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初めての恋、初めての失恋

 その後、綾乃さんは俺と目が合うたびにものすごい勢いで目をそらすようになった。他の人にはバレてないみたいだけど、そのそらし様はけっこうすごい。でも、嫌そうな顔じゃなくて恥ずかしそうな顔をしているので、どうやら嫌われてはいないようだと俺は一安心した。


 だって、考えてもみてよ。あの時はそこまで余裕が無かったけどよくよく考えてみたら、黙っといてやる代わりにと交際を強要したわけ。これって脅迫だよな?好きとか嫌い以前の問題だよ。

 でも、そんなことで綾乃さんは自分の意見を変えたりするはずがないってどこかで確信もしてるんだ。あれだけ正直な人だ。悩みながらも俺のことを好きじゃなければキッパリと拒絶してくるだろう。それはそれでちょっとヘコむな……。その代わり、OKと言っってくれたら、それは脅迫に屈したわけじゃなく、きっと俺のことを―――。


 彼女の気持ちが俺に向いてくれるまで、いくらでも待とう。いや、待ちたいんだ。

例え、そんな日が永遠に来ないとしてもね。

自分でも不思議だと思うよ。ついこの前まで、愛なんてって思っていたのに。恋をしただけで世界が今までと全く違って見えるんだ。何を見ても何をしていても綾乃さんを思い出してしまうなんて、俺は頭がどうかしてしまったのかもしれない。


「あ、綾乃さん見なかった?」


 休憩のために事務所に入ると、バイト仲間の山下さんが慌てた様子で俺に話しかけてきた。


「いや、見てないけど……」


「そっか。何か突然血相を変えて帰っちゃったから、どうしたのかと思って……」


「? 何かあった?具合が悪そうだったとか」


「うーん、特には。私と恋バナしてて、綾乃さんと竹島さんってどうなんですか~? って聞いただけだよ」


「え……?」


「あれ、知らなかった? 綾乃さんは否定してたけど、あれは照れかくしだと思うね、私は!」


「……」


「その後、徹くんと森口さんも付き合ってるみたい、っていう話をしてたら突然帰るって言って帰っちゃった」


 俺は山下さんにごめんすぐ戻るからあとよろしく、と言って事務所を飛び出した。え~私もう帰る所なのに~という声が聞こえたが無視して走り出した。


 綾乃さんの家の近所にある公園のところで彼女に追いついた。

竹島さんと付き合っているの? だから俺とは付き合えないの? だったら何で早くそう言ってくれないんだ?

 俺は綾乃さんを責めた。すると、綾乃さんはいきなり怒り出した。自分だって森口さんと付き合っているくせに、と。


 森口さんとは付き合っていないと言った俺に、彼女は、付き合えばいいじゃない、私は竹島さんと付き合うから、とそう言った。俺には私よりももっとお似合いの人がいるから、と。


 その言葉を聞いて、目の前が真っ暗になった。

俺じゃダメなのか。年下だから? 社会人じゃないから?

そんなことで諦めなきゃいけないのか?

じゃあ、俺のこの気持ちはどこに持っていけばいい?


 俺は、あんたがいいんだ。他の誰でもなく。

あんた以外は欲しくない。


 そんな中途半端なフリ方じゃ納得できない。切るならすっぱりと切ってくれ。でないと、諦めきれないんだ。…とんだ自殺行為だと自分でも分かっている。でも、だけど、こうでもしなければ生まれて初めての感情を自分じゃどうすることもできそうにないんだ。


「綾乃さんは自分が傷つきたくないから、人を傷つけたくないから逃げてるだけですよね。そう言えば俺が諦めて次に行くとでも思ってるんですか? ……人を馬鹿にするのもいい加減にしてください」


 綾乃さんのせいじゃないのに、俺は自分の感情を彼女にぶつけてしまった。守りたいと思った人を、俺が傷つけた。彼女が泣いているのは俺のせい。

 こんな男、フラれて当然だ。自分自身に腹が立つ。まるで望んだものが手に入らなくて駄々をこねる子供のようだ。


 俺は綾乃さんに背を向けて足早に歩きだした。顔が、目が、たまらなく熱い。

こんなことくらいで泣いちゃだめだ。……たかが、フラれたくらいで。

俺は必死で歯をくいしばり、店に戻った。



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