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遠い日の思い出Ⅱ

「よぉ~し、(とおる)! お父さんの所までボール、投げてみろ」


「うんっ!」


 今日はお父さんとお母さんの3人でひろーい桜の咲いている公園に来ている。昨日の夜突然「徹、キャッチボールをしよう!」とお父さんが言いだしたんだ。おかげで昨日の夜はワクワクしてちょっとしか眠れなかったんだよね。お父さんが車を運転してる姿は、めちゃくちゃかっこいいんだよ? 遠い、遠い公園なのに一瞬で着いちゃった!


 僕はお父さんに向かって勢いよくボールを投げる。ボールは僕とお父さんの真ん中くらいに落ちてしまった。


「徹、目を瞑っちゃダメだぞ! ボールを良く見て、お父さんのココに向かって投げるんだ!」


 お父さんは自分の胸を指さす。よぉーし。僕は左手のグローブをもっと深くはめなおすと、手に余るボールを掴んで思いっきりお父さんの胸に向かって投げた。あっ、ちょっとずれてお父さんの膝らへんに行っちゃった。だけど、さすがお父さん、少ししゃがんでナイスキャッチ!


「すごい! すごいぞ、徹! ちゃんとお父さんの所まで届いたじゃないか!」


「えへへ~」


「こりゃ、将来は野球選手だな!」


 違うよ、僕は警察官になって悪い奴をやっつけるんだよ、というとお父さんはそうかそうかと嬉しそうに笑った。


 それから、僕とお父さんは何度も何度もボールを投げ合った。お父さんのボールは早くて痛いけど、楽しくてしょうがなかった。お父さんは子供のころから野球をしていて、高校生の時にはこうしえんって所に行ったこともあるんだって。良く分んないけど、お父さんはすごいってことだけは分かったよ。ボールを投げ合いながら、僕たちはたくさん話をしたよ。


「ところで徹、幼稚園はどうだ? もう慣れたか?」


「うーん、まだちょっとしか行ってないから分んないけど、楽しいよ。先生は優しいし、あとね、すべり台が好き!」


「そうかそうか。かわいい子はいたか?」


「うーん、よく分んない。でも、ミカちゃんとエリちゃんが僕のこと好きだって」


「え、もう告白されたのか! さすが俺の息子、徹はモテるなぁ」


「モテるってなに?」


「う~ん。そうだな、皆に好かれてるってことかな」


「でもね、ミカちゃんとエリちゃんは僕の手を両方から引っ張るから苦手なの。とっても痛いの」


「ははっ、モテるのも辛いな、徹」


 しばらくしたらお父さんがもう疲れたしお腹すいたから昼ご飯にしよう、と言った。僕はまだやりたかったけど、しかたなく頷いた。お~い、とお父さんが手を振ると、離れたところで本を読んでいたお母さんが手を振り返してくる。

 その後、お母さんと3人で仲良くお弁当を食べた。お弁当にはおにぎりとか卵焼きとかからあげとかがいっぱい入ってって、すごくおいしかった。お父さんと取り合って食べてたら、二人とも落ち着いて食べなさいってお母さんに怒られちゃったよ。


「聞いたか、仁美。徹、幼稚園でモテてるらしいぞ」


「あら、そうなの? 徹、良かったわね~」


「ところが、女の子たちが徹を取り合って手を引っ張るから、その子達のことは好きじゃないんだってさ」


 お父さんは可笑しそうに笑った後、将来徹はどんなお嫁さんを連れて来るんだろうなぁ、と眩しそうな目をして言った。


「僕はお母さんと結婚するんだよ」


「仁美はお父さんのだからな、徹にはやらないぞ」


「お母さんは僕のだもん」


「お母さんはお父さんのだもん」


「ほらほら、ケンカしないの。忠臣さんも何張り合ってるのよ」


 お母さんは呆れた顔をしてお父さんを叱っている。僕は可笑しくて笑い転げたよ。

桜の花びらが風にふわりと舞い落ちて、とってもキレイで楽しい日だったな。


 まだ帰りたくないという僕に、お父さんは、また今度キャッチボールしようなって約束してくれた。




 この時、僕は思いもしなかったんだ。

いつか、お父さんとキャッチボール出来なくなる日が来るなんて。

もう二度と、お父さんに会えなくなるなんて。



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