教室の、魔王。
*
と、いうことで。
「今日からこのクラスでお世話になる綾波流星です。
体が弱くてこの2ヶ月は休んでいましたが、皆さんと一緒に勉強が出来るようになって嬉しいです」
ニッコリ。僕の平生を知っている者なら泡を吹いてひっくり返りそうな営業スマイル。
……これで見た目の印象は少し緩和されたかなーと思う。
ボサボサの黒髪もこの年代には少ないが見珍しいものではない。
その上で、敢えてフレンドリー路線で行けば、最初から迫害を受ける心配はない……というのが昨日考えたシナリオである。その予想は大方当たったようで、好奇の視線はあっても敵意は感じなかった。
「綾波の席は、そうだな……A子の席が開いていたな?取りあえずはそこに座ってくれ」
指された席を見ると……黒板から向かって右、窓際の一番後ろ。
ハ○ヒの席だなーと思って席に向かうと、眼前、○ョンの席には、
「あれ、奇遇だね水無月さん」
「な……なん…で…!?」
これはビックリ。水無月さんがいるではないか。
それは彼女もそうだったらしく、大きな目を目一杯に開いて、驚きをあらわにされてらっしゃる。
うん、面白い。
「あ、席がこんなに近くなるとは思わなかったよ。水無月さんもビックリ?」
言いながら席につく。うん、日が当たって気持ちいいね、ココ。
「うん、そうだね午後とか眠くなっちゃうけど…………じゃなくて、なんでアンタがここにいるのよ!」
おお……この啖呵は何か……、
「やっぱりツンデレか…」
「はい?」
「いや何でもないよ。こっちのお話だから」
「だっ、だから、何でアンタが……!」
やっぱり気が強いってのは当たってた。しかし今は間が悪い。
「ストーップ。今HR中だから……後で、ね?」
コソッと告げるとハッとしたように水無月さんは振りかえる。そこには呆気にとられた目、目、視線。
それと何故か申し訳なさそうな教師が1人。
一気に水無月さんは顔を赤くして座った。
……やっぱり面白いね。
*
HRはつつがなく終わり、こういう場面って質問責めにされるのかなーって思ってたら、その前に水無月さんに手をとられて廊下に引きずり出された。
わぁ、力も強い。
「説明……してくれるんだよね?」
「え?ああ、席が前後になったのは全くの偶然で」
「そっちじゃない!まずなんでアンタがこのクラスに転入出来たのかが知りたいの!」
嗚呼、そっちか。それなら簡単だ。
……にしても、水無月さんは昨日とはうって変わっての強気なのだけど。
どっちが素なんだろうね?
「僕もこの学園の生徒だし」
「それは…昨日もわかってたけど…。だからって急に別のクラスに変わるなんてこと……」
「“不可能を可能にする男だぜ、俺は!”」
「?」
「いえ、なんでもないです……」
くっ、無反応が悲しい。一般人との文化の違いは人と巨人(ゼント○ーディ)くらい溝がある……。
嗚呼、デカルチャー……。
「駄目だな…やっぱ異文化なんだな僕も……」
ちょっと目から塩水が……。
「ちょ、どうして急に泣くの?やだ、これじゃ私が泣かしたみたいじゃ……」
“うわ、あの女。また男を捨てたんじゃね?”
“ひさーん。何あれ超みじめじゃね。廊下で泣かすって何を言ったんだよ”
おお、また何か水無月さんの評価が落ちた(主に女子)ようだ。そんな声を聞きながら水無月さんの方を見ると案の定、肩を震わせている。
あれ?泣きそう?
「あの水無月さーん?そのー……」
「アンタ……、願いを叶えてくれるのよね?」
「え?ああ、もちろん」
「じゃあ、初っぱなから好感度をさらに落としてくれたのは何なの?」
それはそれは、ゴゴゴゴ、っていう効果音が似合う笑顔だった。あれは子どもが見たらトラウマになるかもしれない……。
「あはははー、ごめんなサーイ」
「適当っ!なにその気のこもってない感じ!」
謝ったのにさらに火に油を注いでしまったようだ。むぅ、困った。
“キーンコーンカーンコーン…”
「あ、もう先生来るから中入ろっか~」
ナイスなタイミングで鐘がなる。……うん、本当にナイス。
「あ、ちょっと……もうっ!」
逃げ足は脱兎のごとく。まぁ、僕にはあそこまでのハイスペックな身体能力はないけどね。どっちかというと頭脳派に分類されるといいな、僕。
なんて思いながら、かつ絶妙なチャイムに感謝しながら僕は席につく。
まあ、当然のこと目の前には水無月さんがいるけど、さすがに授業中に何か言ってくることもなかった。
そして数刻。
*
「平和なのはいいとして、それが過ぎると退屈に変わるな……」
今は休み時間である。肝心の水無月さんは授業が終わった早々に教室から出ていこうとしてたから、当然後についていこうとしたら殴られた。
曰く、
“察しなさいよ”
の一言。
彼女はそのままお花畑の方に走っていった。……んなこと言われなくちゃわかるわけがない。
一息つきながら窓の外を見る。
桜ももうとっくに散った並木には緑が生い茂っていた。
「教室から見ると、こう見えるのか……」
理科室から見える景色とは違う角度からの眺め。
普段とは違う視界、視点。なんだかこそばゆいが、新鮮な感覚は決して心地悪い物ではない。
「ふむ……」
あの並木、桜以外の木も植えた方がいいかな……。
ご神木とかね。
いいなー、掘ったらケガレを退治する神様が宿ったりするようなやつとか。
「ねぇ、ちょっと」
なんとなくノスタルジック??な気分に浸っていると、不意に誰かに話しかけられた。
……どなた?
「んあーはい?何?」
首だけ動かして見ると、いつの間にやらケバめのJKに机を囲まれていた。
「ちょっと聞いていい?君さぁ、水無月の何?まさかカレシとか?」
「だったらヤバいよ。アイツ男なら誰にでも色目使ってっからさ。アイツはやめといた方がいいから」
「でもさ、この……なんつーかガリ勉メガネっぽいコイツ、アイツに似合いじゃね?」
「あはは、マジそうかも!オタクとヤリマン、お似合いだわ!」
ギャハハハハハハ、と大口を開けて笑う仕草がこんなにも似合うヤツらは他にいないと思う。
なんというか…中ボスの前に出てくる微妙な敵っぽい……。それが印象の全てだった。
……しかしまぁ、分かりやすいいじめの元凶、あるいは重要なファクターさんだこと。
もうちょっとひねってくれたらもっと面白いのに。
そのまま何も言わずにポケーと、ケバい人ABCを見てると、相手が少し苛立ってきた様子が分かった。
「は?何とか言わねえの?」
「えー、シカトですか?」
「せっかくアタシらが話しかけてやってるのに」
雲行きが怪しくなってきた。
“計画”だとここで僕まで対象にされるのは“まだ早い”。
「いや、ちゃんと聞いてるよ」
ニコリと、スマイルは忘れずに。0円だしね。
「じゃ、感想はー?」
「つうかさー、まじつるむんだったら相手選んだ方がいいよ」
「あー、為になるお話でたね。メモメモ!」
そしてまたギャハハハハと笑う。
……ふむ、僕女性のバカ笑いは嫌いかも。鳥肌が立つね。ざらざらする。
「ああ、忠告ありがとう。……うん、友達は選ぶようにするよ」
内心なおざりに、外面しっかりとそう答えると、ケバ三人衆は満足したのかさっさと去っていった。
流れで言うと、
エンカウント→戦闘画面→スキル発動→逃亡鶏(チキンチ○ン)→アヤナミは逃げ出した!……的な?
はぁ、微妙に疲れた。
また一息。すると入れ替わりのいいタイミングで水無月さんが戻ってきた。
「ん……」
席につくなり顔をしかめる水無月さん。
「どうかしたの?」
聞いてみた。
「いや、香水臭いから……あっ、この香水!あいつら……。アンタ、何か言われなかった?」
水無月さんはあの三人の香水の匂いまで覚えているらしい。
……まあ、確かに強烈な“臭い”だしね。
「言われたよ。『友達は選んだ方がいい』って」
「……ふーん……」
言われたことを伝えると、水無月さんは少し反応しただけで、後は急に静かになった。
んー……
ツンデレ乙女の傷心か……
「誰がツンデレ乙女よ!!」
おお、今度は地の文にまでツッコンで来た……。心を読むとは……やりおるな。
「ずっと全部声にでてるわよ……。てか、それわざとでしょ?」
「あ、分かった?」
「……死ね!」
ぷいっと、前を向いてしまう水無月さん。
……やっぱりこの反応は、かがみさんとか文乃さんに通じるものがあるな……。
「あー、ごめんごめん。
ちゃんと作戦は考えてあるから機嫌直して、ね?」
両手をついてそう言うと、水無月さんはジト目……、若干の疑いを残した顔をしながらもまた後ろを見てくれた。
ああ、やっぱり彼女は良い。そんな反応が初々しいから。
「とりあえずまずする事は、友達をつくることだね。これが一番重要なことだよ」
僕は昨日考えたことをざっと彼女に説明した。
・孤立した者は攻撃しやすい
・クラスの全員がいじめに結託することは稀。
・実行している人間は少数で大半は無関心。
・いじめに関して反感をもってはいるが、特に無関心な勢力を取り込むこと。
などなど。
「まあ、勢力ってたってそんなに沢山の人に媚びを売る必要はないけど」
こういうとき味方は一人でも、いないよりかは精神的に楽だし。
「てことで、クラスで他に孤立しているひといない?」
そう聞くと、
「孤立ねぇ……。
私、あんまり人と付き合いがないから……」
ちょっと切ないことを言う水無月さん。しかし今は細かいことは気にしない、気にしない。
「クラス内相関図ぐらい2ヶ月もあれば作れそうなものだけど」
「悪かったわね……。だ、だったらアンタはどうなの?もう人間関係把握したっていうの?」
「うん」
即答してあげた。
「はい?」
「だいたい六つぐらいのグループに分かれてるよね、このクラス。
最大勢力は女子、あのケバ三人衆もその枠内には入ってるけど主流の影響力はない。
男子は個々の付き合いで少数勢力が散らばってるけど、基本は体育会系の部活の人と文化部系に別れてて、具体的な名前で言うと……」
「ごめん、私が悪かった」
何故かこめかみを押さえた水無月さんに謝られた。
んー、なんか気に触った?まぁ、別に気にしないけど。
「僕が見たところ、あの前の席の子……あんまり友達いなさそうだけど」
指し示す先には黙々と本を読んでいるメガネ少女。
さっきから見ていても、休み時間だというのに一歩も動いていないし、誰かと喋っている様子もなかった。
「ああ、九十九さん?
あの子はちょっと暗いというかなんというか……。
喋りかけるとすぐ顔真っ赤にしてうつ向いちゃって、うーん……よくわかんない子だよ」
水無月さんは曖昧な笑み、よりは苦笑いに近い顔をした。どうやら苦手な人らしい。
でも、僕には確信があった。
「あの子……絶対に髪とメガネの下に何か隠してるから」
「は……何を?」
彼女にはわからないのだろうか?僕には一目みた時にピキーンと直感が走ったのに(アムロっぽい感じで)。
「あの子……いちごパンツか対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイスに違いない!!!」
それかドジッ子だと凄く面白い!!
「またそっちかい!真面目に聞いてた私がアホだった……」
またまたこめかみを押さえる水無月さん。しかし今度はため息まで追加されている。んー、今フォローすべきは……、
「ストレスは体にわるいよ?」
「アンタねぇ……はぁ」
?
そう言うと、何故かさらに脱力する水無月さん。ふむ、よくわかんないから放置。
あっさり意識を外すともう興味はその九十九さんに移った。
やっぱり図書室なのかな……。
昼休みには行ってみようと僕は決心した。
〈He puts on a show like a clown.〉
はっきり言って作者はツンデレが好きなわけではない(二回目)。
前回のあとがきにはほんわり系が好き、と書きましたが、……無口キャラも好きです。(特に長門さん、長門さん長門さん長門さん…etc)
普段verだと眼鏡はいらないけど、消失verだと眼鏡があそこまで必須になるのが不思議。
長門有希ちゃんの消失〈漫画〉万歳、とか思う今日この頃。