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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

断罪返しされる側の物語

作者: ひよこ1号


「いよいよだな!ティアリーゼ、君をやっと私の婚約者に出来るよ」


嬉しそうに笑顔を向ける金髪碧眼の美貌の貴公子は、この国の第一王子のリンベールだ。

ティアリーゼは慎ましやかに微笑んで応える。

でもその心中は闇に沈んでいた。


今日が最期の日。

私が断罪されて、そして。


煌びやかな舞踏会の会場ホールに目を向ければ、何も知らない紳士淑女の子女達が笑いさざめいている。

無垢で愚かな人々は、それでも大罪を犯したわけではない。

生まれた時から、そうあるように生きて来ただけだ。

胸の痛みを押し込めて、ティアリーゼはリンベールの愛する、少女の笑みを浮かべる。


「ベール様、舞踏ダンスだけ、先に踊ってもいいですか?」


「ああ、そうか。騒ぎになると、踊れないかもしれないからな。よし、最初に踊って、それからにしよう」


上機嫌で応えたリンベールに、僅かな悲しみと失望を覚える。


止めて欲しかったのか、止めないで欲しかったのか、ティアリーゼにはもう分からなくなっていた。

これから起きる断罪劇という余興なんて、ささいなこと。

嬉しそうなリンベールに連れられて、ティアリーゼは会場ホールに足を踏み入れる。

悪意のある視線と好奇の視線が注がれても、ティアリーゼは笑顔を振りまく。

友人は作らなかった。

どうせ、失くすものだと分かっていたから。

余計な情を持てば、気持ちが鈍ってしまう。

だから、標的ターゲットだけに狙いを定めたのだ。


「今日は皆の卒業祝いだ。大いに楽しんでくれ」


傍らのリンベールがそう言って、爽やかに笑う。

何ごとか始まるのかと力を入れていた人達が呆けるのが視界の端に移った。

それらを無視するように、ティアリーゼの手を取ってリンベールは会場ホールの中央に向かう。


「お待ちくださいませ。婚約者であるわたくしより先に、その者と踊るというのですか」


冷たい声をかけて来たのは、リンベールの本来の婚約者のエルシア・ランゲイツ公爵令嬢だ。

ずっと、冷たい視線を向けて来ていた令嬢に、ティアリーゼは困った様に微笑む。


「ああ、そうだ。その話は舞踏ダンスが終わってからにしよう。話が始まってしまえば皆が皆、楽しめるかどうか分からんのでな」


「………仰せのままに」


他の者を盾にされては、引くしかなかったのだろう。

今、無理矢理リンベールの言葉を遮っても、話し合いにならないと悟ったのかもしれない。


曲が奏でられ、舞踏ダンスが始まる。


漸く、ティアリーゼは伸び伸びと踊ることが出来た。

今までずっと、『出来ない女』を演じなければならなかったからだ。


「おや、ティアリーゼ、舞踏ダンスが上達したのではないか?」


「ベール様のお陰です。何度も足を踏んでしまって、ごめんなさい」


上目づかいで言えば、リンベールは破願した。


「何だ、そんな事。君の足は羽のように軽いから、気づかなかったよ」


「ふふっ、ベール様ったら」


笑顔で会話しながら踊るティアリーゼとリンベールを、他の者達は驚きをもって見つめている。

あんなにも、美しく踊れる令嬢だったのか、と。

表向きはリリオン男爵家の庶子という身分である。

勉強も礼儀作法マナーも言葉遣いもなっていなければ、高位令息にだけ媚びる令嬢。

それが大方の評価だ。

だがそれは、間違っていない。

ティアリーゼはそう創り上げたのだから。

この後断罪されるエルシアへの冤罪は、ティアリーゼの考えたものではなかったが。


教科書を破られた事にしよう、と言ったのは宰相の息子のローウェン。

噴水に落とされた事にしよう、と言ったのは大商会を抱える、伯爵家のソゴス。

突き飛ばされた所を見たと言ってあげよう、と言ったのは財務卿の息子、エルダス。

実際に君が汚い言葉で罵られていたのを見た事がある、と言ったのは枢機卿の息子、ユリアン。

階段から落とされた事にすれば完璧だ、と言ったのは騎士団長の息子、ソーヴィス。


彼らには揃いも揃って愛らしい婚約者達がいるというのに。

目新しいティアリーゼに夢中になっていた。

主君の相手、としてではなく自分の恋人として。

どうしてそんな事が許されるのかティアリーゼには分からなかったが。

別に身体を繋げた訳ではない。

この王国では結婚するまで、婚約者のいる者は不貞を働いてはならない決まりだ。

性に溺れて道を見失わないようにするという前提で。

不貞自体が悪い事なので、ティアリーゼはその点を突かれるような真似はしていない。

ただ、ほんの少し身体に触れるだけだ。

それも、わざと触れたりはしない。

いや、心理的にはわざとなのだが、偶然を装って触れ合っていた。

例えば、同じ本に手を伸ばす時に手が触れ合うとか、よろけたふりをして胸にしなだれかかるとか。

けれど、ずっと触れ合ったままにはしない。

驚いたように離れて、頬を赤らめて、ごめんなさい、と恥ずかしそうに謝るまでが一式セット

近くに居れば、そういう事も起こるよね、たまには。

と、いう程度。

あまりやり過ぎたら逆効果になるのは分かっている。


高価な物を欲しがったりはしない。

ただ、いいなあと羨ましそうに見るだけ。

私になんか似合いません、と断ったりもするし、貰う時も遠慮する。

最終的には勿論受け取るが、瞳を潤ませて感激したように礼を言えば、彼らは満足するのだ。

だからといって、彼らを馬鹿にしている訳でも下に見ている訳でもない。

人は、愛情を返されれば、愛を与えたくなる生き物だ。

そこに付け入るだけで、大抵の人々は篭絡できる。

きちんとした愛を受け取り、持っている人や、そもそも精神構造が違う人間には通用しないけれど。

だから、ティアリーゼは嘘も言っていないし、虐められたとも言っていない。

小さな嫌がらせや叱責は確かに、あった。

その度に涙目で謝るだけで、誰かが目敏く見つけて庇ってくれる。

高位令息だけ狙っていると言われていたが、それはほんの少しだけ違う。

男性達に好意的に見て貰えるように、高位貴族以外の令息達にも愛想は振り撒いていた。

けれど、重要な情報を持っている高位貴族の令息達に対しては、手間も時間も掛けていただけだ。


結果、知らず知らずに彼らは重要な情報を漏らしてくれた。

屋敷に遊びに行く体で、警備状況を調べて、忍び込みやすいように仕込みもする。

警備は大抵外に向けられていて、内側に敵がいる事を想定していない。

鍵型を取られたり、抜け道を知られていたりする事を前提にはしていないのだ。

けれどそれも、高位貴族の家程難しくなる。

令息はだめでも、使用人が優秀な場合も多い。

そうなったら、令息を通じて手の者を送り込む。

平民の時の知り合いが困っていて……と涙を滲ませて相談すれば、大抵下男として雇ってくれる。

最初は警戒されたとしても、一年も真面目に働けば、皆心を許し始める。

職務だけを熟す訳ではない。

自分の仕事以外も精力的に手伝い、優秀さを示しつつ、周囲にも人当たりよく優しく接して、信頼を勝ち取っていくのだ。

そしてそれが、ティアリーゼへの信頼にも繋がる。

良い使用人を紹介してくれて良かったよ、と礼を言われる事もあった。

何をされているか気づかないまま。


「ベール様、今までお世話になったお友達とも踊って良いですか?皆にはとても良くしてもらったので」


「ああ、いいよ。ただし、最後にはまた私と踊ってくれ」


「ふふっ。是非お願いします」


王子の許可を得て、令息達と踊る。

羽のように軽く、くるくると。

それぞれの睦言に答え乍ら、笑顔を向けて。

これが、最後だから。


全員と踊り終えて、リンベールとも二回目の舞踏ダンスを終えたところで、エルシア公女が痺れを切らした。

それはそうだ、もう二時間も経とうとしている。

七曲も踊り通したティアリーゼに誰も違和感を持たない方が滑稽だ。

そこまで体力のある令嬢など、ほとんどいない。


「そろそろ宜しゅうございますか?二曲目まで踊るなんて、答えは決まっているのでしょうけれど」


嫌味と共に吐き出された言葉に、リンベールは手を挙げて演奏を止めた。


「良いだろう。私は心優しいティアリーゼ嬢に惹かれていた。それは認める。だが、それが君が彼女に嫌がらせをして良い理由にはならない。ティアリーゼ嬢には何の罪もない。冷酷な君は国母に向かないと思う。よって、婚約は解消させて貰う」


「解消については承りますが、陛下はご承知なのですか?」


「いや、本日これから申し上げに行く」


「王太子の地位をお捨てになるほど、その令嬢を愛していると」


「後ろ盾から降りるというのであろう?勿論、それで構わない」


あっさりと言い返されたエルシアの瞳には、怒りとそれから愉悦。


「それだけでは済まないでしょう。だってその者は他国の間諜なのですもの。そのような者に篭絡された王子など、王族に連なっていられるかどうか」


「何を言っている」


徹底的に身分は隠したし、平民の出自までは辿れない。

丁度良い人間から身分を買って、その母娘には他国へと行かせた。

男爵は元々この国の人間ではなく、彼も間諜である。

他の者との連絡方法も、それと悟られるような方法はとっていない。

だからこれは。


売られたのね。

用済みだから。


穏やかに笑んだまま、エルシアの言葉を待つ。


「ですから、その女は帝国の間者なのでございますよ。王族の暗部に調べさせた結果でございます」


「……ティアリーゼ」


信じられない、という目でリンベールがティアリーゼを見る。

ティアリーゼは、完璧に優雅な淑女の礼を執る。

今までみせていた、たどたどしい物とそれは違い、エルシアまでが凍り付いた。


「では、わたくしが皇帝の落し胤という事まで、ご存知でして?これでも皇女でしたのよ、末端の庶子ですけれど。皇位継承権も低位ながらありますの」


優雅な礼に言葉遣い。

それは帝国で淑女教育として仕込まれたものだ。


リンベールの問いかける瞳に、エルシアは首を横に振って応えた。


「でしょうね。都合の良い情報だけ渡されたにすぎませんもの。では、既に兵が国境を越えている事もご存知ないでしょうね?わたくしの正体が分かったのはつい先程かしら?用済みになった途端これですもの、帝国は怖いですわね」


何てことの無いように言うティアリーゼを、会場ホールにひしめく可愛い羊たちは呆然と見つめる。

突然紛れ込んだ、初めて見る狼にどうしたら良いのか分からない様子だ。


「さて、皆様。皆様は人質ですの。その命が奪われぬよう、その尊い身が傷つけられぬよう、大人しくいてくださいませ。この部屋から決して出てはなりません。外は戦場になりますから。ああ、そこにいる騎士達も帝国の者達ですから、丸腰で立ち向かっても死ぬだけです。どうぞ、御命は大切に」


「待て、ティア…」


「時間がございませんから……でも一つだけ。皆様と過ごせた、この三年は楽しゅうございました。どうぞ、皆様無事に生き延びられますよう」


優雅な礼を残して立ち去るティアリーゼが出て行った扉の前に、鎧を着た騎士が立ち塞がる。

番犬達に囲まれた羊は、大人しくその場に止まるしかなかった。



「皇太子殿下はもう街に入っているの?」


「城壁の外の天幕においでです。王城の内郭は既に制圧済み。死傷者は双方僅かです」


「そう。では手筈通りに兄上にお会いしましょうか」


衣装ドレスを着たまま馬に横座りで乗り、城外へ走り出す。

静かに行われた戦に、町は何時も通りの喧騒を保っていた。

王城の内部と、夜会に使われた離宮だけが隔絶されているのだが、皇太子が街に踏み込めば余計な命が失われるだろう。

避難させても良いのだが、もっと良い方法がある。


「おお、来たか。ティアリーゼ、美しくなったな。殺すのが惜しいほどだ。殺す前に良い褒美を与えてやろうか」


両手を広げて仰々しく言う皇太子の言葉に、近衛が下品な笑い声を立てる。

この皇太子にして、この騎士達有り。

ティアリーゼは表情を変えずに、柔らかい声で言った。


「何を仰いますやら。父上はわたくしの婚約を認めて下さる予定です」


「おや、我が妹は変わっているな。死体と結婚したいとは」


「……そう、ですか」


出来るだけのことはした。

愛しい人の命を守ろうと、ここまで走り続けて来た。

彼を守る為の術は残してきたけれど、無駄に終わったのかもしれない。

表情の抜け落ちたティアリーゼを、もう一度揶揄しようとした皇太子の腹に剣が突き刺さる。

剣を無造作に突き立てたのはティアリーゼだ。


「……お、お前、私は皇太子、だぞ」


「変わっておりますのね、お兄様。死体になるのだから地位はもう関係ございませんのよ」


反応が遅れた近衛騎士達を、ティアリーゼの背後に居た騎士達が切り伏せる。

酒精に塗れた彼らは、呆気なくその命を手放した。


「まだ、間に合う。助けろ、ティアリーゼ……」


「いいえ、間に合わせる気がございませんの。本当はお兄様の命と引き換えに交渉する気でございましたから、彼がいないのなら、お兄様も用済みですわ。その首さえ頂ければ良いの」


愕然とした兄から、ゆっくりと剣を引き抜く。

その腹からは止め処なく血が溢れて来た。


「…ち、違う……お前を揶揄っただけで、本当は、」


「今更遅いですわ。先に冗談だと仰ってくだされば良かったのに」


本当の所はどうなのか、今は分からない。

けれど、彼は殺されてしまったのだろう、と思う。

彼は庭師だった。

ティアリーゼから見れば年上の優しい男性で。

冷遇される家畜の様な庶子の皇女達の一人だったティアリーゼに、彼はある日花をくれた。

庭に落ちて捨てられる花が、何だか自分達のように思えて可哀想、と呟いたティアリーゼの為に。

それから、ずっと。

庭に咲き誇る一番最初の花を摘んで、彼は捧げ続けてくれた。

彼から貰える花が野の花でも大輪の薔薇でも、等しく美しく、ティアリーゼの心を温かくする。

だから、要らない皇女なら、彼の妻になりたいと願った。

ティアリーゼに与えられた条件は、皇太子の戦の為の下準備をする事だ。

皇后と皇帝が溺愛する、皇太子の為に。


「その首を切り離して頂戴。持って行くわ。片耳もお願い」


「まだ息がありますが」


「良いわ、別に。もう虫の息でしょう」


声にならない声でやめろ、という皇太子の首に、騎士の剣がめり込む。

皇太子の目からはすぐに光が消えて行った。


「あとその指輪と装飾品を剥がして。一緒に送らないと誰の首か皇都に着くまでに分からなくなりそうだもの。……いえ、そうね。送るのは少し待ちましょう。国王との話し合いの結果によるわね」


首を皮袋に詰めると、ティアリーゼはそれを抱えた。

片耳は別個に布に包んで胸元に忍ばせる。

これはいつか、皇帝陛下と皇后陛下に見せる為の小道具だ。

皇帝陛下に耳の形が似ている、と褒めていたのを目にした事があったから。

腐って干からびてしまったら、それでもいい。

ティアリーゼは血まみれの剣で衣装ドレスを汚さぬように注意を払いながら、天幕の入口へと向かう。

戦の為に集まった兵達は、皇太子と馬鹿な近衛騎士達にうんざりしてきた筈だ。


「ここの者達の処遇は貴方に任せるわ、ローレンス。殺すか逃がすか仲間にするか、貴方の采配に任せます」


「その様な大任をこの老骨めに?」


「貴方の目は確かだもの」


無邪気な笑顔を浮かべ、ティアリーゼは兄の首の入った皮袋を抱えて、王城へと引き返した。

残された幾人かの騎士達は、ティアリーゼの望む通り働き始める。


王城には、沢山の騎士達がいた。

掌握したのは宴をしている周囲の騎士達だけだ。

衣装ドレスを着たまま戻って来たティアリーゼと付き従う騎士達が見咎められることはない。

そのまま王がいる、宴の間まで歩いて行く。

途中呼び止められはしたものの、「リンベール殿下のお使いで参りましたの」と言えば問題なかった。

それほどに、ティアリーゼの噂は広まり切っていたし、顔も覚えられている。

宴の間に入れば、国王たちは悄然としていた。


「何故、戻って来たのだ」


それでも威厳を損なわずに、国王が重々しく問う。


「お助けに参りましたの。敵の将は討ち取って参りました」


ざわり、と会場ホールが揺れる。

王は顔色を悪くしながらティアリーゼの持つ皮袋に視線を向けた。

明らかに首である。

戦などしてこなかった人々は、涙目だ。


「淑女の皆様に倒れられては事ですから、背を向けて座って頂いた方が宜しいかと」


静々と衣擦れの音を立てながら、素直に言葉に従った淑女達が背を向けて一所に固まって座る。

しくしくと泣き声まで聞こえて来た。


「何故、祖国を裏切る真似を」


「先に裏切ったのは向こうなので致し方なく。でも良い事もございました。町にいる無辜の民は傷つく事がなくなりましたもの」


「我々、王侯貴族の命は民より軽いか、皮肉だな」


自嘲したように言う国王を真っすぐに見つめて、ティアリーゼは微笑みを浮かべる。


「だって、その為の貴族でございましょう?そして我が兄は責を全うしました」


皮袋を国王の膝の上に載せて、その掌に指輪を置く。

そして、数歩下がって優雅な淑女の礼を執る。


「お約束頂きたい事が幾つかございます」


「言ってみよ」


「我々が退去した後、追わない事です。それから、折角捧げた兄の死を有効活用してくださいませ。指輪をお送りになれば囚われていると帝国に示せましょう。死んでいたとしてもそれが漏れなければ問題はございません。戦を止めるにはそれで十分かと。もしも攻める気概がございますなら話はまた変わりますが」


国王は苦虫を噛み潰したような顔をする。

今現在囚われているのは国王達の方だからだ。

この醜態を晒して、誰が戦に踏み切るというものだろうか。


「戦争を仕掛けてきたのは向こうですから、適当にでっち上げて賠償してもらうなり、条約を有利な形で結び直すなりして頂いて構いません。兄上はそうですね……解放を迫られたら死んだことにしましょう。実際死んでおりますし」


「兄の死に心は傷めぬのか」


「兄、兄ですね……庶子である妹達をいたぶる獣を駆除しただけですから、痛みません。兄の暇つぶしに側近達に投げ与えられた皇女の端くれは、弄ばれて自死しました。そちらの方が余程心が痛みましたわ」


国王は目を見開いて、それから重々しく嘆息を吐いてから頷く。

他にも沢山、兄の悪行を挙げればキリがない。

恨んでいる人間は数えきれない。

準備のために、その人々を訓練する事は大変だったけれど、復讐したい人間が塵よりも多くいた事だけは助かった。

ふう、と息を吐いたティアリーゼは明るく言う。


「さて。それではわたくしはお暇致しますね。皆様の御令息御令嬢は、皆様無事ですのでご安心なさってください」


「これから其方はどうするのだ。我々を罠に掛けたとはいえ、救ったのもまた其方である」


「わたくしは、帝国を滅ぼしに参りますの」


その辺に散歩にでも行く、というように天真爛漫な笑みで言うティアリーゼを見て、国王は瞠目した。

何故、と思うが、察したようにティアリーゼが言う。


「愛する人が殺されました。理由はそれだけで充分です。死んでも構いませんし、何年かかろうと手を緩める事はございません。では、皆様御機嫌よう」


扉の前で悠然と、優雅な淑女の礼を執り、ティアリーゼは宴の間を後にした。

その後ろを、制圧していた騎士達が付いて行く。

誰も立ち上がる者はいなかった。

鉢合わせてしまえば、戦に逆戻りしてしまうかと思うと、動けなかったのである。

自分達だけでなく、子供達の生命も掛かっているし、一国を滅ぼすと言って見せ、実際に滅ぼしかけた皇女の怒りに触れたくはなかった。

しん、と静まり返る宴の間に慌ただしい足音が響き、子供達が無事な姿で現れたのを見て、貴族達は再会を喜び合ったのである。

その後、篭絡された令息達の婚約は破棄になったものの、罰は免れた。

親達も同じだけの無能を晒したからだ。

令息、令嬢達に再教育を施し、警備や国内の軍備の見直し、情報の取り扱いにも改善を行った。

生命の危機に瀕し、修道院へ行く者や望んで後継を下りて平民になる者も少なくない数居たのである。


ティアリーゼの偽装に手を貸したリリオン男爵は、そのまま王国に留まっていた。

調査に向かわせた者達にも「いやはや、私も騙されまして……」などと言い、のらりくらりと躱したのだ。

捕まえて拷問を、と王城に連れ帰った騎士も居たが、「定期的に連絡を入れないと困った事になりますな」などと言われれば、解放せざるを得ない。

実際に帝国との会談では、起きなかった筈の戦で精鋭部隊を喪ったので賠償額を引き下げるよう交渉があったのだ。

彼らが何処に消えたのか、大方の予想はついていた。

そして、帝国では反乱が頻発し始めて、他国への戦どころではなくなったという。

内乱の裏にはきっとあの少女が暗躍している。



今回はちょっと間諜なのに卒業パーティまでいる理由を考えて書いてみました。

流石に王子の婚約者にそのままなろうって考えるお馬鹿さんは間諜なんて無理ではないか?

もしもなるのなら徹底的に身元隠すから調べきれないのでは?などなど

捨て駒か全て事が終わっているかどっちか。その両方にしてみたのです。

彼女は何れ帝国を滅ぼして本懐を遂げるでしょう。


ひよこも!桃は固いのも柔らかいのも好きです!

桃あまーい!おいしーい!たかーい!高いけどまた食べたーい!

今年はメロンも沢山食べました。美味しい。

アメリカンチェリーも食べました。

果物いいですね!ついばむひよこ、幸せ。

誤字脱字に感想に食べ物のお話、毎回感謝ひよこ。

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― 新着の感想 ―
誤字報告の補足として 〉ティアリーゼの違和感に誰も気づかない 「違和感に気づかない」という表現に違和感があります。 「違和感を覚えない」「違和感を持たない」ではないかと。
帝国を落とすまでの皇女の話か落とせず悲恋になる話か、どちらも続編が期待できる、というより続編を期待しています。
面白かった。 > 「兄の死に心は傷めぬのか」 > 「兄、兄ですね……庶子である妹達をいたぶる獣を駆除しただけですから、痛みません。 痛むと傷むは同じ意味にも使われるけど、主な意味は ・痛む:苦痛を感…
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