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覚めない、夢

 コーチと急いで病院に行くと、受付に居た年配の看護婦さんに、何故か手術室ではなく薄暗い地下に案内された。「あの、手術室に行きたいんですが。坂木のご両親が手術中って聞いたんですけど」とコーチが焦った様子で看護婦さんに話しかけた。でも婦長さんは「いえ、こちらです」と無表情に答えるばかり。

 コーチは何でそんなに不安そうな顔をしているんだろう? と不審に思いながらもついて行くと、廊下の一番奥にあるドアの前で止まった。ドアの上の方には「霊安室」って書いてあった。


―――霊安室。僕でもテレビで見て知っている。


 頭の奥が麻痺したように動かない。看護婦さんは「奥へどうぞ」と感情を殺した声でコーチに言った。コーチはその場から動かないので僕が部屋に入った。ヒヤッとした空気と、お線香の匂い。部屋の中には、鉄のような素材で出来たテーブルが二つ。その上には緑のビニールで覆われた何か(・・)が横たわっていた。そんな、まさか。


 その時、遠くの方から乱暴な足音が聞こえたかと思うと、「警察です。ご家族に事故について詳しく話を聞きたいんですが……」と部屋の中を覗きこんだ。くたびれたスーツを着たおじさんは僕が一人で部屋の中に居るのを見ると、「見ちゃいかん! 子供が見るもんじゃない!」と慌てて駆け寄って後ろから目を隠した。そして「大人が付いていながら、何やってるんだ!」と廊下にいるコーチを怒鳴る。


「おじさん。……あれは、お父さんとお母さんなの?」


「……」


「違うよね?」


「……持ち物から、坂木忠臣さんと仁美さんだと言う事が判明した……」


「嘘だ!」


 僕はおじさんの腕を振り切り、二つのテーブルに駆け寄った。嘘だ、嘘に決まってる。お父さんとお母さんのはずがないじゃないか。だって、約束したもん。試合見に来てくれるって。徹の初試合だからって。


「ダメだっ! 君、やめなさいっ!!」


 おじさんの言葉を無視して、僕は緑のビニールシートを思いっきりめくった。

 

 ……そこにあったのは、真っ白なお母さんの顔、だった。


 徹が野球をやり始めたせいで私まで日に焼けちゃったわ、と日に焼けた肌を気にしていたお母さんは、まるで白いペンキを塗ったみたいに白く、そして固く目を閉じていた。

 僕は震える手で、もう一つのビニールをめくる。


 ……お父さん……


 そこにはガハハと大きく口を開けて笑うはずのお父さんが、いた。見たこともないような、真面目な顔で、お母さんみたいにまっ白だった。


「お父様のお体はご覧にならない方がよろしいかと」と能面のような顔をした看護婦が言う。「奥様をかばわれたようで……」


「それ以上は言うな」


 おじさんが看護婦の言葉を鋭く制止すると僕に近寄り、もういいだろう、といって部屋から連れ出した。廊下で固まっていたコーチが僕を抱きしめてきたけど、僕は今見た光景が目に焼き付いて離れなかった。


 嘘、なんでしょう?皆で僕を、からかっているんでしょう?

悪いけど、ちっとも笑えないよ?

本物のお父さんとお母さんはどこに隠れているの?


 そこで、僕の意識はふっつりと途絶えた。


 起きたらきっと、お母さんの鼻歌が聞こえるはずだ。

そうして、徹~朝ご飯出来たからお父さんを起こしてきて~、って言ってくれるはず。

 お父さんは布団をかぶりながら、う~ん、あと5分寝かしてくれよ~頼むよ徹~って僕に駄々をこねるんだ。


 どっちが子供だか分かんない駄々を。



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