ままならない恋の行方
「ままならない恋~年下彼氏~」の第10部「大事なのは自分に向き合うこと」と第11部「たとえ、ままならない恋だとしても」を先に読んでいただけると嬉しいです!
「徹? どしたー?」
電話越しにカズののんびりした声が耳に届く。
「ごめん、急に実家に戻ることになったから、明日からバイト代わってほしい」
「え?! 急にどうしたの。何かあった?」
心配するカズに、ごめん理由は言えないけど、俺の家の植物の水やりを頼む、あと郵便もよろしく、と全く自分でもワガママとしか言いようがない頼みごとをする。カズは少し離れた実家から通っているため、俺の家にしょっちゅう泊まりに来ている。留守中ずっと俺の家に居てもいいから、という条件を提示するとしぶしぶ了承してくれた。
……しばらく、綾乃さんの顔を見れない。どんな顔をして会えばいいか分からない。恋愛で仕事に支障をきたすなんて、やっぱり俺はダメだなぁ……。
実家に戻ってしばらく頭を冷やそう。そうすれば、きっと彼女と会っても平気になれるはず。
俺は翌朝、福岡空港行の飛行機に乗って久留米に帰省した。
「うわ、何だよ、これ…」
俺は家の庭を見て愕然とした。そこはあの美しかった時子さんの庭は見る影もなく、雑草が伸び放題、荒れ放題だった。正臣のおっさんめ、俺に任せとけって言ったくせに……。これは大仕事になりそうだ、と俺は腕まくりをして雑草が生い茂る大海原へ飛び込んだ。
ぴんぽーん、と門のチャイムが一人きりの室内に鳴り響く。
誰だろう。夕方まで庭の手入れと家の掃除に明け暮れていた俺は、コップに注ごうとしていたペットボトルを持ったまま玄関の内側にあるインターホンでどなたですか?と確認する。その機械から綾乃さんの声がした時は、心臓が止まるほど驚き、手が滑ってペットボトルを落としてしまった。どうして、綾乃さんが、ここに!?
訳が分からないまま取りあえず和室に通し、お茶を出す。今日はご家族は、と聞いた綾乃さんに、俺は言わなくてもいい両親と祖母の話してしまっていた。正直、まだ彼女の顔を見るのは辛い。俺は用向きを尋ねた。さらにとどめを刺しに来たのか? それなら俺はこれ以上は耐えれそうにない。すると、綾乃さんは言ったんだ。
俺のことが、好きだ……って。
最初は聞き間違いかと思った。だって、昨日の今日だったから。
……本当に?
夢じゃない?
俺は何度も彼女に確認をする。
好きだって言われてるのにまるで実感がないよ。
綾乃さんも、同じ気持ちだった……?
そしたら彼女がうるんだ瞳で俺を見つめて言ったんだ。
俺がいいって。他の誰でもなく、俺が好きだって。
それを聞いた途端、たまらなくなって、俺は彼女を抱きしめた。強く、強く。
いや、縋りついたんだ。
もう、置いて行かないで。
一人にしないで。
……ずっとそばにいて。
彼女の肩は小さく華奢で、そしてとても愛おしかった。
やっと……手に入れた……。
俺の、初めて好きになった人を。
一緒に生きていきたい人を。
抱きしめてやっと実感した。
あぁ、これは夢じゃないんだ。
彼女がここに、俺の腕の中にいる。
不思議だね。
ついこの前までは、彼女のいない生活が当たり前だったのに。
今ではもう、あなた無しの生活が想像できなくなってるんだ。
ねぇ、綾乃さん。
あの日の出会いを覚えてるかな?
人はこの出会いを運命と呼ぶのだろうか?
俺は運命だとか、必然だとか、信じられないけど。
俺たちは出会うべくして出会ったって、そう思ってるんだ。
例え、誰かが違うって言ったとしても。
運命にだって、してみせるよ―――。




