1/11
序章
序章
- 第一章 川瀬という患者
- 第二章 早期退院
- 第三章 夜の足音
- 第四章 倉庫の灯り
- 第五章 橘さんの役割
- 第六章 川瀬の過去
- 第七章 割れる四人
- 第八章 桐山の決断
- 第九章 それぞれの朝
- 終章 夜が明けたら
十一月の夜、救急車が病院の裏口に滑り込んだ。
担架の上には、五十代と思われる男が横たわっていた。体温が低く、意識は朦朧としていた。所持品は財布一つ。中に現金は三百円。保険証はなかった。
「名前は?」と看護師が聞いた。
男はかすかに唇を動かした。
「……川瀬」
「フルネームは?」
答えなかった。
「住所は?」
それも答えなかった。
担架が動いた。廊下の蛍光灯が、川瀬の顔の上を流れるように通り過ぎた。
その目は開いていた。天井を見ていた。何を見ているのか、誰にもわからなかった。




