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同病相哀れむ?

順番前後しましたが、年下彼氏34部「成長は、痛みを伴う」の徹Sideです。時系列的にはお花見の後(4月下旬)の話です。

「……何か用ですか」


「そう警戒するなよ」


 いつものように非常階段で休憩を取っていると、あの男(竹島)が現れた。

清潔感のある隙のないスーツ姿。ハンカチにもアイロンがかかっていそうだな。見るからに体育会系なのにこの無駄なきちんと感は一体どこから来るんだろう。

 竹島は了解も取らずに空席のパイプ椅子に座り、ポケットから煙草を出して火を付けた。二人の距離は1メートル弱。真ん中にはスタンド式の灰皿のみ。気まずさ、いや、不快さは目一杯。


「……煙草、吸うんですね」


「たまにね。現役時代は吸わなかったんだけどね」


 背筋が真っ直ぐで逞しい体つきから、何か運動をやっていたのだろうとは漠然と思っていたが、彼の言葉から推測するとけっこういいセン行ってたのかもしれない。何の競技かは知らないけれど。

 たまにとは言いつつも火をつける仕草が様になっている。話すことも無いので、事務所に戻ろうと腰を上げかけた時だった。


「彼女に、キッパリとフラれたよ」


 その言葉で俺の動きが止まる。竹島が言う『彼女』は綾乃さん以外有り得ない。俺の気持ちに応えてくれた以上、竹島と切れてるのは分かっていたけれど、具体的にどうやって諦めさせたのかは聞いていなかった。……聞きたくなかったから、聞かなかったというのが正解か。


「先日、呼び出されてね。そりゃもうバッサリと、気持ち良いくらいにね。……彼女は、俺に謝らなかった。涙すら、見せなかった」


「え……」


 綾乃さんが謝らないなんて。俺は驚きを隠せなかった。あの人は自分が悪くなくても反射で謝ってしまうような人なのに。おまけに泣き虫。それなのに涙一つ見せなかった、だって?そう目で問うていたのだろう、竹島は一つ頷くと答えをくれた。


「全ての泥を、自分で被ったよ。正直、彼女がここまで強い(ひと)だとは思わなかった」


「……強いですよ、彼女は」


 俺なんかより、ずっと。

今になって言うのもアレだけど、そう前置きして、


「最初に声を掛けた時は、まだそこまで本気じゃなかった。かわいくて仕事に一生懸命な彼女を好ましいと思ってはいたけれど。本気になったのは……君との関係を知ってからだ。恋愛に思い悩む彼女を守りたいってね。俺なら守ってやれるとさえ思ってた。だけど、お門違いだったみたいだ」


「……」


「いや、違うな。君のことを知る前から、俺は彼女から目が離せなくなっていたな。見るたびに綺麗になっていたから。……今思えば、もしかすると俺は君に恋をする彼女を見て、彼女に恋をしたのかもしれない」


 負け惜しみかもしれないけどね、そう言って竹島は自嘲する。煙草の煙が棚引いて大気に溶けた。


「俺なりに精一杯やったから、悔いはない。途中、少しズルイ手を使ったことを謝るよ。それだけ伝えておきたかった」


 ズルい手?

何のことか分からずに俺は記憶を過去まで遡らせた。

綾乃さんが俺の気持ちを信用していないことを俺に告げ口したことだろうか?

それとも、俺と離れている間に傷心の彼女に近づいたことだろうか。


 ……どっちにせよ。

ったく、こいつどこまでスポーツマンシップに則るつもりだよ? 潔すぎて俺には到底真似できない。

 俺だったら子供が駄々をこねるように形振り構わず縋りつく。恋愛はスポーツじゃない。どんな汚い手を使ったって、手に入れた者の勝ちだ。

 にもかかわらず、竹島は悔いが無いと言い切った。まだめちゃくちゃ綾乃さんのことが好きなくせに。それなのに相手の幸せを願って身を引くなんて、大人すぎて腹が立つくらいだ。頼むから、あんまり俺との格の差を見せつけないでよ。


 くそ、ちょっとかっこいい、とか思ってしまうじゃないか。そんなこと考える自分にも腹が立つな。


 煙草を吸い終わった竹島は、邪魔したね、と灰皿で火を消して立ち上がった。


「そうだ、坂木くんって運動得意?」


「は?」


 立ち去るかと思われた竹島は売り場へと続くドアに手を掛けて振り返った。


「フットサル、一緒にやらないか?」


 今度の日曜試合なんだ、メンバーが足りなくなりそうだから、頼むよ。

そう言った竹島からは、何の気負いも感じられなかった。


「……はぁ?」


 全く、恋敵(ライバル)を誘うなんてどんな神経してるんだ、こいつは。

危うく芽生えかけていた尊敬にも似た気持ちをすぐさま消し去る。


 俺は一生竹島(こいつ)を理解出来ないんだろうな、と思って、少し笑った。

ほんの少しだけね。



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