HAPPY BIRTHDAY TO YOU
ままならない恋~年下彼氏~第16部「涙のサプライズ」の徹sideです。
綾乃さんの誕生日当日。
この前食事に誘った時、彼女は普段と何ら変わりない態度でOKしてくれた。俺がサプライズするってバレてる?分かった上で素知らぬ顔をしてくれてる?そう思ったけど、綾乃さんは俺がいつもよりちゃんとした格好をしてきても、レストランに着いても、何が何だか分からない様子だった。
これはあれだ、まさかの自分の誕生日を忘れてるパターンだ。えぇ~? って思った。誕生日って、忘れるようなものかな? 確かに俺も大学生になって、日付とか曜日とかの感覚がすごく鈍ってきてるのは認めるけどさ。
でも、忘れてたぶん、綾乃さんはとても感動してくれたみたい。
俺が花束を差し出した時――これを花屋からレストランに持っていくのに時間がかかって待ち合わせに遅刻してしまった――その目は驚きに見開かれ、すぐに緩んだ。
花言葉を聞かれるとは思わなかった。知らないと言えばよかったのに、とっさに「聞きたい?」と言ってしまったのは俺の失敗かもしれない。おかげで、クールに決めるはずだったのが台無しになった。
「ずっと、そばにいてほしい」
俺がそう言うと、綾乃さんはくしゃりと顔をゆがませて涙を流し始めた。こぼれ出た涙はあとからあとから溢れてくる。喜んでもらおうと思ったのに、泣かせてしまった。泣かせたら承知しないわよ、という真理子さんの喝が頭をよぎる。でも、悲しませてるわけじゃないからセーフ……だよね?
綾乃さんは自分が7つ年上なことを気にしてるみたいだけど、気にしてるのは俺の方だ。俺はちっぽけで、ちっとも大人っぽくなくて、収入も無い、社会的立場も無い、そして何かあれば叩かれるのは彼女の方。どうして同い年で生まれてこなかったんだろうっていつも思ってる。
でもさ、俺が俺で、綾乃さんが綾乃さんだったから、俺たちは今ここにいる。
今までお互いを造り上げてきたものが一つでも欠けたら、現在が変わっていたかもしれない。
そう考えたら、今までの俺が少し報われる気もするんだ。辛いことがあったのも、彼女の大切さに気付くため。恋を知らずに生きてきたのも、彼女と恋に落ちるため。
ね、綾乃さんもそう思わない?
いくつになったのか、分かっていながら尋ねると、綾乃さんは泣きながら怒った……拗ねた? にこにこしてたら、もう、私は怒ってるのに何で笑ってるの、という表情で睨まれた。だって、そんな顔も可愛いと思ってしまうからしょうがない。
帰り道、綾乃さんは花束をずっと愛おしそうに見ていた。
あんまり幸せそうに笑うから、もう一つのプレゼントを渡すタイミングを見失ってしまった。綾乃さんのイメージに合うものが中々見つからなくて、いくつもの店をはしごしてやっと見つけたネックレス。
「元は南米原産の花なんだけど、ヨーロッパの方で人気なんだって。ほら、テレビで見たことない? 大きな籠みたいな植木鉢に寄せ植えされてるやつ」
こっちを見てほしくて、言わなくてもいい蘊蓄を語ってしまった。誕生花を調べるついでに得た知識だ。
「ああ、見たことある! よく家の壁に吊り下げられてるよね」
「そうそう。特にイギリスでは街全体で花を飾るみたいだよ」
「へぇ~。見てみたいなぁ」
何の気なしに言われた言葉に、俺は少し鼓動が速まった。
「……いつか見に行く? 二人で」
やば、二人で、の部分をさりげなく言えなかったかも。
「うん。行きたい」
だけど綾乃さんは少し黙りこんだ後にふわりと微笑んでくれた。
まだ来ない未来の約束。
二人で思い出を一つ一つ重ねっていって、いつかそこにたどり着けるといい。




