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アイスに恋とスターチス  作者: 由寺アヤ
第一章 再会
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二話 中間テスト


 高校入学から一ヶ月経っただけで、中間テストが近づいていた。

私は本当に勉強が苦手だ。単に勉強に関しての集中力、興味、達成感を全てテニスに費やしているだけだ。

素晴らしい事ではないか。とても良いことではないか。自分にそう言い聞かせている。

何か一つでも打ち込める事があれば。

そう思っていたが、どうやら赤点を取れば補習を受け再テストを受けないといけないらしい。

だから私は無駄な思考を諦め、勉強に集中することに決めた。


テスト期間中の部活動は、学校のルールで一時間以内に終わらなければいけない。

どんなにスポーツに力を入れている学校だとしても、勉強は回避出来ない仕組みになっている。

部活が終われば、各自下校時間になるまで学校内で勉強しなければいけない。これが一応のルールだ。


だから私たちは部活が終わり、テニス部の数人で廊下の大きいテーブルで勉強していた。

勉強と言ってもみんなで話しながら、テスト範囲を復習するという緩いテスト勉強だった。

そんな中、先輩から聞いた補習の話。

それでもその話を聞いて焦っているのは私だけだった。


「みんなはなんでそんなに平気なの?」

私は不思議になりみんなに聞いた。


「だって、この範囲中学で習ったから」

一人がそういうと、他のみんなも

「一通り目を通せば、赤点は取らないでしょ」


……そうだ。

頭の出来があまり良く無いのは私だけだった。

この人らは賢い人たちだ。

そう気付いた私は、このままでは本当に赤点を取ると思い、危機感を覚えた。

そして私はすぐに立ち上がった。

本当は放課後にみんなと話しながら緩くテスト勉強をしたかったのだが。


「一緒にやれば、分からないところ教えれるけど」

慌てて私の事をフォローしてくれる優しいチームメイト。

みんなはそう言ってくれたけど、絶対に一緒になって話してしまい勉強が進まない自信があった。

だからは私はみんなの誘いを丁重にお断りした。


「そっか。頑張って。いつでも質問して」

 

私のチームメイトは優しい。優しくて、賢い。

私はそんなみんなに手を振って一人図書室に向かった。

図書室は結構穴場だと聞いたことがあった。

自習室もあるがそこはテスト期間中たくさんの人が利用し、その反動で図書室は比較的人が少なくなるらしい。

それからのテスト期間、私は部活が終わると一人で図書室に向かった。

 




「あっ……」


 ある日、部活が少し長引きいつもより遅くに図書室に着いた時、丁度同じタイミングで反対側から大河内岳が図書室に向かって歩いてきた。


「部活終わり?」


親睦会の日以降、面と向かって会えば挨拶を交わす仲にはなった。

今日は教室以外の場所で会ったからか、挨拶だけでなく話がいつもより続いた。


「うん。そっちも?」


 大河内岳の正体は未だに謎だった。

私が話かけたり質問すれば返事は返してくれる。でも私以外に女子と話しているところを見た事がない。

涼とは休み時間に仲良く話しているから、もしかしたら女の人が苦手なのかなと勝手に想像する。

私達が仲良くなるにはもう少し時間がかかりそうだと思いながら、

「うん。今から猛勉強」

と答えた。


私達はそのまま、一つの大きい机の端と端に座り、無言でテスト勉強を始めた。


最初は大河内岳が気になって集中できなかったが、あまりにも大河内岳が集中して黙々と勉強をしているので、私も気が付けば勉強が捗っていた。

大河内岳の成績は分からないがなぜか凄く賢そうな気がした。

 

しばらくしてから大河内岳が教科書を片付けて帰る準備をしていた。


「もう帰るの?」


とっくに下校時間は過ぎていたが、思ったよりも早く帰ることに驚いた私は思わず声をかけてしまった。


「うん。今日の範囲は終わったから」

 

まるで勉強ができる方の回答だ。


「そっか。お疲れ様」

 

私のテスト勉強はと言うと、この二時間くらい実は進んでいる様で全く進んでいなかった。

だからか少し素っ気なく返事をしてしまった様な気がした。


「そっちは?まだ残るの?」


「うん……。数学が分からなくて。もう少しだけやってから帰る」

私がもう一度お疲れ様と言おうとした時だった。

大河内岳が肩に掛けていた鞄を下ろし私の方に近づいてきた。


「教えようか?」


まさか大河内岳からそんな言葉をかけられるとは思いもしなかった。

他人には興味が無いと思っていたから驚いた。


「いやいや、自分で何とかするよ」

 

申し訳なさよりも、大河内岳に勉強の出来なさがバレるのが少し恥ずかしくて一度断ったが

「僕も復習になるし、教えるよ」

と言って既に私の席の横に座り、鞄から筆箱を出していた。


この時、大河内岳が可愛く見えた。

実は周りが気付いていないだけで優しくて、本当は話したいけど極度の人見知りなのではと。

それぐらいに今日の大河内岳は積極的だった。

 

それからの私達は特に約束はしなくても、テスト期間中は毎日部活が終わった後、二人で図書室で勉強をした。

私は分からない所があれば質問し、大河内岳はその質問に嫌な顔一つせず丁寧に分かるまで説明してくれた。

その成果もあってか私は、赤点を取る事なく無事に補修と再テストから免れた。

 

  

 数ヶ月後にはインターハイ予選が行われ、忙しくしている間にすぐに期末テストに差し掛かった。

 

大河内岳と中間テストの図書室で少し距離が縮まったかと思えば、テストが終わればまた今まで通りの関係に戻ってしまった。

一緒に図書室で勉強していたのが夢だったのではないかと錯覚するくらいに。


原因はインターハイ予選が近づき、合宿でそれぞれの部が学校にいない日も多く、何より席も遠いのでほとんど話す機会が無かった。

 

そんな中、ある日のお昼を境に、私が抱く大河内岳への感情はこれまでとは確実に違っていた。

でもそれを伝える勇気はまだ私には無く、誰にも打ち明けれずに心の奥に閉まってある。

 

しかし、中間テストの後に行われた体育祭で、また少し私達の距離が縮まった様な気がする出来事があった。


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