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アイスに恋とスターチス  作者: 由寺アヤ
第二章 別れ
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七話 最後の文化祭


 小学生の頃、体育館に集まり、大人数でゲームをした事があった。


その内の一つ、『伝言ゲーム』は子供ながら不思議なゲームだと思った。

隣の人から聞いた話を、そのまますぐに隣の人に伝える。そんなに長くはない文章だった。

最後の人が、紙に答えを書く。

読み上げた文章は、それはもう原型を留めてはいなかった。皆んなはそれを面白おかしく笑う。

凄く楽しいゲームだった。


でも、よく考えれば不思議だった。

なんで?そのまま伝えれば、何も変わらないはずなのに。


そのまま伝わらないから、伝言ゲームがこの世に存在する。人から人に正確に伝えるのは、とても難しいことなんだと分かった。


…そう。正確に伝わるのは難しいんだ。

それは分かっていた。

人は皆、分かっているはずだ。


伝言ゲームは、噂話と似ている。

人から聞いた噂話なのだから、伝言ゲームの様に最初に話された噂話と今聞いている噂話は違う可能性が高い。


でも、噂話の方がタチが悪い。

噂を人に伝え、ついでに自分の考えも付け足す。

「私も実はそう思っていた。多分、こうだと思う」と。

それを聞いた人は、次の人に噂話を話す時、前の人の意見をあたかも真実であるかの様に話し、ついでにまた自分の意見も伝える。



そうやって一つの物語が、勝手に知らない所で完成された。






 蕾が出来れば桜が咲き、桜が咲けば葉桜が誕生する。何かが出来れば、何かが終わり、そうやって平和な日々が回っていく。


気付けばもう、高校三年だった。



最後の文化祭は、クラスTシャツを着ているが文化祭自体には参加できず、委員のワッペンを付けて五人で見回りをしていた。


私と陽咲が前を歩き、行きたい所に行き見回りをする。その後ろを涼と健太と勝手にワッペンを涼に付けられた岳が付いてくる。側から見れば仕事をしているが、私達は私達なりに文化祭を楽しんでいた。


五人でお昼休憩をしていた時だった。


「ちょっと俺一瞬抜けていい?」


健太が誰かと電話が終わり、そう言って教室を出て行った。


それを聞いた岳が、何か思いついた様だった。

行きたい所があると言う岳の顔は少し期待に満ちていた。そんな岳の顔が愛おしくて眺めていた。


「僕達もちょっとだけ抜けてくる」


私は岳に引っ張られ、教室を後にした。

陽咲が満面の笑みで手を振っているのを見ながら、私と岳はある所に向かった。



「岳〜、どこに行くの?」


「内緒。着いて来て」


校内ではあまり二人っきりにならない私達が、手を繋ぎながら廊下にいる大勢を掻き分けているのは、少し恥ずかしかった。そして、手を繋ぎながら廊下を走るのは青春だった。



「紬、クレープ好きだよね」


着いたクラスは、教室の外まで行列が出来るほどの人気なクレープ屋だった。


「すごい並んでるね」


そんな私の言葉を無視するかの様に、岳は私と手を繋いだまま、列を無視して教室に入って行った。


「がっくん!待ってたよ〜〜〜」


涼以外に岳の事をがっくんと呼ぶ人を初めて見た。

そして、涼や健太以外に空手部ではない人と仲良く話しているこの光景も久しぶりだった。


私が色々と驚いていると、岳がハッとして我に返り説明してくれた。


「…ただの友達」


その説明にすぐ反応したのは、私ではなかった。


「おいおいおい。ただの友達ではないだろうよ」


そう言って、今度は友達の方が説明してくれた。


「どうも。がっくんの幼馴染で幼稚園からの仲の近藤莉久です」


「ふふふっ、仲良いんだね」


「はい!」


学年は私達の一つ下で、凄く人懐っこく、可愛らしい男の子だった。

莉久君が案内してくれた席は、予約席と大きく書かれ、席もカラフルにデコレーションされていた。


私が注文したクレープを笑顔で莉久君が運んでくれて、三人でたくさん話をした。



私にとって彼氏である岳の親友は、初めての存在だった。


 

 岳はあまり進んで自分の話しはしない。

幼馴染が同じ学校にいる事も今日知った。

莉久君はスポクラではないし、学年も違うから教えてくれないとそもそも学校で会う事は無い。

だから莉久君の存在は全く知らなかった。


莉久君が幼い頃の岳の話しをたくさんしてくれた。

私がその話に夢中になって、楽しい時間はあっという間だった。


 

 私達は一応、文化祭の委員である。

その後は直ぐに呼び出され、罰ゲームかの様に仕事がたくさん舞い込んで来た。


昼間のクレープで莉久君に出会い、沢山話しして、沢山写真を撮って、凄く楽しい時間を過ごせた。

でもその時間を忘れるくらい、私達五人の午後は仕事三昧だった。



 


「文化祭は文化部でするものでは?」



高校最後の文化祭。

私達が文化祭も仕事したのは、三年間体育員になり、担任は同じ顔ぶれ、今までになく気軽に頼みやすくなったというのが理由だそうだ。


この中に、必然的に参加させられる岳。

岳も二年生の後半頃から、ほぼ体育員になった。


今日も最後の最後まで五人で仕事をやり切った。

最後の年の文化祭なのに、学校を出る頃にはすでにクラスの打ち上げには間には合わなかった。


だから結局五人でいつものファミレスに行った。



「疲れた」


身も蓋も無い健太の感想は、全員の感想でもあった。

 

私はみんなに確認し、とりあえずドリンクバーを人数分注文した。

いつもはすぐにドリンクバーのコーナーに向かうのだが、今日のみんなの腰はダンベル並みに重たい。



「...カンパイ」


全員がドリンクを入れ終わるのに注文してからどれくらいが経っただろうか。

でも実は喉が渇いていたのか、一気にジュースを飲み干しそれと同時に元気も徐々に回復してきた。

これぞスポクラだ。


「そう言えば、体育祭の借り物競争で健太と一緒に走った女の子、今日も見かけたよ」


私は不意に思い出した昼間の光景を健太に話した。


実はその女の子の事を私は体育祭の頃から気になっていたのだ。

女の子は体育祭の借り物競争で隣のクラスの堀村君と健太と一緒に走り、会場にいたみんなに感動を与えた。

その時ゴールテープを持っていた私は、そのシーンがすごく印象に残っている。


「僕も見かけたけど、堀村と一緒にいた」


岳も目撃情報を提供する。


「あれは好きだね」


陽咲が二杯目のジュースを一気に飲み干しながら言った。


「蘭だろ?」


「誰それ」


涼が健太に尋ねたが、その質問に答えたのは陽咲だった。


「空良の好きな子」



一瞬空気が凍りついた。

陽咲の口から『空良』と聞いた瞬間、そう言えば一年の頃に陽咲は堀村君のことが好きだと言っていたのを思い出した。


陽咲は普段サバサバした性格で、恋愛に興味があるのかどうか分からないくらい恋バナはしない。

もちろん高校に入学してから今まで、陽咲に彼氏ができたことがないので、陽咲の恋愛事情をすっかり忘れていた。


恐らく、みんなも今思い出したのだろう。

その微妙な空気に健太だけはいつも通りだった。


「それはないな」


そして健太は陽咲に向かって、空良が蘭と言う女の子のことが好きだと言う陽咲を否定した。


「あんた鈍感って良く言われるでしょ」


陽咲は健太を冷めた目で見ている。

これは仲が良い証拠だ。


その姿を、健太と陽咲のいつもの言い合い見て、私達も自然と笑顔になれる。


 


ついこの前は五人で仲良く過ごしていたのに――。

二ヶ月前は五人でこの席に座っていたのに――。



 私達はそれぞれインターハイを終え、高校最後の夏休みが終わり、二学期を迎えた。


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