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教室の、魔王。(二日目)

 *

 

 さて、それでは攻撃(いじめ)のターゲットを僕に向けさせましょうか。

 

 用意するのは市販の炭酸飲料。

 まず、振ります。

 そして充分にシュワシュワと不穏な音がするようになったら準備完了。

 狙いをすまして………そこっ!

 

 ブシャアアアアっっ!!

 

「うわっ!?何すんだバカ!」

「何コイツあり得ないですけど!」

「テメ……ざけんなよ」

 

 コカ・コー○まみれになったケバ三人衆。あっはっは、いい気味。

 

「謝れよてめぇ!」

「マジないんですけど」

「絶対っわざとだろコレ」

 

 

 嗚呼、怒ってる怒ってる!煽りは完璧だ。

 さてそこで応対するキャラクター設定は……真面目眼鏡ドジ。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 つまるところ鈍くさい草食系ってところだ。あれだ、見ていてイライラするやつ。

 さて、その性格(キャラクター)に対する彼女らの反応は……、

 

「はっ、あの女のお仲間なだけあってやっぱりトロいな!」

「そーいやアイツ今日は九十九のやつと話してね?」

「あの宇宙人ツクモ?アイツ喋れたんだ~」

 

 

 ギャハハハハハとコーラまみれで笑う3人。

 

 う……この絵面はないわ。気持ち悪過ぎる。

 

 

 

 しかし、駄目だね。話の流れがむこうに向かってしまっている。

 それでは計画は失敗だ。

 

「水無月さんと……九十九さんの悪口言わないでください」

 

 トドメとばかりにもう一芝居。うつむき調子で言えば、

 “いじめられっ子を庇う正義気取りの目障りなヒョロ男”。

 

 あっという間に完成である。

 

「あ?」「は?」「はぁ?」

 

 こちらを睨み付ける三対の瞳は、獲物を見つけたハイエナに似ていて。

 

 *

 

 一度回った歯車は他の部品を回しながら動き続ける。

 

 水無月さんはちゃんとこちらを無視していた。

 というより僕の方から避けているのだけど。

 

 さぁ、どうだろう?

 

 明後日から始まるか。

 明日から始まるか。

 それとも今日?

 

 それによってエンディングの日は変わる。

 実力で排除したとして……あの3人の親が微妙だな。

 “常識”があればいいのだが。

 

 

 ああ、祭りが始まる前に後片付けの事を考えたってつまらないか。

 それは秘書に任せればいい。

 

 

 

 つつがなく午前の授業は終わり、昼休み。

 ……昨日の今日で、一応興味の対象になってもおかしくない復学生なのだけれど。

 誰も近づてこないのは、昨日水無月さんと一緒に居たことと、朝のあの一件が原因だろう。

 

 そりゃそうだ。いじめは外から傍観しているのが一番楽しいのだから。

 

 

 

 沈黙。

 

 

 

 黙々と箸を進める。

 

 今日はお弁当を持って来ていた。

 一応、見た目は美味しそうだけど味は微妙だ。

 濃すぎる。後で文句を言うのは確定だな。

 

 さて、今日わざわざお弁当を持ってきたのには理由がある。それは……

 

 ガシャンっ!

 

「あっ、ごめーん落としちゃった~」

「あー、何やってんのよ」

「ごめんねー、この子ドジっ子だから」

 

 こんなケバいドジっ子はいらん。

 じゃなくて、こういう“エサ”になってもらう為の今日のお弁当である。

 

 見事にぐっちゃぐちゃになって床に広がった。

 作ってもらった人と地球に罪悪感を感じるが…まぁ、しかたない。

 

 ……それにしてもこの白々しさ。さすがに“慣れてる”だけある。まったく尊敬できない“慣れ”ではあるが。

 

 

「いや、不注意なら仕方ないよ」

 

 そう言って落とされた物をいそいそと自分で片付けてみる。

 そうするとほら、嬉しそうだね、彼女達。

 

「ホントゴメーン!」

「でもさこれで朝のあれとでチャラじゃね?」

「だよね~。マジあれはないっしょ」

 

「うん。本当にごめん」

 

 そう言って愛想笑いをする。

 造られた無知、を演じる役者に今はなりきっていた。

 そして、

 この茶番を最高に楽しんでいる自分を見つける。

 

 

 ……いつの間にか口角が上がっていた。

 いけないいけない。これはあくまで水無月さんの為、そしてこの学校の者としての責務なのだから。

 

 “教育”、だよね。

 

 

 そのまま、ケバ三人衆はどこかに行ってしまった。

 

 仕方ないので散らばった残飯は一人で片付ける。

 嗚呼、MOTTAINAI。ごめんねマータイさん。

 

 

 

 その時、

 誰かが僕の目の前に立った。

 そしてしゃがんで顔を覗き込んでくる。

 

 ん、誰……?

 

「大丈夫か?」

 

 降ってきたのは低い声。

 

 ……予想が外れた。九十九さん辺りが来ると思ったんだけど。

 見回すと2人は居ない。あー…図書室ね。

 

 くそっ、男か。しかも結構普通の男子である。

 女装が似合いそうだとか、男装の麗人……的な展開も望めないただの一般人(バンビー)

 

「はあ…」

 

 思わずため息。

 

「……なんで人の顔を見てため息をつくんだ?」

 

 ん?ああごめん。つい。

 

「お前……見た目と違っていい性格してんな……」

 

 む……失礼な。というか何の用?

 

「あ?ああ、一応片付けるの手伝おうかなと思って」

 

 ほぇ?何で?

 

「何でってそりゃ…困ってるっぽかったから…」

 

 ……僕を助けてもフラグは立たないよ?ベーコンレタスは無理だから。

 

「…何の話をしている。何の!」

 

 え?だから、“ヤマなし”“オチなし”“意味深長”の頭文字(イニシャル)D(ディー)な話。

 

「……お前、思いつきで喋ってるだろ」

 

 あ、分かった?

 

「……疲れる。こんなヤツの相手を水無月はしてたのか?」

 

 その言い方は凄く失礼……はっ、これは!?

 

 その時僕の高感度レーダーが作動した!アンビバレント!

 

 

 

「君、水無月さんが好きだね?」

 

 

 

「……なっ!!!」

 

 そう告げてやると、ガッシャーン!とせっかく集めたお弁当をまた派手にひっくり返しやがった。あーもう、また拾い直しだ。

 

 ……しかしまぁ、図星のようだ。我が百発百中の直感が告げている。

 コイツからは……ラブ臭がする!

 

「…で、どこが好きなの?少年」

 

 ニヤニヤしながら聞いてみる。“他人の”恋バナほど面白いものはないよね。

 僕は面白いものが大好きだもの。

 

「何で急にそんなオッサンみたいなノリで話しかけてくんだ!

 つか、好きじゃねえし!」

 

「あれま、残念」

 

 一途に思いを寄せるけど気づかれないっていうポジションは、女性から人気でるかもよ?

 

「……そんな哀れみに満ちた人気はいらねぇ」

 

「あ、そう?」

 

 はぁ、やっぱり残念な子だ。

 

「残念なのはお前の頭だ」

 

 あらかた片付け終わって一息つくと、ちょっとお腹が空いている事に気づく。

 

 ……もうちょっと食べておけばよかった。

 

 と、思ったら目の前に菓子パンが差し出された。

 

 ???

 

「何のつもり?」

 

「何でそんな警戒心全開なんだ?人の好意くらい素直に受け取っておけばいいのに」

 

 苦笑いしながら、“彼”はパンを机においた。

 

 

「本当に“好意”?」

 

 まだ疑ってみると、ちょっと不機嫌そうな顔になる。

 

「疑り深いな。そんなんじゃ友達出来ないぞ?」

 

「……いじめを黙って見てるような友達はいらない」

 

 そう言うと、ピタッと“彼”の動きが止まった。

 

 

 

 そう。これは最初からシリアスパートだから。

 

 

 

「…………水無月か」

「あ、さっきも思っただけど呼び捨て?仲良いの?」

 

 

 

「……そういう訳でもない。ただの、片想いだ」

 

 

 

 そう言った時の横顔は切なくて、哀愁すら感じさせるものだった。

 わぉ、第二の氷川きよし?

 

「お前の中では哀愁を漂わせてる人間って、氷川きよしなのか?」

「だって演歌の人ってそんな感じがしない?」

 

 どんどんポップスとかのジャンルに押されて消えていく感じとか。

 

「あ、そっちの哀愁かよ……。マジの方じゃねえか……」

 

 ??何で眉間を痛そうに押さえてるの?

 

「で、何かコメントは?」

 

 弁明を聞こうか。

 

「それについては……何も言えねえよ。見て見ぬフリも悪いのはわかるが俺もヒーローじゃない」

「標的が自分に向いたらたまったもんじゃない?」

 

「……そういうことだ」

「ふーん……」

 

 まぁ、予想通りだ。

 

「じゃ、いいよ。あー、パンありがとう」

 

 パンは有り難く貰っておこう。が、そこでパンを見て驚く。

 

 

 メロンパンとチョココロネ、だと!?

 

 

 コイツ……出来る!?

 このチョイスが偶然なら相当な奇跡なんだけど。

 軽く感動しながら僕はそのままパンを食べようとした。

 

「……ちょっと待て」

 

 いそいそと食べようとしたら、怖い顔をした彼に遮られた。

 

「何?まだ何か用?」

「お前……だから今日は水無月と一緒にいないのか?」

 

「…………は?」

 

 何を言ってるのコイツ。

 という目で見つめたら、バツの悪そうに言葉を繋ぐ。

 

「だから!水無月がいじめられてると分かってお前は態度変えたのか、てことだ」

 

「…………ああ、そういうこと」

 

 言いたいことがやっと分かった。しかしまぁ、ふーん……。

 本当に惚れてるらしいねこの彼は。

 

「どうなんだ?」

 

 真剣なまなざしで射すくめられると、なんだかやっぱり居心地が悪いね。

 どうやったって僕は真剣にまだなれないし。飄々(ひょうひょう)と受け流しては彼に悪いし。

 

 どうしようねぇ……。

 

 

 

「……違うよ。というより逆だから」

「逆?」

 

「君は知らなくていいんだよ。君は“最後”でいい」

「?」

 

 頭にハテナが浮かんでるのがよくわかる。

 悩んだ末に出した答えだけど、まぁ我ながら謎めいているのは心苦しい。

 

 だけど、

 簡単に分かってしまうなんて、それじゃあ『お話』としてはつまらないよね。

 

 

「わからないなら今はいいよ。……どうせまた後で話すことになるし」

「??」

 

 まだまだ彼のクエスチョンマークは解消されそうにないね。

 

「ほら、呆けてないで次の授業の準備したら?」

「あの……その……」

 

 そう促したら、なんだか尻すぼみな声が追いかけてきた。

 

「……何?」

「お前…名前は?」

 

 …………は?「は?」

 

 思わず頭に浮かんだ通りの言葉が出てしまった。

 不覚だ!このポジションは水無月さんのとこなのに。

 

 

「昨日自己紹介したよね?」

「……覚えてないし。だから聞いてるんだけど」

 

 ……呆れた。まぁ、ある意味おもしろいんだけど、僕は基本的に

「馬鹿は嫌いだ。あ、口に出しちゃった」

 

 あれまあ、失言だね。“なんとか還元水”並みの失言だよ。

 

「……わざとだろ」

「あ、分かった?」

 

 まぁ……完璧な馬鹿ではないようだね、彼は。

 

「そりゃどーも……。それで名前は……って思い出した、綾波だ!」

 

「そう、そりゃよかったね~」

 

 ……なんか相手にするのもう疲れたかも。

 

「あ、そうだ俺の名前は……」

「僕は君の名前を知ってるからいいよ言わなくて」

 

 自己紹介なんてむず痒いことおちおちとやってられないでしょ?それにめんどくさい。

 しかも君の名前は出す必要はないし。

 

 知ってるもの。僕が。

 “彼”にはそれで十分だと思わない?

 

 最後まで不思議そうな、というより若干警戒したまま彼は自分の席、及びその周辺のコミュニティに復帰していった。

 

 “ムードメーカー”

 というのが彼の立ち位置だろう。ここ2、3日の観察で大体の“外面”は掴めた。

 が、細かい“内面”はまだ知れないままだ。

 

「……まだまだだね」

 僕も。

 リョーマくんも?無我の境地は近いのか?

 


 ……妄言はこれくらいにして、人間観察を再開するか……。


 そんなこんな考えているうちに昼休みは終わり、また授業が始まった。

 別に退屈なわけではないが、興味を引きつけられるわけでもない授業を淡々とこなす。

 

 そんな中で、ちょっと確認しようか。

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