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アイスに恋とスターチス  作者: 由寺アヤ
第五章 光
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二十八話 それぞれの想い②


 

 今から四年前、確かに岳と笹原の間でなにかが起きた。そして、二人とも高校を退学した。


あの日から二人が出会うことは無かった。


そして四年越しに、あの日の真相が、二人の関係が、笹原と言う人物が明らかになろうとしていた。



笹原は、誰の目も見ずに、静かに話始めた。

笹原の家族関係、笹原の閉ざされた心の意味、なぜ海外に逃亡という形で消えて行ったのか。

私たちには想像出来ない、笹原の過去を話し始めた。

 




お金持ちと言う噂は本当だった様だ。

しかし、笹原の家族仲は最悪の状況だった。

母はお金に目が眩み、笹原が幼少期の頃から世話は全て家政婦に、父は仕事でほとんど家に居ない。

どうやら笹原家には、表の顔と裏の顔が存在していたのだろうか。



笹原が転校して来た時、一緒に届いた噂話は酷い内容だった。

でも当時その内容を笹原は否定することなく、また普段の態度からほとんどの生徒はその噂を信じた。


私もその内の一人だったのかもしれない。


誰も笹原に寄り付かない。

笹原に話しかけるのは、お金目当ての生徒だけだった。そんな状況は長い間変わる事は無かった。

それは小学生の頃から始まっていたと言う。


笹原には一度も本当の友達はいなかった。


無口でいつも苛立ち、態度が悪い。

途中から転校してきたが、すでに仲間意識が出来上がって団結力のあるスポクラには到底馴染めなかった。


そんな笹原にとって、唯一空手だけが笹原の心を満たしていた様だ。


一時期、私は笹原と会話をした事があった。

クラスの中で笹原と会話をするのは珍しく、話を聞くと当時笹原は、人生で初めての恋を私にしてくれた。

早朝に目が覚めて、朝練までの時間が経つのを待つ日は、たまたま知った私の家を遠くから眺めていたそうだ。


当時流れていた噂も何一つ事実ではなく、笹原の正体はただ純粋な心を胸の奥に閉まった、空手が好きなごく普通の少年だった。

 

光山高校に転校して来たのも、空手を頑張る為だった。

 

あの日、確かに笹原は部室で時計を失くした。

好きな人に良く思われたいという思いでつけてきたその高価な時計は、世界に十点しかない笹原の父の物だった。


そして警察に通報したのは笹原ではなかった。

通報したのは、夕我という男だった。

 


その男は光山高校の生徒で一応は笹原の友達だった。


恐らくその男が勝手に部室に入り、笹原の時計を勝手にライバル関係である岳の鞄に入れ、警察に通報し、岳の噂を流し事を大きくした。


夕我の取ったその行動は、岳を巻き添えにした、笹原への嫌がらせだった。

笹原が警察沙汰になれば、父に叱られる事を夕我は知っていた。


 

笹原は当然の様に父に罵られた。

大事な選挙前に、自分の息子が警察を呼ぶ様な問題を起こしたから。

笹原が家に帰った時にはすでに、海外の学校に転入することが決まっていた。

 

笹原は、幼い頃から唯一信頼していた家政婦、心の拠り所であった空手、人生で初めての恋を夕我のイタズラで一夜にして全て奪われてしまった。


その後の出来事は、適当に笹原の父が、自分に影響の出ない様にした結果なのだろうか。

私達が知らない間に、笹原の人生も同じ様に壊れてしまっていた。

 


 全て話終わった後、笹原は細い声で誰に向かってなのか分からないが謝罪をした。きっと岳に対して謝罪したのだろうか。

 

笹原の話は事実なのかどうか、私達には分からない。今は確かめ様が無かった。

事実を知るには、あまりにも時間が経ち過ぎた。

 

刑事は最後に、父に今日の出来事の確認を取った。

今日起きた事は事実ですかと。そして父は答えた。



「今日の出来事に関して、大河内岳は何一つ悪い事をしていません。

そしてこれは、僕の意見ですが...

今までも大河内岳は、誠実で生真面目な男でした」

 


父は笹原の話を聞いた上で答えを出した。

父の答えはまるで刑事ではなく、私と岳に向けて話している様だった。

 

そして父は刑事と話終わった後、岳の方に向かってゆっくりと歩き、そのまま岳を抱きしめた。


岳に向かって微笑む父を久しぶりに見た気がした。

 

全身の力が抜けたのか、私は地面にしゃがみ込んだ。


そして次第に涙が溢れ出し、私はそのまま泣き崩れた。

 


すぐに私の身体には温もりが届いた。

しゃがみ込んだ私を包む温もりが。

 

その温もりは、私が愛し、信頼し、尊敬する岳だ。

 



 


 私達の世界が変わり始めた。

 

モノクロだった日常が徐々に色付いていく。

今まで見ていた景色が変わっていく。

私達にもようやく春が来ようとしている。

私達もやっと未来が想像できる。





 三月一日。

私達は無事に、それぞれ最後の学生生活を終えた。


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