My patience is exhausted
「ままならない恋~年下彼氏~」の第6部「そしてその朝も事件は起きた」を先に読んでいただくと、さらに楽しめます♪
俺は今、理性を試されている…。
綾乃さんは、いきなり起き上がったかと思うと、暑いと言ってシャツを脱ぎ捨てた。肩ひもが細いタンクトップ(キャミソールだと後で知った)姿になり、俺は慌てて空調のスイッチを入れ、シャツを着せようとした。が、いらない、と拒否される。横向きになった綾乃さんの胸元は谷間がはっきりくっきり見え、スカートがまくれ上がって太ももまで露わになっていた。
引き続き見たい気持ちを必死で抑えて薄い掛布団を彼女に掛け、顔ごと目線をそらす。その動きは、ぎぎぎ……とまるでロボットのようなぎこちなさだった。
好きな女と、一つ屋根の下、二人きり。しかも相手は下着姿。あれ? 俺、今試されてる? もちろん、俺の理性はそんなに強くはなく、勝てる見込みもない。これ以上ここにいたら、ヤバい。もう、降参だ……。
俺は早々に根を上げて敵前逃亡を試みた。防犯の面において不安だけど、鍵を掛けて郵便受けから入れておけば大丈夫かな……起こさないようにそろそろと後退した時だった。
「どこ行くの?」
「あ、いや、家に帰ろうかと……」
起こしてしまったのか、綾乃さんのか細い声が聞こえた。
「どこも行かないで、そばにいてよ……」
どうやら寝言のようだった。綾乃さんはそう言うとまたすうすうと寝息が聞こえる。さっきの彼女の涙を思い出し、俺はそこからまた動けなくなった。
綾乃さんの気持ちが、痛いほどに分かったから。
誰かに置いて行かれた時の喪失感。
一人になってしまった時の虚無感。
もしかして、彼女にも俺と同じような経験があるのだろうか。
俺はまだ彼女のほんの一部しか知らないのかもしれない……。
俺はベッドの傍に戻ると、枕元にしゃがみ、顔を覗き込んだ。
涙は乾いたようだ。綾乃さんの汗でしっとりと額に貼りついた髪を耳にかける。
表情が段々と柔らかなものに変わっていくのを確認し、俺はベッドから離れ、一番遠いドアの傍に座りなおした。
大切にしたい。そばにいたい。
でも、それと同時に、抱きしめてめちゃくちゃにしてやりたいとも思う。
笑顔も見たいけど、泣き顔も見たい。だけど、他の誰にも見せたくない。
「矛盾だらけだな……」
俺は窓の外を見つめ、ため息をついた。
空が、白み始めていた。
ふと気づくと、マンションの外で誰かの話声がする。壁にかかった時計を確認したら短針は数字の8を指していた。
そろそろ帰らなきゃいけないけど、やっぱり鍵だけじゃ不安だ。
綾乃さんに鍵とチェーンを締めてもらおうと思って起こすと、寝ぼけているのか、あどけない表情で近寄ってきた。つまり、その、あられもない格好のままで。
わざとか?わざとなのか?! この悪魔め。
いや、綾乃さんの場合は気づいてないんだろう。
俺は目のやり場に困って左斜め下の床を一生懸命見つめた。
綾乃さん、自分がどんな格好か分かってないんだろうな……。
俺にとっては裸に等しい。男なんてそんなもんだ。
俺はよろよろと自分の家に向かった。
何か……疲れた……色々と……。
眩しい朝日に照らされて目をすがめる。頭がぼうっとする。さっきまでの出来事がまるで夢だったみたいだ。
でも彼女の温もりや脳裏に焼き付いた胸元や太ももの映像がフラッシュバックして、これが夢ではないことを教えてくれた。
今度あんな格好で俺の前に現れたら、もう我慢しない。どうなっても知らないからな。
覚悟しとけよ、綾乃さん。
ありえない未来を予想して俺は少しだけ表情を緩めた。
想うだけなら自由だ。そうだろ?
その頃、綾乃さんがとんでもない誤解をしていて、その上、俺の暗殺計画を企ててるなんて、夢にも思わなかった。
My patience is exhausted:俺の忍耐は限界




