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悪夢の始まり

 今日は僕が所属する、リトルリーグ『イーグルズ』の交流試合だ。対戦相手は隣町のチーム『ブルードラゴン』。午前中は小学校3~4年の中学年チーム、午後は5~6年の高学年チームで対抗することになってて、3年生の僕は朝からコージのお母さんの車で隣町のグランドに遠征に来ている。


 いつも休日出勤をしているお父さんが珍しく休みを取れたから、今日はお母さんとお弁当を作って来てくれることになっている。ほんとは朝から一緒に来る予定だったんだけど、お母さんが寝坊してしまったんだ。何でも、僕が今回初めて試合に出るから、お母さんは昨日の夜緊張して眠れなかったんだそうだ。まったく、試合に出るのは僕なのに、どうしてお母さんが緊張するんだろうね? お父さんもあきれ顔だったよ。

ごめーん、今からお弁当作って試合に間に合うように行くから、先に行ってて~と言われて慌ててコージの家に電話したんだ。あ、コージっていうのはチームメイトで、学校は違うけどすっごく気が合うヤツなんだ。僕はピッチャーで、コージはキャッチャー。体がすごくデカくておまけに体力もすごいからうらやましい。ほんのちょっぴりだけどね。


「おい、徹、そろそろ試合始まるぞ」


「あ、うん……」


 おかしいな、お父さんとお母さん、まだ来てないみたい。草が青々と茂った土手にはイーグルズとブルードラゴンのメンバーの家族が大勢押し寄せ、レジャーシートを敷いてピクニック気分で応援している。お母さん、お弁当作るのに時間がかかったのかな? それとも、隣町だからお父さんが道に迷っちゃったのかも?

 まぁ、そのうち来るだろう。二人が来るまでに三振をいっぱい取ってびっくりさせてやるんだから!


「プレイボール!」


青空に響き渡った審判の掛け声で試合が始まった。第一球、投げました! あ、ボール……ちょっと腕に力が入っちゃったかな……。気を取り直して、第二球! ……よしっ、ストライク! コージの返球も力がみなぎっている。今日はけっこういいセン行きそうな気がするよ!

 その後もストライクを投げ続け、バントで当てられたものの、ピッチャーゴロだったから一塁に送球して難なくアウトを取って攻守交代になった。

 仲間の歓声を受けながら観客席に目を走らせたけどまだ来てないみたい。僕の打席が回ってくる頃にはワンアウトで走者が1,2塁に居た。ここで僕が打てば初得点になるかもしれない。グリップを握る手に緊張が走る。一球目、ボール。二球目も、ボール。僕はつばを飲み込んだ。相手が帽子をかぶり直し、三球目を投げた。来た、真ん中ドンピシャ―――!!

 僕はバットに当てた球をその勢いのまま腰を回してグランドに送り返した。カキーン、と澄んだ音がして一直線に二三塁間にボールが吸い込まれていく。バックネットが無いけど、これは明らかにホームランだ!! 一気に3点を我がイーグルズが先取し、チームはもう勝利を手にしたかのように沸き上がった。興奮状態で塁を周り、ホームベースを踏むとチームの奴らが一斉に押し寄せてきた。わわっ、苦しいよ。あっ、コージ、今僕のこと殴っただろ?


「よくやった! この調子で最後まで行くぞ!」


「はいっ!」


 コーチが僕を褒め、お前らも後に続けぇ! っと叫んだ時、コーチのポケットに入っていた携帯電話が音を立てて鳴り始めた。日曜のこんな朝っぱらから誰だよ、と悪態をつきながら電話に出たコーチは相手の声に「あ、はい。イーグルズコーチの前田です。……ええっ? そんな、まさか……。で、今どこに……」と言いながら不機嫌な顔をみるみる悲痛な顔に変えた。


「どうしたんだろうな、コーチ?」


「さぁ……」


 ただならぬコーチの様子に周りがざわつき始めると、コーチが通話を終え、僕の方をためらいがちに見た。


「坂木」


「はい?」


「……お前のご両親がここに向かう途中で事故に遭われたそうだ。今、緊急病院に運ばれて手術を受けている。今から俺と一緒に病院に行くぞ」


「……え?」


 その言葉で、周囲のざわつきが一気に静寂へと変わる。何を言われたのか、僕には分からなかった。お父さんとお母さんが、事故に遭った? そんなの嘘だよ。だって二人はもうすぐここに来るはずだもの。お弁当を持って、僕の試合を見に。待ってて、ってそう言ったんだもの。


 そう思っているのに、僕の体は何故か体はガタガタと震えだした。

悪い夢なら覚めてくれ。こんなの、こんなの、現実じゃないんだから。



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