第5話 静かな飲み会は危険信号
交流会が終わった後、
凛と成海さんは居酒屋で2人静かな飲み会をしていた。
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「あの、成海さんのお仕事って、毎日どんな感じでされてるんですか」
「んー、なんか適当に依頼が来てる内容入れ込んでフィードかリールか作って、依頼主に下書きを納品するって感じですかね。
いけるなって日は7〜8本作るし、しんどい日はほんとほぼやらないし、適当です。」
「え、すごい…7〜8本って結構ですよ。私代理店でSNS運用代行してますけど、TikTokのリール1日3本編集するので手一杯です。フィードならもう少しサクサクいけますけど。」
「似たようなもんっすよ。そんな専門性いるもんでもないですし、ある程度型通りなんで」
「成海さんってその…、今のお仕事とかフリーランスでいることに、あんまり嬉しさはないって感じですか?」
「まあ…そうっすね。よくわかんないっすけど……って急にどうしたんすか」
「いやその、今の仕事が好きで満足してますっていう声ではないっていうか、どこか表情が寂しそうだったから」
凛の言葉に、成海さんは少し驚いた様子で目を大きくしていた。
「寂しそうなんて言われたことないっすけど、そう…なのかもしれない」
心を落ち着かせるかのように息を吐いてから、成海さんは続けた。
「俺は元々そんなに人の話とかよく聞けないっていうか、あんまり興味ないっていうか、特に何かに興味持てたことってないんですけど」
「高校んときの文化祭でクラスの出し物がバカっこいい動画みたいなのになって、バカっこいいシーンとか考えて参加するのだるかったんで適当に逃げてたら動画制作係にされたんです。映んないんだったら作る側引き受けなよ、みたいな感じで。まあそれならいっかと思って引き受けたら、意外と没頭してたんですよね。」
「それで出来上がった動画が文化祭当日結構盛り上がって、校内でその後もバズったんですよね。そしたら進路相談の時、これお前の強みじゃね?って担任に言われて。そっからっす。動画を本業にしたのは」
「なんか上手いことSNS動画の制作をメインにして生活成り立ってはいるんすけど、動画制作が好きなのかはわからないっていうか、他に興味あることもないしとりあえずやってるみたいな感じですね」
成海さんの過去、そんな感じだったんだ…。淡白な人だと思ってたけど、意外とみんなから好かれるタイプの人なんじゃないかな。
「成海さんは、学生の時に動画でみんなの役に立てたことが嬉しかったから、また動画で役に立てないかなって思って続けてきたんじゃないですかね。それって、すごく素敵なことだと思います。」
「どうなんすかね。そこまで考えられてないっていうか、今は特にフリーなんで、一人で言われたもの作って納品してるだけの作業みたいな感じです」
凛の言葉に少し気恥ずかしくなったのか、成海さんは頬杖をついたまま少し顔を背けた。
「でもそれでこうやってフリーランスとして独立して続いていることがすごいことだと思うんです、私にはそうしたくたってやり方すらわからないし、できないですし」
「できますよ、案件受け付けますってプロフィール作って、なんか作った動画のっけとけばいいんですよ」
「そんな簡単に言わないでくださいよ〜、成海さんにつきっきりで教えてもらってやっとできるかどうかです。」
「別に教えてもいいっすよ。今言ったこと以上のこと、特段ないですけど」
成海さんは伏せ目でサラッとそう言うと、かけていた眼鏡を外して曇りを拭き出した。
「え…?」
「え!いいんですか?二言はないですよ!!」
凛は驚きと嬉しさを隠せない。
「いいですよ、と言っても俺のわかる範囲での回答ですし、そんな期待しないでください」
そう言ってこちらを真っ直ぐ見てきた成海さんの顔に、凛はまたもびっくりする。
眼鏡なしの成海さんがあまりにイケメンすぎたからだ。
眼鏡をかけていたときは気づかなかった。だって黒い細縁の四角い眼鏡で、誰がかけてもド陰キャに見えるようなダサめの眼鏡だったんだもん…!
え、流石にイケメンすぎる。こんな人に私は今、フリーランスコーチをお願いしてOKもらっている状態ってこと…!?
「あ、あの!お願いします…」
そう返すので精一杯になってしまった。
「はい」
「も、もう1杯、飲みましょうー!」
「はい」
平常心、平常心。さっきまでのテンションを保つんだ。
相手はイケメンとはいえ大事な仕事上のフリーランスコーチ。
そうだそうだ、眼鏡外しの不意打ちイケメンに心打たれるもんかーーーーー!
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凛の頭の中はとんでもなくレベルが下がっていた。
飲み進めるうちに、凛はとうとうこんなことを聞いていた。
「成海さんって彼女いますよね?」
「いませんよ。いたこともないです。」
「そんなはず!学生の時そんな動画でバズったりなんて目立ってたんだし、顔もいいんだし、絶対モテてましたよね!」
「ないと思いますよ。恋愛とかよくわかんないんで俺には縁がない話っすね」
「自覚なしが一番罪深いんですよ…」
「はあ….」
「私なんてこの間7年も好きだった人に振られたんですからああ」
「災難っすね」
「災難….ううう災難すぎるんですよーーー、
これだけは逃れたかったのにーーーー」
「はあ….」
この人ずっと何言ってるかわかんないみたいな顔してる。ほんと何なん??
酒が入って失恋モードに逆戻り中の凛は、目の前にいるのが大変親切なフリーランスコーチだということを完全に忘れていた。
「成海さんいくつなんですか!男心教えてくださいよーーー」
「28ですけど。聞く相手俺じゃないと思います」
「進藤くんは24なの!私より年下だから先輩の私に失礼があったらいけないって態度じゃ嫌だから、ちゃんと時間かけて距離縮めてきたし、進藤くんの好きなものがあるお店選んだり、たくさん褒めたり、頑張ってきたのに、全部全部叶わなかった。叶わなかったよーーー」
「なんか恋愛って、大変そうっすね」
「進藤くんよりもっといい人見つけて私が輝いてるとこ、見せるんだから!もうーーーー」
凛は現在初めましての先輩に対して失礼ぶちかまし中である。が、そのことには全く気づいていない。
言いたいことだけ言ってそのままテーブルに突っ伏して、寝てしまった。
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「あの、すいません。閉店らしいんで高水さん、起きてください」
「高水さん」
“ダメだ完全に寝たわ”
これは面倒な人間を相手にしてしまったと後悔する成海さんだが、店の人がいる手前知らないふりをして帰るわけにもいかず、完全熟睡中の凛を背負って店を出る。
「高水さん、家どこっすか」
「店代とタクシー精算しとくんで、家教えてください」
「nnnあーーー?」
「家、どこですか。住所言ってください」
「nnnnまーーーーー」
まるで会話ができない。なんかもうだるくなってきたしと諦めた成海さんは、凛を背負ったまま自宅に帰るのだった。
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「ん….あれもう朝?」
目を覚ました凛は天井を見つめてぼーっとした、
のも束の間、
「え!え?え!ここ、うちじゃない!!どこ…!!?」
自分の服を見ると知らない服に着替えてある。
布団はいつもよりふかふかだし色も違う。
メイクは…?なんか顔パリパリするからそのままっぽい…!
完全慌てモードの凛のところへ、成海さんが入ってきた。
「起きましたか。」
……え。
☑︎ 服が知らないものに着替えてある
☑︎ 成海さんの家で夜が開けた
☑︎ 成海さんの家のベッドで寝ていた
☑︎ 昨夜完全に酔っていた
ということは!!?
じょ、条件が…..え??
「もしや、私はついに一夜の過ちを….!???」




