすような何気ない事だけど、客商売をしていてそれが必ずしも当たり前じゃないと俺は分かっていた。

 女性としてだけじゃなく、人間(ひと)としてもすごく好きだ。

こんなに好きだと思える人に出会えて、俺はとても幸せだと思う。


「綾乃さん、いつか、もう少し俺にもっと自信が持てるようになったら―――いや、何でも無い」


 埒も明かない事を口走りそうになって、慌てて言葉を打ち消した。

不確定な約束なら、しない方がいい。


 でも、きっと、いつか。

いつか、自分にほんの少しでも自信が持てるようになったら。

あなたを攫いに行ってもいいですか?

あなたの隣に並びたいんだ。隣が無理なら、追いかけ続けるよ。


 だから、その時は。

お願いだから、断らないで。

あなたに拒絶されたら、もう俺はどうしていいか分からなくなる。

だから、綾乃さん。

ただ頷いて欲しい。


 YES、と―――。



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