応援、それとも牽制?
ままならない恋~年下彼氏~第15部「友人の評価」の徹Sideです。
「会って欲しい人がいるの」
開口一番に綾乃さんがそう言った時は正直驚いた。えっ? これって、私の両親に会ってほしいのパターン? ……色々と、急すぎない? あれでしょ、お父さんお譲さんをくださいって言ったら、お前にお父さんと呼ばれる筋合いはなーい! 父激怒、みたいな。
「え……?」
「あのね、真理子…あ、大学の頃からの友達なんだけど。今度の土曜日一緒に遊びに行かないかって……その、愛華ちゃんってすっごくかわいい娘がいてね……」
しどろもどろに一生懸命説明する綾乃さんの話を聞いて、自分の勘違いだったことが分かった。要約すると、4人で動物園モドキの公園に行こう、ということらしい。ご両親に会うことに比べたら、女友達に会うなんて大したことじゃない。俺は二つ返事で了承した。
真理子さんは、少し童顔で清楚な雰囲気の綾乃さんと違って華やかな美人だった。長くカールした髪を左耳の所で緩く結んでいる。娘の愛華ちゃんも3~4歳くらいだろうか。母親似のかわいい顔をしている。よごれてもいいようにだろう、女の子らしくリボンの模様が入っている長袖と長ズボンの完全装備だ。
「初めまして、坂木徹です」
俺がそう言って軽く頭を下げ、目を合わせると、真理子さんはじいっと俺を観察した後でようやく挨拶を返してくれた。……今、俺、値踏みされた? あれ、これって俺が綾乃さんにふさわしいかどうかの試験か何かなのか? 思わずゴクリと喉が鳴った。
「これが私の娘の愛華よ~」
恥ずかしがり屋らしい愛華ちゃんは、真理子さんの後ろに隠れている。この段階で、俺は正直困った、と思っていた。今まで子供と話す機会なんて皆無だったから、どう接すればいいのかが分からない。愛華ちゃんと目が合うと、明らかに警戒している目をしている。
俺が無駄にデカいから怖いのかも? とりあえずしゃがんでみる。
「はじめまして、愛華ちゃん。今日はお兄さんと一緒に遊んでくれるかな?」
怖がらせないように目線を合わせてにっこり笑ってみた。
「ほら、愛華。徹お兄ちゃんが遊んでくれるって。こんにちはしなさい」
「とお……にちゃん?」
「うん、そうだよ」
俺が頷くと、愛華ちゃんは笑顔になって、とおちゃん! と叫んでにっこりと笑った。
徹なんだけど、と言ってみたけど、もう愛華ちゃんの中でおれは『とおちゃん』でインプットされてしまったらしい。お父さんと呼ばれてるみたいでちょっとフクザツだ。でも、次第に愛華ちゃんが懐いてくれるのが手に取るように分かって、嬉しかった。
愛華ちゃんは、俺を、綾乃さんを、真理子さんを呼びながらそこらじゅうを駆け回る。
「こら、暴れるなっ! ほーら、捕まえたっ!」
いつの間にか俺も夢中になって遊んでいた。捕まえた愛華ちゃんの体はとても温かかった。
その時に思ったんだ。
あぁ、親に愛されて育った子共って、こうなんだなって。
ううん、俺だってちゃんと両親に愛されてたんだ。
俺は、大好きだった二人の死で心を閉ざしてしまった。
時子さんにも甘えちゃいけないって自分に言い聞かせてたけど、もっと思いっきり甘えてみれば良かったのかもしれないな。
ご飯も遠慮せずにもっとおかわりしてみれば良かったんだ。
ただいまー、お腹すいた、夕飯何ー?ってさ。
真理子さんが俺に言った言葉がある。それは、綾乃さんが愛華ちゃんにせがまれてソフトクリームを買いに行ってしまって、俺と真理子さんの二人きりになった時。
「綾乃を泣かせたら、承知しないからね」
とたった一言。
「……了解です」
「頼んだわよ」
真理子さんは笑顔で俺の背中をバシンと叩いた。うわ、めちゃくちゃ痛ぇ。
何だ。結局、俺と真理子さんは似たもの同士なんだ。
綾乃さんのことが大好きっていう、唯一無二の共通点。
俺はこの背中の痛みを覚えておこうと思った。




