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んにゃああ。
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「にゃんてこった」とミルフィーユが言った。
「寝ている間に、こんにゃことに、にゃるとは」
にゃあにゃあ言うミルフィーユなまりは変わってないが、あの金色と銀色と銅色に輝く美しい毛並みは、白一色に変化している。
う~ん。
日の当たり具合によっては、金色、銀色、銅色の毛並みに見えなくもないが、あくまでも、目の錯覚レベルだ。
ぼうっとミルフィーユに見惚れていたが、「サロンパス将軍」と言われて、ハッと我に返った。
そ、そ、その声は、しずかちゃん?
「んにゃあ~~!」とミルフィーユが悲鳴を上げた。
「カミナリで死んだしずかちゃんか~、んぷ」とげっぷをする。
ミルフィーユ、お前、しずかちゃんを食べてしまったんだろう?と僕は、心の中で突っ込んでいた。
「にゃんと言っても、薄く焦げた、しずかちゃん達は、うまかったんだにゃあ、んぷ」
思い出しげっぷか、ミルフィーユ。
しかも、「しずかちゃん達」って言わなかったか?「達」って。
「ミルフィーユ様、何をおっしゃっているのか、わかりかねますが」としずかちゃんが言った。
とても、真面目な顔をしている。
「ミルフィーユ様とサロンパス将軍は、停戦の協定を結びに行く所でございます。くれぐれも、お忘れになられぬように」
「そうなんだにゃあ」というミルフィーユの答えは、現状がわかっているのかいないのか、わからなかった。
ふ~~ん。
停戦協定ということは、戦争があったっていうこと?
あの物語とか、テレビとかに出てくる戦争?
まさか、と言って笑おうとしたけれど、しずかちゃんの真面目な顔を見ていると、笑えなかった。
「にゃんてこった。また、戦争をしたわけだにゃ。誰と?」
「ミルフィーユ様は、やんごとなきお方。戦争のことなど、ご存じないのも、無理はありません」
優しくそう言った後、しずかちゃんは、キッとして、僕を見た。
「サロンパス将軍まで、一緒になって、知らぬ存ぜぬでは、困ります。この停戦協定のために、私達が多大な犠牲を払ったことを、お忘れになられたのですか!」
戦争のせいなのだろうか、しずかちゃんの性格が変わってしまっている。
「友達になりましょう」と誰にでも言っていた、同じ人とは思えない。
しかも、ミルフィーユ様は、やんごとなきお方って、どういう意味?
ミルフィーユと僕は、カミナリが落ちて、辺り一面が真っ黒こげになり、段々と食べ物も無くなって、丸くなって寝ていただけなのに…
目が覚めたら、こんなことになっていた。
どういうこと?
「停戦の使者が、こちらに向かって来ます」としずかちゃんが言った。
その使者というのを、ず、ず、ず~~~っと見上げると、ミルフィーユのお父さんとお母さんみたいな巨人族だった。
げー、巨人族と戦争?
負けるに決まって…と思ったとたん、ミルフィーユが小走りになった。
あのゆったりしたミルフィーユが、小走り?
「お父さ~ん、お母さ~ん、会いたかったにゃああ~ん!」と叫んでいる。
ミルフィーユのお父さんとお母さんみたいじゃなく、お父さんとお母さんだったのか。
「ミルフィーユ~~~!」という大嵐のような声が、草むらをなびかせながら、聞こえて来た。
草と一緒に、後ろに、ひっくり返りそうになった僕を、しずかちゃんが、両腕で、ガシっと受け止めてくれた。
「やはり、ミルフィーユ様に、ご使者になっていただいて、正解でした」としずかちゃんが言った。
そうなの?
「ミルフィーユ~、ミルフィーユ~」とお父さんとお母さんらしき人達も、ドスンドスンと走ってきて、ミルフィーユを抱き上げている。
「にゃう~ん、にゃう~ん」とミルフィーユのゴロゴロゴロゴロ言う声も聞こえて来た。
「停戦の使者っていうから、何ごとかと思ったら、ミルフィーユだったのね」とお母さんは、恐ろしい音量で泣き始めた。
「バウバウ」とドシドシ走り回っているのは、パフィじゃないか。
「ミルフィーユ殿がご使者と聞いて、アンモナイトご夫妻を使者に立てて、正解であった」とパフィが言った。
パフィ、喋れるんだ、と僕は驚いた。
「これは、パフィ将軍」としずかちゃん。
「これは、これは、しずか殿」とパフィ将軍。
僕には、よくわからない話だが、パフィとしずかちゃんも、いつの間にか、友達になっているらしい。
「それでは、圧倒的に有利な我が軍のお慈悲を持って、ここに休戦を宣言する」とパフィ将軍。
「サロンパス将軍」としずかちゃんが、僕を前に押し出す。
え? え? え?
「サロンパス将軍は、休戦協定を受け入れるものとする、とおっしゃっております」と僕の代わりに喋ってくれた。
ありがとう、しずかちゃん!
停戦と休戦とが、よくわからないけど、これで、戦争は無くなった、ということだね。
「あのう…」とミルフィーユのお母さんが、おそるおそる、大声を出した。
「ミルフィーユを連れて帰っても、よろしいでしょうか」
声は、僕の耳を直撃して、一瞬、気が遠くなった。
ミルフィーユは、と見れば、とっても嬉しそうに、お母さんの周りを回っている。
「それは、ミルフィーユ様が、人質になるということでしょうか」としずかちゃん。
「そう考えてもらえばいいだろう」とパフィ将軍。
「致し方ありません。では、そういうことで」
ミルフィーユのお父さんと、ミルフィーユを抱いたお母さん、それと「バウワウ」と跳ね回るパフィが、どんどん視界から遠ざかって行く。
「ミルフィーユ~~」と僕が叫んでも、ミルフィーユの耳には届かないみたいだ。
「ミルフィーユ様のことは、諦めましょう」としずかちゃんが言った。
「ミルフィーユ~~」
「ミルフィーユ~」
「ミルフィーユ~~~」
にゃんてこった。




