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託された願いと絆

ままならない恋~年下彼氏~31部の後半部分です。

「綾乃、お茶を買って来てくれないか?」


 綾乃さんの父親、孝太郎さんはその言葉で彼女を病室から遠ざけた。

過労で倒れた孝太郎さんは、夜中に目覚めたという。

 昨日はたくさん付けられていた医療器具も外され、今では点滴だけになっていた。


 良かった。これから行われる検査の結果次第だけど、命に別条はなさそうだ。


 目を開けた孝太郎さんは厳めしい顔をした男性だったけれど、啓太と同様に目元が綾乃さんに似ていた。……違うな。綾乃さんが父親に似てるのか。

 綾乃さんがしぶしぶ財布片手に部屋を出ると、孝太郎さんは美鈴さんの手を借りてベッドの上に起き上がった。すぐさま孝太郎さんの直球の質問が飛んで来る。


「それで、君。綾乃とはどういう?」


「だから、ねーちゃんのカレシ……」


「啓太は黙ってなさい」


 孝太郎さんが啓太の発言を遮ると、啓太はちぇっと言って口を閉じた。それを確認して孝太郎さんは俺に向き直った。射すくめるような鋭い目に怯みそうになりながらも、俺は彼の目を見てはっきりと告げた。


「以前、お付き合いをさせていただいていました」


「「以前?!」」


 美鈴さんと啓太の声がハモるように病室内に響き、またもや睨まれて二人とも黙りこむ。でも目は興味津々、といった感じだ。


「どういうことかね?」


「僕が先に綾乃さんのことを好きになって、想いを伝えて付き合うようになりました。だけど、僕が未熟だったために彼女から離れてしまいました」


「……」


「ですが、僕は出来ることならまた綾乃さんとお付き合いしたいと考えてます」


 よく考えなくても、我ながらひどい事を言っているなと思う。あなたの娘に言い寄ったのも、別れを告げたのも自分だと言ったんだ。人相が変わるまで殴られてもしょうがないだろうな。だけど彼はそうせずに質問を重ねた。


「君はまだ若いようだし、見た目も整っている。別に、うちの娘じゃなくても良いんじゃないか?」


 その言葉に俺は少しだけ語気を荒くして答えた。身内の謙遜なのは分かっている。だけど。


「綾乃さんは素晴らしい女性です。彼女以外は考えられません」


 綾乃さんじゃないと駄目なのは俺の方だ。

きっと彼女には俺なんかよりも似合いの男がたくさんいるんだろう。

 だけど、俺にとって綾乃さんは唯一無二の存在。

代わりなんて誰にも出来ないんだ。

 自分勝手な話だけど、離れてみてよく分かった。

どこが、とか、何が、とかじゃなく。俺の魂が、彼女を求めているんだって。


 孝太郎さんは俺の言葉を聞いて長い時間黙りこみ、そして静かに問うた。


「君は……綾乃(あれ)に何を望む?」


 俺が綾乃さんに望んでいること、だって?

何て難しい質問なんだろう。

傍にいて欲しい、笑って欲しい。

俺だけを見ていて欲しい。

もう一度俺を選んで欲しい。

数え上げたらキリがない。


「俺は……」


 僕という余所行きの言葉はもう必要ない。この人は、俺の本音を求めているのだから。


「俺が、彼女に望むことは……生きていること、です」


「生きていること、だって?」


「はい。もちろん、他にもたくさん望みはあるんだと思います。だけど……彼女が生きてさえいてくれたら。それだけで、俺は幸せです」


 大切な誰かが、生きていてくれること。

それは、何事にも代えがたい奇跡なんだ。

 想像したくもない話だけど、もし離れ離れになったとしても、彼女がこの世界のどこかで生きている、そう思うだけで俺はこの先の人生を歩んでいける。


「生きてさえいてくれたら、か……」


 孝太郎さんは俺の答えを聞いて、ふう、と息を吐き出した。一瞬だけ、その目がまるでここではないどこかへと想いを馳せているようだった。すぐに頭を軽く振り、こちらに視線を戻す。


「アレは結構頑固で大変だと思うが……」


「あなたに似てね」「オヤジに似てな!」


 事の成り行きを固唾を飲んで見守っていた美鈴さんと啓太のツッコミに、うるさい、と小声で怒鳴ると、孝太郎さんはベッドの上から頭を下げた。


「うちの娘を……頼みます」


 その言葉に、美鈴さんと啓太も慌てて頭を下げる。


 許されたの……だろうか。

言葉足らずな俺の言葉は、彼の中の何かを動かせたのだろうか。

 分からない。

だけど、例え許されなくても、俺の気持ちはもう固まっているんだ。


 俺は厳粛な気持ちでより深く頭を下げた。



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