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ミルフィーユ戦記  作者: まきの・えり


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5/8

ふにゅふにゅふにゅふにゅ

       5

 「ふにゅふにゅふにゅふにゅ」と言いながら、ミルフィーユが、がつがつと餌を食べている。

 餌の入れ物は、見慣れた、お花型のお椀だ。

 色違いのお花型のお椀には、ミルクが入っている。

 僕は、ごくりと、唾を飲み込んだ。おなかがへった。

 食べる勢いが凄いので、時折、丸い餌や四角い餌が、足元にまで転がって来る。


 ここは、ミルフィーユの家で、ちゃんと屋根もついている。

 お父さんとお母さんも、巨大なテーブルの上の巨大な食べ物を食べているようだ。

 僕からは、何を食べているのか、見えていないが。


 僕は、転がって来た、ミルフィーユの餌や、お父さんとお母さんがこぼした、食べかすを、自分の家にまで、運んでいく。

 信じられないぐらいに、見慣れた光景すぎて、自分の目が信じられない。

 もしかすると、何も起こってはいなかったのかもしれない、と思いそうになる。


 そうかもしれない。

 そうだと思う。

 そうに違いない。

 と思ったところで、「サロンパス」と呼ぶ声が聞こえて来た。


 しずかちゃんだ!

 いつもの可愛いしずかちゃんだ。

 僕と一緒に、餌を家まで運びながら、しずかちゃんが言った。


「私達、結婚しましょう」


 え! え! え!

 今、何と言いましたか?

 幻聴みたいな声が聞こえたけど。


「もう、サロンパスのお父さんとお母さんの許しは得たわ」

 え! え! え!

 いつの間に、僕のお父さんとお母さんに相談したの?!


「サロンパスの家は狭いから、結婚したら、私の家で、生活しましょう。

 うちのお父さんとお母さんも、その方がいいだろう、と言っているし」

 え! え! え!

 話が急展開過ぎるんじゃ…


「さあ、サロンパス、自分のご両親に、ご挨拶してね」


 え~~~~~~~~~~!!!


 僕のお父さんとお母さんは、家の中で、ちんまり座って、餌を食べていた。

 僕の両親て、こんな人達だったっけ、というぐらい、見覚えが無い…

 というか、両親の顔も見ずに、せっせと餌を探していたのかもしれない。


「サロンパスや、良かったねえ」とお母さんが言った。

「良かった、良かった」とお父さんも喜んでいるみたいだ。

「お父さん、お母さん、これからは、私も餌を運びますので、どうか、ご心配なく」

「しずかちゃん、サロンパスのことを、よろしくお願いします」

「私のほうこそ、よろしくお願いいたします」


 勝手によろしくお願いされてしまった…

 実は、僕、外に出るのは怖いんだけど…

 こんな僕でも、いいのかな。


 しずかちゃんの後ろにくっついて、よろよろと外に出て行った。

 外と言えば…

 あの真っ黒焦げの地面、焼け焦げた木々…


 なんてものは、全く無くて、驚くほど明るくて、地面もすべすべしている。

「こんにちは」

「いいお天気ですね」

「お元気でしたか?」


 しずかちゃんは、知り合いが多いみたいだ。

 僕は黙って、頭を下げるだけだ。

 ちょっと足がくたびれてきた。


「ここよ」としずかちゃんが言った。

 うちの家というか、ミルフィーユの家とは全然違う。

 どうなっているのか、外から家の中が、丸見えになっている。


「注文建築の、ガラスの家よ、奇麗でしょう?」

 奇麗というか、丸見えというか、落ち着かないというか、何というか…

「新しいタイプの家だから、天井裏も、地下室も無いの。素敵でしょう?」


 でも、天井裏が無いと、運動会もできないし、地下室が無いと、食べ物を貯蔵できないし…

 あ、そうか。

 それで、しずかちゃんは、うちの運動会に来るんだな。

 わかったぞ。


 うひゃああああ。

 玄関が動く~~~~~。

 音も無く、玄関が動いて開いて、しずかちゃんは、家の中に入った。

「どうぞ、お入りください、サロンパス」

 僕も、おそるおそる、中に入った。

 外から中が見えるのと一緒で、中からも外が見える。


 んな~、んな~、という声が聞こえて、僕は、ぎょっとした。

「こんにちは、アルファルファ。こちらは、サロンパスよ。よろしくね」

「こ、こ、ここ、こんにちは」と僕は、アルファルファに挨拶した。

「餌かなー?」とアルファルファ。

 僕は、瞬時に、涙目になった。

「違うわよ、友達よ、アルファルファ」

「今だけ、友達、んな~」


 アルファルファは、冗談半分みたいに、パンパンとガラスの床を叩いた。

 ミルフィーユよりも、ずっと大きい。

 ミルフィーユの三倍ぐらい太っている。

 色も茶色と黄色が混ざったみたいで、ミルフィーユみたいに、美しくない。

 半端なく、怖い…


「し、しずかちゃん、お家に入ろうよ」と僕は言った。

 安全だと思える家に、入ってしまいたかった。

 外に出てから、緊張の連続…

 家に入って、一息つきたかった。


「どうぞ、ここが、私の家よ」


 グア~~~~~ン!!!


 ガラスでできた、外から丸見えの家が、外から丸見えの家の中にあった…

「どう? 奇麗でしょう?」


 僕、お家に帰る、帰りたい、帰らなければ。

 ミルフィーユもいるし、お父さんとお母さんもいるし、丸見えじゃないし…

 天井裏も地下室もあるし…

 落ち着くし、怖くないし…


「いらっしゃい、サロンパス君」

「よく来たね、サロンパス君」

「さあさあ、どうぞ中に」

 としずかちゃんのお父さんとお母さんに言われて、素直に、中に入ってしまう、自分が嫌いだ。


「どうぞ、召し上がれ」とお母さんは、丸いお皿に山と積まれた、ミルフィーユの餌の小型バージョンの餌を勧めてくれる。

「ありがとうございます」と言うが早いか、がつがつとミルフィーユみたいに、食べてしまう、自分が嫌いだ。


 な、な、なんて、おいしい餌なんだ!!!

 がつがつがつ、と食べる勢いが止まらない。

 生きていて良かった、こんなおいしい物が食べられるなんて!!


「早く、孫の顔を見せてくださいね」とお母さんに言われて、うん、うん、うんと自分がうなずいているのが、信じられない。

「孫の顔を見れば、見るだけで、生きて来た甲斐があったというもんだ」とお父さん。

 見ると、お父さんの目には、涙が…


 僕は、とっとと帰りたい、と思っていたことを後悔した。

 お父さんとお母さんにも、しずかちゃんにも、申し訳ない、と思った。

 ごめんなさい、ごめんなさい、僕は、何とか頑張ります。


 その時、大きな音が聞こえ出した。

「な、何?!」


「ああ、テレビですよ」とお母さんが言った。

「新しいニュースがあれば、つくようになってるんですよ、最新式でしょう?」


「臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます」とテレビが喋っている。

 この声は、いつものニュースのおじさんだ。

 最新式テレビにも、いつものおじさんが出ているのが、おかしかった。


「『小動物駆除法案』によって、開発されていた、カミナリ1号の試運転が始まったもようです」


 ちょっと待て、と僕は思った。

 小動物駆除法案は、無くなったんじゃなかったっけ。

 カミナリ1号も、やめることになったんじゃ…


「様子が変です、技師たちが、走り回っています。

 何らかのトラブルに見舞われた模様です。

 何らかの…」と言って、テレビが沈黙した。


 ピカーッと、ガラスの家の素通しの屋根から、世界が光っているのが、よく見えた。


 ドッカーーーーン




 



にゃにゃにゃにゃ

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