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ミルフィーユ戦記  作者: まきの・えり


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3/8

んにゃああ

     3

 「んにゃあ~~」とミルフィーユの声がした。

 居眠りから、ハッと目覚めた僕は、空耳かと疑ったが、確かに、ミルフィーユがいる。

 ゴロゴロゴロゴロという喉の声も聞こえる。

 お母さんの膝の上で、機嫌よく丸くなっているようだ。

 お母さんが口を開こうとしたので、周囲に集まっていた、数えて十三人は、さっと帽子のようなものをかぶった。

 僕は?と頭に手をやってみると、同じような帽子をかぶっている。

 どうやら、誰かが、多分しずかちゃんが、かぶせてくれたのだろう。


「私が」とお母さんが言うと、皆、帽子の耳のところを押さえた。

 僕も皆にならい、慌てて、同じように押さえた。

「人質になります」

 お母さんが息を整えたので、僕達も息を飲んだ。

「ミルフィーユが人質なんて、可哀想過ぎますし、私なら、たとえ人質になったとしても、相手の脅威になりこそすれ、危害を加えられる恐れは無い、ということです」

 よく見ると、お母さんの腰の下には、大きなクッションがあり、膝の上には、ミルフィーユがおり、周囲には、大小のカバンが三個ほど置いてあった。

 ミルフィーユの餌とか、お母さんの食べ物とかが入っているのだろうか。


「△◎×☆〇〇〇」という絵が彫られた木が、お母さんの横に立ててある。

 何という意味なんだろうか?

「作戦本部、と書かれています」

 僕の心の声を読んだかのように、しずかちゃんが、小声で説明してくれた。

「敵は、ミルフィーユ様をスパイだと疑って、お母さんのアンモナイト夫人を逆スパイとして、送り込んだものと思われます」

「スパイだなんて、とんでもありません!」

 お母さんが突然、大声で叫んだので、僕達全員は、その声の風圧で、後ろになぎ倒されていた。

 確かに、人質とかスパイというよりは、新型兵器と言えなくもない。


「そもそも」

 僕達は、倒れたまま、お母さんの話を聞いていた。

「どこに、戦争があるんですか」

 これは、根源的な問いだった。

 そもそも、どこに、戦争があるのか。

 戦争があるとして、どうやって始まったのか。

 原因は?

 そして、どういう経過をたどって、今に至っているのか。


「戦争なんか、どこにも無い」という、お母さん以上の大声が響き渡った。

 お父さんのアンモナイト氏だ。

 一体、どこから現れたのだろうか。

 お父さんの声は、お母さんよりも、もっと破壊力があった。

 僕達は、寝たまま、少し後ろに、移動させられた。

 声圧だ。

「駆除だよ、ただの駆除。戦争だなんて、笑ってしまう」

 実際に、お父さんは、「わあっはっはっは」と笑って、僕達は、もう少し後ろに押し出された。

「駆除ですって?! まあ、あなたまで、何を言っているの」

 アンモナイト夫人、つまり、ミルフィーユのお母さんは、心の底から驚いているようだった。

「実際」とアンモナイト氏。

「チョロチョロチョロチョロと動き回って、目障りだ。人が寝ている真夜中に、屋根裏で、ドタバタドタバタと走り回って、眠れやしない」

 僕達の運動会のことを言っているらしい。

 夜中に眠れなければ、ミルフィーユみたいに、昼寝でもすればいいのに、と僕は思った。

「そんな有害な小動物は、駆除するしかないだろう」

 くじょ、くじょと言っているけど、苦情の間違いではないだろうか。

「これは、国会でも決まった、『小動物駆除法案』だ。お前だって、知っているだろう?」

 何か、お父さんは、お母さんに対して、物凄く偉そうだ。

 すご~く、上の方から、物を言っている感じがする。

 ま、僕達にしたら、二人とも、物凄く上の方にいるんだけど。

「私は、忙しくて、そんなことは、少しも知りませんでしたわ」

「ふん。勉強不足だな」とお父さんは、話を打ち切ろうとしていた。

「たかが、家事ぐらいのことで忙しいとはね。ふふん」


 空気が、恐ろしく、緊迫していた。

 怖くて泣いてしまいそうだ。

 これが、戦争というものなんだろうか。

 僕達は、少しずつ後ざすって、かなり離れた場所まで移動していたが、それでも、安心だという気分には、なれなかった。


「なあああんですってえええええ!!!」


 新型爆弾、炸裂!

 お母さんは、ミルフィーユを抱いたままだ。

 ミルフィーユの耳は、大丈夫なんだろうか。

 ミルフィーユも、こっちに逃げてくればいいのに。


「これだから、女ってやつは」とお父さんは、勇敢にも言った。

「政治も経済もわからない。すぐに、感情的になる。ふふん」とまだ偉そうだ。

「そんな、寝ているばかりで、餌を食う以外には、何の役にも立たない、ミルフィーユなんていう、小動物のために、家族の迷惑も考えずに、人質になる。

 女には、脳が無い。子宮で考えるとは、よく言ったものだよ」


「ふんぎゃああああ!!」とミルフィーユは、叫んだ。

 巨人族にも負けない声圧だ。


「んんぎゃ、ぎゃぎゃぎゃぎゃああああ!」


 遠目で見ていると、巨人族に比べると、小さなミルフィーユが、お母さんの手から飛び上がって、お父さんの顔面に、爪を立てているようだ。

 凄まじい速さで、僕の目には、見えない。


「うぎゃあああ」とお父さんの叫び声が聞こえて来た。

「何をする、ミルフィーユ。お前のお父さんじゃないか~~~」

 と言いながら、アンモナイト氏は、遠くからでもわかる、殺意のこもった光線を目から放っていた。


「お前にゃんか、お父さんじゃにゃい!」


 ミルフィーユは、とっとと顔面から離れて、美しく地面に着地。

 その勢いで、全速力で、僕達の方に走って来た。

 なんて、脚が速いんだ、ミルフィーユ。

 と思いながら、僕達も走っていた。


 バッチーーーーン!!!


 ドドドドーーーーーーーン!!!


 物凄い音に続いて、地面が地震のように、揺れる。

 ミルフィーユと僕達の身体が、地面から浮き上がった。


「お母さんの勝ちだにゃあ」とミルフィーユは、走りながら言った。






 


ぎゃぎゃぎゃぎゃああああ!

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