33
さっき眠りについたばかりなのにぃー……
なんて思いながら支度を整えてもらっています。ディアブロとグロリアに。
『ふあぁぁー………洋服一瞬で着替えられるようにできたー?』
『………』
駒の1人、研究気質なロイドに声をかけてみましたが、寝ているようです。
「ヒナノ、いいか」
バーナビーが遊びに来てくれた!
「…か、かみ、んんっ!神様は、その、」
「おりません」
「そ、そうか…」
ディアブロが眠くて声が出せない私の変わりに答えてくれた。
きっとアレスは遊んでるんだろう。
「ヒナノ、聞きたい事がある」
支度が終わったのかグロリアもディアブロもドレスに触ってない。
「ね、眠いのか?」
声、出さなきゃ。
「……………なあに?」
「大丈夫か?」
「ん」
起きなきゃ駄目だ。
ちゃんと生活してるんだから。
襲いかかっている睡魔は抗えるんだから、抗わなきゃ。
「大丈夫!どうしたの?」
「ああ、いや………」
「?」
話があると言ったのに、言いづらそうな表情をしたまま口を開こうとしない。
「大丈夫?」
「ああ…」
今度は私が心配する番になった。
「あー…」
「?」
「いや、正直に聞こう。国政をしたことがあるのか?」
その言葉を聞いて己の現状を理解した。
眠くて力の扱いが拙いだけ。なんて思ってたけど、どうやら頭も上手く回っていなかったようだ。
昨日の私がした行動、言動は今までの“ヒナノ”とは異なる。馬鹿でなにも分からない奴だったのに、いきなりディビシー男爵を入れ込んだり、アデルフェル家を排除したりと…うん、今までの私とは違う行動だ。あきらかに。
「どうして?」
「あまりにもスムーズだったからだ」
「そっかぁ…うーん…国政になるのかな?」
「うん?」
「森に住んでたから、そこで仕事したりしてたけど、それがバーナビーにとっては国政に見えるのかもしれないね」
「やはり異世界は不思議がたくさんだな」
「ふふっ」
誤魔化してみたけど、もういいかな。って実は思ってるんだよね。
バーナビーから心配されて、リンジーが友達になってくれて、グロリアは対等でいてくれる。それに……子どもの愛に気付けたから。
愛されたくて召喚された私は確かに愛を貰った。欲しかった愛を。
私は天使だからこれからもこんな事が訪れるだろう。
「あまり無理はするな」
「それはバーナビーでしょ?」
「ははっ!」
「………バーナビー」
「ん?」
「……女の子には色んな面があるんだよ?」
「ははっ!それもそうか」
でも、正体を言うのはやめておこうかな?
だってバーナビーが面白おかしくなっちゃうもん。
一番はどう説明したらいいか分からないだけなんだけどね。
「せっかくだからエスコートさせてくれ」
「わーい!」
今日は城内を歩く日らしく、途中までバーナビーに案内されながら色んな人の目に止まった。
図書館に行く事も決まっていたようで、いつもの個室に入ると読み途中の本を手渡された。
本当は寝たいけど………ディアブロが用意してくれた天使様の道筋を崩しては駄目だろうと本を開いて読み進めた。
その日からは城内を歩いたり、貴族数名とお茶会をしたり、図書館に行ったり………。
部屋に帰るとすぐに寝たくなるけど、リンジーたちが心配しちゃうかもと思ったので、夜までは起きている。
そんな日々。
「ケーキを一緒に食べませんか?」
「…」
部屋に居て、本を読んでいるとどうしても眠くなってきてしまうから、度々お茶のお誘いをしてる。大体、リンジーかグロリアだけど、ディアブロを誘う事もある。
「今日はフルーツタルトです」
「…」
「飲み物はコーヒーが合うと思うんですけど」
「緑茶を」
「温かいの?」
「はい」
誘いに乗ってくれるディアブロは必ず緑茶を望んでくれる。
「美味しいですか?」
「はい」
「そうですか、これは私の気に入りなんですよ」
「…」
こうして言葉を交わすディアブロを見て驚く人は少ない。
最近はお茶会を開くとこうして言葉を交わしたり、私の突然の質問にも答えてくれるから珍しい光景ではなくなっているんだ。
「ディアブロは」
「詠唱にした理由を問いています」
「…」
必ず言われる言葉も最近あるんだ。
嘘は禁止と言われた日から無言を貫いている私の嘘ではない言葉を聞き出したいらしい。
それは私の心配をしているからだという意味も分かってる。分かってはいるけど、嘘以外の内容はとてもじゃないけど言えないので、結局無言になってます。
「チョキチョもあります。食べますか?」
「いらない」
「め……ずらしい、ですね」
「…」
「いらない」なんて言葉は言わない。
いつも無言だったのに………あれ?そういえば、私を食事の場で押し倒した時も確か……私が「チョキチョ」と口に出したから?
んん?チョキチョにディアブロも思い出が?いや、この国でのこの食材の言い方はチョキチョではなく、「ダマニ」だ。
「チョキチョのなにが」
「気に入らない」
「「…」」
話に被せるディアブロもまた珍しい…。
聞いちゃってるリンジーも、ぽかん…としたお顔してるし。
にしても“気に入らない”?
好きや苦手や嫌いではなく、気に入らない。
それは食材自体に思う事ではないだろう。
「目の前で食べても大丈夫ですか?」
「………好きなんだろう」
「?はい」
「…」
「…」
相変わらず話の終わりがない人だ。
「天使様!」
「「「「!?」」」」「…」
起きている時にアレスと会ったのはあの日以来だ。
「起きていらしたんですね!」
敬う事はやめてね?なんて言っても通じるかどうか…。
「あ、違う…てん、て、天使よ!」
「うん?」
ああ、ゼトスにでも言われたのかな?敬っちゃ駄目っすよー。って。いい子だね。
「これはどうだ!」
「もごっ!」
「美味いか?」
「コクコク」
「そうですか!あ、いや、そうか!これは私の気に入りだ!天使様も気に入ると思っていたのだ!」
天界の食材を投げ入れられた。
ついでに酒も目の前に置かれた。
どうやらアレスは、
「これも好きだ!」
「もごっ!」
好きな人とは好きを共有したいタイプらしい。
様々な料理を取り出しては私の口に放り投げる。
「天使!これは」
「おやめください」
「む?」
いつかのように私の口元に手をやるディアブロはまた止めてくれたんだろう。
「天使様が苦しそうです」
「そ、それは駄目だ!だ、大丈夫ですか!?い、痛くないですか!?くる、苦しいですか!?」
「もぐもぐもぐもぐ………大丈夫だから落ち着きなさい」
「はい!」
「はい」はやめて欲しいかな?人間に擬態してるって意味を一応分かってはいるみたいだけど、ギリギリアウトかな?
「ゆっくり食べるのが好きなの」
「はい!」
うん………
ま、まぁ、頑張ってるね?
「バーナビーの国は見た?」
「ん?」
「綺麗だよ、とても」
「そうですか…ご覧になられましたか?」
「うん、綺麗な世界だね」
「はいっ…はいっ…」
ヤバイ………アレスが泣いたら訳の分からない事になる………というかなってる。
みんな呆然と見つめてるし。
「リンジー、櫛ある?」
「ございますよ」
櫛を渡してくれたリンジーの手を取って席を立ち、そのままアレスの背後に回って髪の毛を梳かす。走り回ったのだろうボサボサ髪よりは、整えられていた方がいいだろう。神的見た目は。
「ん?」
泣き止んだのか今度は体をゆらゆらと揺らし、落ち着かない様子のアレス。
「こ、幸福…です…」
「そう」
支度を整えられるのが好きらしい。
大人しくできないのか頭がフラフラとあっちこっちにいく。
「天使様、神様にお願い事がございます」
そう言ってきたのはリンジーだった。
私を通してお願いしたいという事かな?それにしてもなんだろう?
「うん?」
「他の国では天使様が降臨される場所が分からない事もあるのです。ですから次代の天使様が憂いなく暮らせるよう、場所の把握をしておきたいのです」
他国からの要請か。
それもそうだよね。何万年前か知らないけど、アレスが教わった場所を人間が忘れちゃう事もあるだろう。
「アレス」
「はい!」
「印をつけておくから、次から降臨させたい国があったらそこに。国の範囲も分かるようにしておくわ」
「は、はい!天使様のおちか……はい!」
お力って言おうとしてたのかな?
言い留められて偉いね。
「まだ眠る時間じゃないの」
「っっ!それは駄目だ!ゼトスから寝てる時以外は駄目だと言われているからな!」
それもそれでどうなんだろうか。
「バーナビーが寂しがってたわ。私の元だけでなく、愛し子のところにも気が向いたら行ってあげて」
「マージャンでもするか!」
そう言いながら消えて行ったアレスはバーナビーの元に早速向かったんだろう。
「リンジー、場所の確保が出来たら世界地図も持ってきて?その時、アレスに分かるような印をつけておくから」
「分かった、ありがとう」
「ううん、あ、この国も変えたいんだったら一緒に」
「伝えてくるね」
「うん」
リンジーが出て行き、茶会を再会しようと席に着くと、ディアブロも席についてくれた。
「どのように印を付けるか教えて頂けますか」
「…」
それはねー、神の力でねー?ぱぱーっとね?光の線を出しておこうかなー?って。アレスにしか見えない線をね?それと色違いの円を囲んでおけば国別に分かりやすいかなあー?って思ってね?そうしようかなって!
「「…」」
なんて言えないので、無言を貫き通させて頂きます。
「伺っています」
「嘘しかつかないよ?」
「駄目だ」
「じゃぁ黙ってるね?」
「…」
無言なお茶会も楽しいですよ。




