第2話 吹っ切るには酷なフラれ方
“俺、先輩のこと好きでした。結構前から。”
“先輩は俺にとって大事な人で、関係が壊れるのが怖くて伝えるか迷ったんですけど、ちゃんと自分の気持ち、今からでも伝えた方がいいなって思って。”
え。
え?????
好きでした…?結構前から…?
なんで…………
じゃあなんで…..
なんで彼女作ったのよーーーーーー!
告白されて、同時にフラれた。
こんなことってあっていいの??
しばらく思考が追いつかなかった。
頭はぐちゃぐちゃなのに、勝手に手が動いていた。
気づくと、進藤くんからの電話の着信音が流れていた。
“そうだったの!?ありがとう…!!”
“ちょっと、一回電話しよ〜?”
こんな感じのことを送っていたらしい。
いつも通りの私、落ち着いた私。そう言い聞かせて、覚悟を決めて電話に出る。
「もしもし。進藤くん?」
「あ、こんばんは〜」
「先輩ならもしかして電話しよって言ってくれるんじゃないかと思って」
「そりゃもう、こんなときのためのLINE電話でしょ〜笑」
平静を装って、ちょけてみる。
ちゃんと聞かなきゃ。
「それで、何で彼女できてからなのに伝えてくれたの?」
「色々考えたんですけど、この歳になると気持ちだけで付き合って結婚って難しいじゃないですか。」
「それは本当にその通りだよね〜、なんだかんだ25ってボーダーなのかも」
「かもしれないですね。
なんかその、先輩と付き合ったらどんな感じかな〜とか、考えたりしてたときあったんですけど。好きって気持ちの隣に、大事な先輩って気持ちがあって、そっちの方が大きいなって思ったっていうか。」
「えっと、なるほど?」
意外と真剣に考えてくれていた…のか?
「結婚して一緒に家庭作りたい人かというと、そっちではないなってなってしまって。好きは好きなんですが、今まで仲良くしてもらってたこの関係が壊れるのが怖かったし、結婚のイメージが湧いたのは、今の彼女の方だったんですよね。」
「なんか、俺の方から一方的にすみません。正直な気持ちは、そんなとこです。」
「そうだったんだね。ありがとう。」
辛辣に感じられてしまうのは、私がはっきりと進藤くんを好きであることを自覚しているがゆえ。
早く、吹っ切らないと。
でも、聞かずにはいられない。
最初で最後の勇気を振り絞って、静かに息を吸ってから切り出した。
「実は私も、結構前から進藤くんのこと、好きだったの。でも、私が進藤くんを好きだっていうのは、思わなかった?」
「それは、全然思わなかったです。俺なんかって思ってました。」
「そんなこと!」
「本当です。」
迷いのない返し。本当に私の好意には気づいていなかったようだ。
そんなに彼に自信がなかったのか。
正直周りの人が放っておかないだろうと思えるほどの端正な顔立ちで身長も高く、ルックスからしてこれで自信を持てないなら全男子が自信を喪失するだろうが…。
「そっか…。ちょっと悲しいけど、話してくれてありがとう。気持ちを聞けて嬉しい。」
「それで、彼女さんとはいつから?」
「付き合い始めたのは、3ヶ月前くらいです。」
「そうだったんだ!安心感ある人、なのよね?」
「はい、あんまり感情の起伏がない人なんですけど、居心地いいです。」
「そっかあ、それならよかった。結婚も見据えてのお付き合いなんだろうし、お幸せにね。」
「ありがとうございます。先輩も、彼氏できたら教えてください。」
「じゃあまたね〜!」
もうこれ以上あれこれ聞くのは悪い気がして、切り上げてしまった。
悪い気がした、というより、勇気がなかったという方が正しいかもしれない。
なにせ、伝えられなかった。
私が8年間、片思いしていたということを…。
言葉にならない後味の悪さを、おそらく私一人だけが、抱えていた。
もうすぐ冬本番を迎える11月30日。
あたたかい布団を掛けても、私には眠れない夜だった。
———でも。
最低限、聞きたかった彼の気持ちは聞けた。
彼は私のことを考えてくれていた。気持ちは一方通行じゃなかった。
片思いから頑張った8年間は、無駄じゃなかった……….
……待てよ?
一方通行じゃなかった?
両思い、だったんだよね?
フラれるならもっと潔くフラれたかったよーーー!
なんでお互い好きなのにバッドエンド......。
もしかして私の女子力が足りなくて、結婚はちょっとな〜、付き合うのはちょっとな〜、ってこと??
うわ努力ミス???
私の振り向かせ計画に大欠陥あり!?
もうなんってことーーーーーー!!!
いや落ち着け、考えても変わらないんだから落ち着くんだぞ凛。
とりあえず、状況を整理しよう。
・私が8年間片思いした彼は詳細不詳の女性と結婚前提に付き合って幸せになる
・私は25歳になっている
・私は好きな人を失った
・私は彼氏がいない
以上。
え??
え?????
整理したらただただ悲しいだけ…じゃないか?
よく目を凝らしたって変わらん。
何なん??
8年頑張った努力は無駄じゃなかったとか言ったけど、撤回だ撤回!
25にもなって、ガチ恋の人を失って、仕事もしんどくて続けるにはもう息切れしそうだし、仕事=人生レベルにやりたい仕事なんてないし、結婚の展望もないし、今回は本当にどん底だ….。
エネルギーなんも残ってない…。
でも明日会社行かなきゃ。
時間だけは正確にやってくるんだよなあ。
仕事、もうあと3ヶ月くらいでやめよう。
なんかもっとトレンドに振り回されないで心落ち着いてできる系の仕事にしよう。
そんで、とりあえず仕事の不安消化して、そんで女子力上げて、いい男探す!!
一旦そのプランで行こう。
エネルギー切れのどん底脳でそんな雑なプランを練り上げ、
翌朝紫のくまをつくった女は重い足取りで会社に向かうのだった。