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硝子の檻  作者: 松本 桂花
僕と彼女
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図書館の一冊

第一印象は、よろしくなかった。


生徒は滅多に足を止めない――歴史書棚の前で彼女を見たのが初めてだった。

――うわー、スゲー美人。

女子にしては身長が高く、艶のある長いまっすぐな髪、そして涼やかで綺麗な横顔に、僕は不覚にも見惚れてしまった。

同じ高校にこんな大人っぽい綺麗な人がいたんだ、と素直に驚いた。同じクラスにも、確かにかわいいと思える女子はいるが、彼女の持つ目を奪われる魅力には遠く及ばない。

多分袴とか着物とか着ると誰よりも似合うんじゃないかってぐらい素敵だった。

そんな不純で浮ついた事を考えていたが、ふと彼女にある違和感を感じた。合服のブレザーのスカートが短いとか、履いてるのが靴下でもタイツでもなくニーソックスであるとか、そういった違和感さえも粉砕する程度の、凄まじい違和感――

「…これ、読みたいの?」

その彼女がいきなり、不機嫌そうな目で僕を見て問う。そんな事を考えていた僕は我に返ったものの慌てに慌てた。出てきた言葉は

「…ぅへえ」

ぅへえだってよ、ぅへえ。初対面で返事ぅへえとかまるっきり変な人じゃないか。

奇妙な返事はやはり彼女も予想はしていなかっただろう、目を見開いて驚いたように僕を見つめた。

「…そう。わかったわ」

彼女は軽く息を吐いた。

今度は僕が驚く番だった。彼女は持っていた本をぞんざいに僕に渡した――というか、投げた。慌てて手を出すと、ちょうどよく本は僕の手に落ちて、ずしりとした本の重みが伝わった。

「もしかして1年生?…君にはまだ早い内容かもしれないわよ」

足元を見ながら彼女は僕に言った。きっとスリッパの色で僕が1年生だと知ったのだろう。1年は青、2年は赤、3年は緑――確かそんなふうに色分けされていた。彼女のスリッパは赤色だった。

はぁとかへぇとか、僕はとにかく間抜けな返事しか出来ず、ダメっぷりを露呈しながらその場をあしらった。

「じゃぁその本…早めに返してね。私もその本読みたいんだけど他の本借りてて借りれないから。」

最後に彼女はそう言って、綺麗な黒髪を揺らしながら図書室から出ていった。

きれーな先輩がいるもんだ。

ドキドキする。

僕はしばらくぽーっとしていた。

心なしか、女の子特有の甘い匂いがしている。あの先輩のの残り香だろうか、と意識してしまう。

そんな感じで気持ちがお留守になっていた僕は徐々に徐々に我に返る。すると今まで違和感のなかった手に質量を感じてきた。僕はその質量を持つ流れで受け取った本に視線を落として――絶句した。

て自分のなかでむくむくと形作られる違和感がはっきりとした実体として理解された。

――あんなに綺麗で清楚そうな雰囲気なのに…。

赤い装丁のその本は金色の刺繍で世界残酷真実物語集と記されていた。



夢から現実に戻った僕は、そこで地獄に突き落とされた。



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