五話 転校生
入学してから二回目の春が訪れた。
新学期が始まる前日、その日は午後から部活がオフと言う貴重な日で、いつもはすぐに帰宅するかカップルはデートの準備で、練習終わりは皆がそれぞれ忙しい。
でもその日はあまりにも天気が良く、部室に戻る前に目に飛び込んで来た校庭に咲き誇る桜を眺め、つい足が止まってしまった。
「あ……」
「……お疲れ」
少し離れたところで同じ様に桜を眺めていた陽咲と目が合った。
オレンジのギブスとドリンクを持ち、脱力しきった陽咲の様子を見ると今日も練習がハードだったんだなと聞かなくても伝わってきた。
陽咲の足が一歩も動かないので私は桜を眺めながら陽咲に近づいた。
「今日もデート?」
桜を見上げながら興味があるのか無いのか分からない声のトーンで陽咲が質問してきた。
「時間が合えば会うくらいかな」
やっぱり興味はさほどな無かったのか、それ以上質問はしてこなかった。
どれくらい時間が経っただろうか。
私たちは知らない間に地面に座り込んでいたのだが、しばらくしてから陽咲が急に立ち上がった。
「花見しようよ!」
人はお腹が空くと少し不機嫌になりがちだが、陽咲は違う。
陽咲の場合はお腹が空くと少しHPが回復するのか元気になる。
これは私が陽咲に出会って一年間一緒に過ごし、最近知った事だ。
陽咲はポケットから携帯を取り出し誰かに電話している。
電話のはずなのに段々と会話が筒抜けになってきたのは、電話の相手である涼が丁度部活が終わったのか携帯を耳に当て会話をしながら私たちの方に向かってきていたからだ。
「がっくんと健太も呼ぶ?」
涼はそう言いながらすでに健太に電話していた。
それから三十分後には桜の木の下に五人集まり、みんなで初めてのお花見をした。
「花見と言えば団子でしょう」
弁当を食べ終わり、健太が買ってきてくれた団子をみんなで食べている時だった。
校門の前に一台のタクシーが止まり、見慣れない制服を着た背が高い学生とスーツを着た男性が校舎に入って来るのが見えた。
その学生は遠くから見てもある程度は分かるくらいに体が鍛えられて、その迫力は素晴らしかった。
「転校生かな?」
私の言葉にみんなが考え込んでいると、岳が説明してくれた。
「僕達と同じ学年の空手部――」
次の日、やはり私達のクラスに一人の転校生がやってきた。
挨拶をした感じだと無愛想で少し怖いオーラが彼の身に纏い、時間が経っても中々話しかける生徒はいなかった。
どんな時も切磋琢磨し互いに励まし合い、時には言い合いもし、この一年でクラスの団結力がやっと固まってきた所での転校生は誰も想像してなかっただろう。
そして極め付けに、その転校生の妙な噂が更にクラスで孤立せざるを得ない状況になってしまった。
その噂は瞬く間に広がり、スポクラ以外にも浸透していった。
それでも当の本人は何もなかったかの様に、平然とした様子で自分の机でいかなる時も寝ていたのだ。
少し変わった転校生が、私にだけ絡んでくる様になるのは、もう少ししてからだった。