理科室の、魔王。(再)
*
ということで
「放課後ちょっとミーティングしたいから理科室来てくれる?」
帰りのHR終わりに、水無月さんに声をかける。
部活には入ってないらしいからOKは快く頂いた(というか強制)。
なのでちゃっちゃっと舞台は理科室へ。
しかし……、
「いじめって大変だね。
荷物全部持って帰ってるんだ?」
学生なら黙って置き勉!というのが普通なのに教科書のたぐいを、寮だから近いとはいえ、持って帰るのは相当な労力だ。
と思うのだが、
「どうせ部屋で勉強するからいいの」
なん、だと……!?
アナタは神か?キラなのか?
勤勉なツンデレってのも……ああでも、かがみが居たか……
あー、二番煎じ?
「誰が二番煎じなのよ!」
「痛っ!な、殴ったね?親父にもぶたれたことないのに!」
「うるさい!」
「二度もぶった!」
……嗚呼、楽しい。
*
「と、まぁ冗談はこれくらいにして…どう?」
「どう、って?」
「だから“願い”の成就度はどれくらい?ってこと」
今日の進歩は僕は素晴らしいと思う。ロンリーウルフにたった一日で親友……、とは最初からはいかなくても少なくても好意的な友人はゲットしたし。
さて、水無月さんの評価は……
「そ、それは……その、九十九ちゃんと仲良くなれたのは……アンタのお陰だしその……。
ボソッ〉………とう」
「え?」
何だか後半になるにつれ全然聞こえないのだけれど。
そこが一番重要なんじゃない?
「だ、から!」
「だから?」
「どうも……あ、ありがとう…。
って言いたかったのっ!それくらい察しなさい!!」
「ちょ、なんでそれで僕にキレてくるの?」
あっははは、顔真っ赤。本当にかぁーいいね、水無月さん。
こういう“報酬”があるから“魔王”は止められない。
まあ……止める気もないけど。
「んじゃ~明日からの作戦、言っちゃおっか」
「……………は?」
うん、ここ最近はこの反応が見たくて頑張ってるって感じかも。
ボカーン、ていう効果音が似合いすぎる顔だ。
口。
口が、女の子にあるまじき感じですが……まぁ、それでも可愛いのはツンデレ補正?
……ピンポン玉入るかな……?
「てことで、明日から僕に話しかけないでね」
「はぁ?ちょっと、それって一体…!?」
「“いじめ”さんにお出まし願って、ばっちり証拠とって、サッさとご退場願う為。
って言えば、わかってくれる?」
「っ!!」
うん、物わかりのいい子は好きだよ。
「1週間。いや、上手くいけば3日でケリをつけられる」
言いながら、自然とにやける顔が押さえられない。
いけないいけない、これは“勧善懲悪”なんだから。
僕(acter)が、
チープな悪役顔で笑っちゃ、ね?
まぁ……魔王だったらいいか。
「じゃ、そういうことで明日からよろしく」
「…………」
水無月さんはそう告げてからずっと無言である。
………ふむふむ
「何か僕に聞きたいことでもあるの?」
「っ!」
そう言葉を投げ掛けると、彼女は弾かれたようにこちらの顔を見つめる。
……やがて、ポツリと呟きが漏れた。
「……なんで……?」
おっと、危うく聞き逃すとこだった。ほーう、“なんで”と来たか。
「それってさぁ、なんで自分の為にそこまでしてくれるのか、っていう意味の“なんで”?」
「……凄いね。私の思ってること何でも知ってるの?」
「“何でもは知らないわよ。知ってることだけ”
……僕は羽川さんより撫子派かな、あっ、でも堀江ボイスは捨てがたい…!!」
「誤魔化さないで」
僕は。
ピタリ。
動きが止まる。
その真剣な声音。
捉えて離さない瞳。
息を飲みこむ喉の動き。
んー…
シリアスパートはまだ早いよ?
しかし、
「……責任、かな」
ちょっとは話してあげようか。
「責任?」
何の?
と、当然彼女は聞いてくる。僕はそれに答えずただ曖昧に微笑む。
「いいから、今日はもう帰っていいよ。数学の宿題もあるでしょ?」
「あっ!」
と驚く水無月さん。あ、こりゃ忘れてたな。
「ちゃんとやってね。僕も写したいし」
「自分でやれ!」
おお、いいつっこみ。
「あ、こういう会話も教室では禁止だから」
「え…あ、うん」
釘は……刺したからね。
でも、その“釘”を“痛がっている”顔をしてくれるのは嬉しい。
たった一日でこれだけ仲良く、というか懐かれる、というかてなづける、
……てなづけるって言うと何かエロスの香りがするからやめておこう。
仲良くなるのも不思議だ。
「相性、良いのかもね」
「は……?な、なな、ちょっ、何言って…!」
また急に顔を赤くする。
「…?他意はないけど。これからもいい友達でいられそうだな~ってことだよ?」
「…………」
「ん?“他意”のほうを取っちゃった?」
「に……」
「に?」
「二回死ねバカ!」
バーカバーカと連呼しながら水無月さんは本当にそのまま行ってしまった。
*
「からかい過ぎたかな…?」
ちょっぴり胸のどこかでちくりとするものがあったが取り立てて気にはしない。さて、こんなことをしている場合じゃないんだよな。
カメラ、盗聴器、あと編集は……そうだな、あの部屋でやろう。
他には、ちょっとした罠も重要なスパイスだよね。
幸いにもここは理科室。材料になるものはいっぱいある。
まぁ……流石に顔が溶けるような薬品は使わないけど。
天然食品から抽出した諸々な成分だけでも武器になるものだ。
………味覚と痛覚が1週間くらいお釈迦になるくらいの“アレ”はいいよね……?
「これでジ○ンは後10年戦える!くふふふ、あーっはっはっはっはっ!」
――すっかり悪役チックになっている自分を再確認したのは、この2時間後だった――
悪ノリはよくないね……うん。




