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ミルフィーユ戦記  作者: まきの・えり


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2/8

んにゃああ。

        2

 「にゃんてこった」とミルフィーユが言った。

「寝ている間に、こんにゃことに、にゃるとは」

 にゃあにゃあ言うミルフィーユなまりは変わってないが、あの金色と銀色と銅色に輝く美しい毛並みは、白一色に変化している。

 う~ん。

 日の当たり具合によっては、金色、銀色、銅色の毛並みに見えなくもないが、あくまでも、目の錯覚レベルだ。

 ぼうっとミルフィーユに見惚れていたが、「サロンパス将軍」と言われて、ハッと我に返った。

 そ、そ、その声は、しずかちゃん?

「んにゃあ~~!」とミルフィーユが悲鳴を上げた。

「カミナリで死んだしずかちゃんか~、んぷ」とげっぷをする。

 ミルフィーユ、お前、しずかちゃんを食べてしまったんだろう?と僕は、心の中で突っ込んでいた。

「にゃんと言っても、薄く焦げた、しずかちゃん達は、うまかったんだにゃあ、んぷ」

 思い出しげっぷか、ミルフィーユ。

 しかも、「しずかちゃん達」って言わなかったか?「達」って。

「ミルフィーユ様、何をおっしゃっているのか、わかりかねますが」としずかちゃんが言った。

 とても、真面目な顔をしている。

「ミルフィーユ様とサロンパス将軍は、停戦の協定を結びに行く所でございます。くれぐれも、お忘れになられぬように」

「そうなんだにゃあ」というミルフィーユの答えは、現状がわかっているのかいないのか、わからなかった。


 ふ~~ん。

 停戦協定ということは、戦争があったっていうこと?

 あの物語とか、テレビとかに出てくる戦争?

 まさか、と言って笑おうとしたけれど、しずかちゃんの真面目な顔を見ていると、笑えなかった。

「にゃんてこった。また、戦争をしたわけだにゃ。誰と?」

「ミルフィーユ様は、やんごとなきお方。戦争のことなど、ご存じないのも、無理はありません」

 優しくそう言った後、しずかちゃんは、キッとして、僕を見た。

「サロンパス将軍まで、一緒になって、知らぬ存ぜぬでは、困ります。この停戦協定のために、私達が多大な犠牲を払ったことを、お忘れになられたのですか!」

 戦争のせいなのだろうか、しずかちゃんの性格が変わってしまっている。

「友達になりましょう」と誰にでも言っていた、同じ人とは思えない。

 しかも、ミルフィーユ様は、やんごとなきお方って、どういう意味?


 ミルフィーユと僕は、カミナリが落ちて、辺り一面が真っ黒こげになり、段々と食べ物も無くなって、丸くなって寝ていただけなのに…

 目が覚めたら、こんなことになっていた。

 どういうこと?


「停戦の使者が、こちらに向かって来ます」としずかちゃんが言った。

 その使者というのを、ず、ず、ず~~~っと見上げると、ミルフィーユのお父さんとお母さんみたいな巨人族だった。

 げー、巨人族と戦争?

 負けるに決まって…と思ったとたん、ミルフィーユが小走りになった。

 あのゆったりしたミルフィーユが、小走り?

「お父さ~ん、お母さ~ん、会いたかったにゃああ~ん!」と叫んでいる。

 ミルフィーユのお父さんとお母さんみたいじゃなく、お父さんとお母さんだったのか。


「ミルフィーユ~~~!」という大嵐のような声が、草むらをなびかせながら、聞こえて来た。

 草と一緒に、後ろに、ひっくり返りそうになった僕を、しずかちゃんが、両腕で、ガシっと受け止めてくれた。

「やはり、ミルフィーユ様に、ご使者になっていただいて、正解でした」としずかちゃんが言った。

 そうなの?

「ミルフィーユ~、ミルフィーユ~」とお父さんとお母さんらしき人達も、ドスンドスンと走ってきて、ミルフィーユを抱き上げている。

「にゃう~ん、にゃう~ん」とミルフィーユのゴロゴロゴロゴロ言う声も聞こえて来た。


「停戦の使者っていうから、何ごとかと思ったら、ミルフィーユだったのね」とお母さんは、恐ろしい音量で泣き始めた。

「バウバウ」とドシドシ走り回っているのは、パフィじゃないか。

「ミルフィーユ殿がご使者と聞いて、アンモナイトご夫妻を使者に立てて、正解であった」とパフィが言った。

 パフィ、喋れるんだ、と僕は驚いた。


「これは、パフィ将軍」としずかちゃん。

「これは、これは、しずか殿」とパフィ将軍。

 僕には、よくわからない話だが、パフィとしずかちゃんも、いつの間にか、友達になっているらしい。

「それでは、圧倒的に有利な我が軍のお慈悲を持って、ここに休戦を宣言する」とパフィ将軍。

「サロンパス将軍」としずかちゃんが、僕を前に押し出す。

 え? え? え?

「サロンパス将軍は、休戦協定を受け入れるものとする、とおっしゃっております」と僕の代わりに喋ってくれた。

 ありがとう、しずかちゃん!

 停戦と休戦とが、よくわからないけど、これで、戦争は無くなった、ということだね。


「あのう…」とミルフィーユのお母さんが、おそるおそる、大声を出した。

「ミルフィーユを連れて帰っても、よろしいでしょうか」

 声は、僕の耳を直撃して、一瞬、気が遠くなった。

 ミルフィーユは、と見れば、とっても嬉しそうに、お母さんの周りを回っている。

「それは、ミルフィーユ様が、人質になるということでしょうか」としずかちゃん。

「そう考えてもらえばいいだろう」とパフィ将軍。

「致し方ありません。では、そういうことで」


 ミルフィーユのお父さんと、ミルフィーユを抱いたお母さん、それと「バウワウ」と跳ね回るパフィが、どんどん視界から遠ざかって行く。


「ミルフィーユ~~」と僕が叫んでも、ミルフィーユの耳には届かないみたいだ。

「ミルフィーユ様のことは、諦めましょう」としずかちゃんが言った。

「ミルフィーユ~~」

「ミルフィーユ~」


「ミルフィーユ~~~」



にゃんてこった。

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