一・進出停滞
この作品はなんと、三徳作品となっております。
『ペンギンフェスタ2012』の「競作部門・参加作品」
『沢木香穂里さんのお題小説』の「お題ナンバー46・長い冬の一日」
『空想科学祭 FINAL』の「習作」
読者様にとってはお得なのかどうかは判りませんが、作者的には「一作品で三度も美味しいなぁ」という作品になっております。
ガチなSF仕様になっておりますので、アレルギーのある方はくれぐれもお気を付けてお読みいただきますようお願い申し上げます。
あたしは『長い冬』の中にいた。
そういうことになる運命だったらしい。
あたしの直系の、二十四代前のおばば様の占いプログラムが、あたしのメモリーサーキットの片隅でそう告げている。
あたしが置かれた状況は全くその通りで、その占いに間違いはこれっぽっちもなかった。
あたしは今、オリオン腕の片隅にいる。
あたしはそこで重要な任務を遂行しようとしているのだけれど、かれこれ十七クール程の時間、暇を持て余している。こんなに長い時間、何もしなかったことはあたしのメモリーサーキットにも記録されていない。
要するに全く仕事をしていない、いや、全く仕事が進まない訳で。進めてはいけない状況だと言った方が精確だろうと思う。この状況を打開するには、あたし一人の力ではどうすることも出来なかった。というより仕事を進める分野が違っていたのだ。
だから、あたしは躊躇することなく応援を呼んだ。
ただ予想外だったのは、あたしの応援に誰が来るかということだった。その時のあたしに、そんなことを考える余裕は全く無かったけれども。
あたしの応援に来るヒトの名前を聞いて、あたしはビックリした。まさかと思った。信じられないとも思った。
「嘘でしょ」
それが、名前を聞いてあたしが思わず返信してしまった言葉だ。
確かにあのヒトはこの種の仕事のスペシャリストだ。このヒトが来ないと仕事が進まないのだが、あたしが驚いた理由は、実はそれだけではない。
そのヒトはあたしの憧れだったヒトで、それと同時に遠い昔に諦めたヒトでもあったから。
名前を『オンジュン』という。
あたしのメインメモリはスッカリ忘れていたのだが、あたしの身体の奥にあるメモリーサーキットがそのことを忘れてはいなかったのだ。それが残念なことなのかどうかは、あたしでは判断出来ない。ただそのことを考えると身体の温度が上昇してくることを、温度センサーがしっかりと正確に捉えるのだった。
確かにあたしは待っていた、『オンジュン』がここにやってくるのを。
ガコーン。
ホントは宇宙空間だから音波なんか伝わらないはずなのに、あたしの聴覚センサーにはそんな音が聞こえた気がした。
あのヒトがドッキングして、あのヒトとあたしのサーキットがつながる。
懐かしい周波数と優しい電流と逞しい電圧の信号が流れてくる。
あたしはなんとも言えない気分になった。
「久しぶりだね、ヴィクトリア。元気だったかい?」
あのヒトはやさしく信号をあたしに送ってきた。
「えぇ、お陰様で。貴方はどうなの、オンジュン?」
あたしはつい、上擦った電圧の信号で送信してしまったことを恥ずかしく思った。
「僕はいつだって元気さ。この元気で君の仕事が早く進むように頑張るよ」
あのヒトの信号は、あたしのサーキットに無理矢理流れ込み、忘れてしまったと思っていた事柄を収めたメモリーサーキットに大電流を流したのだった。
「嬉しいわ」
あたしは、過電流を抑えながらこんな風に信号を返すのが精一杯だった。




