第七章 割れる四人
木曜日の夜、四人が集まった。
今回は葵のアパートだった。テーブルに資料が広げられ、葵がまとめたメモが配られた。
「整理する」と三上が言った。「現状は以下だ。桐山先生が無届けで医療行為を行っている。これは医療法違反の可能性がある。川瀬さんが患者を斡旋している。橘さんが費用を出している。わたしたちは知ってしまった」
「知ってしまった以上、選択肢は三つある」と文乃が言った。「告発する。黙認する。別の方法を探す」
「告発は、桐山先生が処分を受けることになる」と蒼は言った。
「黙認は、いつか誰かが気づいたとき、わたしたちも関与を問われる可能性がある」と三上は言った。「実習生という立場で、医療法違反を知っていながら報告しなかったとなれば、将来の免許に関わる」
「知らなかったことにするのは?」と文乃が聞いた。
「倫理的にできない」と蒼は言った。
四人は黙った。
「別の方法」と葵が言った。「それは何だろう」
「制度を使う方法だ」と三上は言った。「医療法には、無償で行う医療行為についての特例がある。また、自治体によっては、こういう医療の空白を埋めるための補助事業がある。桐山先生の活動を、そういう枠組みに乗せることができれば、少なくとも継続性は生まれる」
「それは時間がかかる」と文乃は言った。
「かかる」
「その間も、来週も、来月も、あの倉庫に人が来る」
「そうだ」と三上は言った。「でも感情で動いて、最悪の場合、桐山先生が医師免許を失えば、あの場は終わる。それより時間がかかっても、正式な形に持っていく方が長続きする」
文乃が三上を見た。「あなたが言うと、どこか冷たく聞こえる」
三上は文乃を見た。「冷たいつもりはない。ただ、感情だけで正しいことはできない」
「今夜、川瀬さんが病院を抜け出して、あの倉庫に行っているかもしれない。そこに来る人がいるかもしれない。そういう人の前で、制度の話をするのかってこと」
「それは別の話だ。今夜、川瀬さんが行くなら、行く。桐山先生が診るなら、診る。わたしたちはそれを止めない。でも今後どうするかを、感情だけで決めてほしくない」
「誰も感情だけで言ってない」と文乃は言った。声は静かだったが、芯があった。
「そうか。ごめん」と三上は言った。
沈黙が部屋に落ちた。
葵がメモを置いた。
「一つ聞かせてください」と葵は言った。「あの倉庫の患者さんたちに、選択肢はあるんですか。桐山先生のところに行く以外に、今夜、今すぐ診てもらえる場所が」
四人は顔を見合わせた。
「ない」と文乃が言った。
「だとすれば」と葵は静かに言った。「告発するとか、黙認するとかいう前に、まずあの場が続けられるように動く方が先だと思う。制度に乗せる方法を、早急に探す。それでいいんじゃないですか」
三上は少し間を置いてから、「そうだな」と言った。
蒼は葵を見た。文学部の外側の目が、いつも物事の輪郭を照らしてくれる気がした。
「三上、具体的に動ける?自治体の補助事業の調べ方とか、医療法の特例の部分とか」
「やってみる」と三上は言った。
「俺は桐山先生に話す。四人がここまで考えていることを」
「私は川瀬さんに」と文乃は言った。
「私は記録を続けます」と葵は言った。「記録していないと、また消えてしまうから」




