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魔王の、正体。

「………………………………………………………」

 

 絶句、絶句、絶句。

 その静寂を破ったのは、

 

「ぷっ……あははははははっ!

 何言っちゃってんのコイツ。バカじゃね?」

 

 ケバAだった。

 

「そ、そうだよね」

「んなこと……あり得ねえし」

 

 それに釣られたのか、他の2人も若干ひきつりながらそれに同調する。

 

 そんな3人の前に立ちはだかるのは……“魔王”

  

「ふふ…」

 

 少し、またあの“嫌な笑み”をしたナガルは懐から何やら取り出した。 

 アレは……ノート? 

 真っ黒な、ノート。 

 表紙には……Death…ええっ!?

 

「違うよー?コレはただのノートだから」

 

 いや、ナガルが持ってるとあんまりシャレに見えないんだけど…。

 さらりと受け流しながらナガルはノートをいくらか捲り、目的のページにたどりついた洋だ。その視線があの三人を射貫く。

 

 「ケバ…いや、これは止めよう。……赤松ユカ、だっけ?」

 「え……?あたしの名前…」

  

 驚く彼女(ケバC)を尻目にナガルは問う。

  

「君…、昨日で万引き何回目だった?」

「なっ…!?」

  

 は……?何を言ってるの?

  

「荒川エリナ。喫煙と飲酒はカメラの無いところでやったほうがいい」

「っ……!!」

  

 “彼”はこともなにげに淡々と告げる。

  

「そして和月カリン。

 ……うちの学園の制服を着てやる援助交際(うしろめたいしょうばい)は止めて欲しいものだね」

 

 ――彼女達にとっての“絶対の秘密”を――

 

「…………何で」 

「ん?それは“何でいつも一緒の2人ですら知らないことを知ってるの?”って意味の何でってこと?」 

「……お前……」 

「いじめ“だけ”じゃ立証難しいし、実行犯特定しにくいから、手っ取り早いものないかなーって探したら出るわ出るわ……埃だらけだ」

 

 最悪だよ、とナガルは付け足す。

 

 

「……学園に、言うつもり?」

 

 すこし間があって、それでもケバAは顔を上げ歯を喰いしばってナガルを睨み付けている。

 しかし、明らかに虚勢だとわかるほど声に力がない。

  

 それと対照的に平然としてるのはナガルだ。

  

 さながらそれは、盤上の(ピース)が自分の想像通りに動いていくのを眺めるゲーム・マスターのようで……

  

 王手(チェック)はもう済まされたのだ。

  

「もう遅いよ。“僕”に知られた時点でゲームオーバーだから」

 

 後は…チェックメイトするのみ。

 




 

「だって、この学園の理事長は――僕だもの」

 

 

 

 

 

  

 

「は……………………………………………………?」

 



 

 開いた口が塞がらない、というのを初めて体験した気がする。

 

「おおっ!水無月さん。最長記録更新だね」 

「じゃ、なくて…ええええっ!?」

 

 何なんだ、その衝撃の事実は!

 

「えー?ヒントはあげたのに」

 

 口をとがらせてぶーたれている。いやいやそれはどういうことなのか私にはさっぱりですけど!?

 

「ヒント?いったい何が…?」 

「ほら、あれだよ」

  

『“僕の”学校だもの。』 

『いけないいけない。これはあくまで水無月さんの為で、そしてこの学校の者としての責務なのだから。』

『「……責任、かな」』

 

 

 

 

 

 …………え?

 

 

 

 

「微妙すぎでしょ!ていうか私が面と向かって言われたのは1つだけだし…。あれでわかる人なんて……」

 

「いるんじゃない?鋭い人ならキュピーンと」

 

「来るの!?」

 

 はぁ…、まだ頭がぐるぐるする。

 なんだアイツは魔王で理事長で、魔王だから理事長?

 

 あれ?いや……?

 

「“理事長だから魔王”なんじゃない?」

 

 あ、そう!………か?

 それでいいの……か?

 

「だって理事長なんて肩書きでもなきゃ、あんな学校改造は出来ないでしょう?」

 

「……ああ、そうか」

 

 そうか、そういうことか。

 

「私の名前を知っていたのも…」

 

「暇だったからね。全校生徒の顔と個人情報(プロフィール)くらいは覚えたよ。ま、あくまで“外面”だけだけど」

 

 その言葉には自慢の色も、何もなかった。それが当たり前とも言いたいように平坦に言うけど、それって結構…というか、かなり凄いことだよね…?



 

「ちょっと待てよ」

 

 不意に、鋭い声がした。

 

「何でしょう?ケバAさん」

 

「お前……本当に理事長なのか?どうせ、ハッタリなんじゃねえの?アタシらを脅して何かさせるためにこんなことしてるんだろ?」

  

 あ……そうか。

 

 これが普通の反応か。コイツの変人ぶりを見慣れてしまうと、コイツが理事長だっていう普通なら眉唾の話を何処かで受け入れてしまう自分がいる。

 私は妙に得心してしまった。

 

「証拠を見せろ、と?」

 

「ああ、あたしらが納得するようなもんを……」

  

「そんなことを聞くってことは、君は“僕がハッタリ屋のバカで、金でも積めば何とかなる”と、そう思ってるの?」

 

「………」

 

 無言。それが肯定の意を示した時、

 

 

 

 

 

「舐めるな」

 

 

 

 

 一喝が、走った。


 体が強張る。強い意志が、私を素通りして目の前の人間にぶつかっていく。私に直接向けられたわけでもないのに心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥る。

 

「君はまだ“何とかなる”と思ってるのかい?まだ“自分は悪くない”とでも?」

 

「…………」

 

 いつになく厳しい口調で言われ、彼女らは口をつぐむ。その様子はまるで叱られたことのない子供が怒りを向けられて困惑しているようで。

 

「僕が誰であれ、君の、キミラの行為は取り消せない」

 

 それに、とナガルは言う。

 

「君、自分が好きではないでしょう?」

 

「……(それ)が、今の話に何の関係が…」

 

「つまらないんだよ。キミ」

 

 はっ、と息を呑んだ。“それ”は少し前に私が言われたことと全く同じ言葉だった。

 彼からの一方的な、冷たく鋭利な拒絶(ひてい)

 

「何で……オマエにそんなこと言われなきゃならないんだ!」

 

「つまらない人間は他の人間までつまらなくするから。……それが理由だよ」

 

 呟くようにそう答えたナガルは、何処か、(まったく私の主観だけど)哀しそうに見えた。

 

「僕は楽しいことが大好きだ。そして、楽しい人もね」

 

 “楽しい人”。彼の言うそれはきっと、文字通りの意味ではないだろう。

 話が面白くて人を笑わせる様な人ではなく、誰かにすれば面白くなくても、また誰かにとっては楽しい人。

 そんな……


“誰かにとっての愛すべき誰か”

 

 それを傷つける権利を、一体人類の誰が持っているのだろう----?

  

「君は何故こういうことをしたんだっけ?性格の相違?痴情のもつれ?嫉妬?ひがみ?」

 

「っ!!」

 

「……どうなの?」

 

 言いにくいことをスパッと言ってナガルは相手の様子を出方を伺っているようだった。

 

「………!!」

 

 その相手、ケバAはあからさまに不愉快さを露にしている。そしてついには、

 

「コイツが……ウザいから。ムカついたからだよ!悪いか!?」

 

 ……っ、開き直りを!

 無惨に汚されたあのペンケースが頭をよぎった私は、カッとなって抗議しかけた。

 しかしその前にナガルが代わりに返答をしていた。

 

「やっと本音が出たね。 まぁ大丈夫。キミもウザいから」

 

「なっ……」

 

 ニッコリ。それはそれは全く害意を感じさせないようで、実は害意しかない笑み。

 今さら思った。

 コイツはドSだ、と。

 

「いじめに理由をつけようとするから余計惨めだよね、キミら。人の尊厳踏みにじってたって自覚あるのかな?」

  

「………ふん」「……」「……」

 

「……キミらはやり過ぎた。処分する名目もある。あー、こういう時に言うのかな?『ソ○モンよ……私は帰ってきた!』って」

 

「絶対違うと思う」

 

 “ここが年貢の納めどきだ!”とかならまだわかるけど、なんだソロモンって? 

 ……まあ、もうこういう会話も慣れたからわざわざ聞きやしないけど。

 

「それで~、まだ処分に異存がある人はいる?」

 

「……そんなの、あるに決まってんだろ!」「つーか福島って…」「わけ、わかんねぇし」


 口々に喚き、呻き、呟く声。

 ……アイツらは自分が助かる道を探している。何となく私はそう思った。



「福島の系列校がそんなに嫌?……じゃあ、退学にしてあげようか?」

 

「え?」「な…!?」「っ…!」

 

「これは、温情に満ちた処分だってわからない?

 万引きは一回くらいは大目に見れるけど、そう何度もされるともう君はただの窃盗犯だ」

 

 いくら親御さんの権力を使って揉み消しても、とも言う。

 

「飲酒、喫煙。普通の学校なら停学で済むかもしれないけど、我が学園は名門で通っているからね。

 理事会に挙げれば処分は相当厳しいものになる」

 

 しかも理事会は僕の思いのままだし、とも言う。

 

「援交は…言うまでもないね?」

 

「……だけど親が、親に騒がれたら学園の評判だって…」

 

 ケバAは…、というよりあの3人衆は、もうボロボロだ。

 

「逆だよ。騒がれたら困るのは君らのほうだろう?

 こんな経歴が表に出れば、他のどの学校が受け入れてくれるだろうね?

 だから言ってるじゃないさ。“温情に満ちた処分”だって」

 

「う…、うう……」

 

  追い詰めている。

 ナガルが、アイツらを。

 

 ……不思議な心境だ。ここは喜べばいいのだろうか。

 それとも――

  

「3人とも自宅に戻って親御さんと話をしてきたら?もう連絡は秘書に行かせたし、きっと帰りを待ちわびてるよ。

 ……きっと、ね?」

  

 その時、ピルルルルルと携帯が鳴った。

 

 どうやらケバAの物らしい。それに続いて、2人の携帯も鳴り出す。

 

 ――着信に映る文字は、、、[ジタク]、《自宅》、<親>――

 

 がくり、ケバAが崩れ落ちた。


 

 

 それが、終幕の合図だった。

約一ヶ月ぶりの投稿です。いや文章自体はモバゲーにあるので、ひとえに私のスキル『面倒くさいことスルー』が発動した結果でした。本当に申し訳無いです。


物語のほうは結末を迎えた、と思いきや実はもう一山ありますのでしばしお待ちを。


夏休みに入った次の日から課外授業で普段と変わらない受験生の生活に絶望をぬぐいきれない今日この頃。


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