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アイスに恋とスターチス  作者: 由寺アヤ
第四章 決断
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二十一話 晴れた日に


 最近の秋は一瞬で通り過ぎて行く。

食欲の秋。読書の秋。...今年の秋は私にとって、無色だった。

 

綺麗な紅葉を見ても無色。

陽咲の美味しいご飯も無色で味もしない。


私にとって岳はそれほどに、カラフルで私の一部で全てだった。


別れてからの私は抜け殻だった。


そんな秋は長い様な、でも一瞬にして終わっていく。そしてすぐに冬が迫ってくる。

 




 今日は陽咲の誕生日パーティーを開催する。

私はすっかり忘れていたのだが、陽咲が自ら招集をかけ五人とも集まった。



陽咲の誕生日の一ヶ月前、それは大体、私と岳が別れて三ヶ月経った頃だった。


「ねえ。私の誕生日パーティーしない?」


陽咲に言われるまで大事な親友の誕生日があることを忘れていた。


「良いね」

 

私はいかに忘れてないかを演じた。


「むぎむぎ、忘れてたでしょ」

 

バレてしまった。私は笑いながら謝った。


「岳も誘っていい?五人で集まろうよ」


陽咲には別れたことは伝えなくても気付かれてしまった。私の様子を見ていて気付いたのか、岳か涼から聞いたのかは分からない。

それでも『私は紬の味方だから』と言ってくれた。

 

 私が抜け殻だった日々はずっと側にいててくれた。陽咲は岳の事も好きだから、私に気を遣ったのだろう。少し気まずそうな顔で言われてしまった。


別れて少し経った頃から、『せめて友達に戻ったら?』と言われていた。

 


私はそんな陽咲に、言わなければいけない事が一つだけある。



 

「えええええええええ!」

 

陽咲は一生驚いていた。恐る恐る伝えたら、すごく嬉しそうに喜んでいた。少し涙目にもなっていた。


そしてすぐに鞄から携帯を出し、誰かに電話をしている。


聞かなくても誰に電話しているかは分かった。




『もしもし?むぎむぎが……紬ががっくんと戻ったって!うん!うん。じゃね!』




相変わらず二人の電話は会話が短い。

会話から分かる。

陽咲と涼は順調にお付き合いが進んでいる様だ。

 

そして私達も、一度は別れたが結局よりを戻した。

 

もう一度二人で努力すると決めた。


「努力することは得意分野だよ」

 

岳がそう私に言ってくれた。

よりを戻す事は相当な覚悟が必要だと思う。

私もそうだ。それでも二人で話し合って頑張ると決めた。


「五人集まれるかな?」

 

私は喜ぶ陽咲に聞いてみた。


「私の誕生日だから集まるでしょ」

 

陽咲は自信満々に言い張った。

そしてやはりどこか嬉しそうだった。

五人で集めれる事が嬉しいみたいだった。




 岳と別れる時、いつも通りデートをして、ご飯を食べた日に私から別れ話を打ち明けた。

その日の岳は、私の好きな服装で少し大きな紙袋を持って待ち合わせの場所に来た。

私はそんな岳の姿に、静かに見惚れてしまった。



『ああ、これからこんなに大好きな人に私は、別れを告げようとしているのか』



別れる理由はいくつかある。

でもやっぱりこの三年間ほど、両親に隠れたり両親から反対されながら付き合う事は凄くしんどかった。


私は家族が好きだ。

岳も私の家族を大事にしてくれている。


だから何回も私の実家に通っては謝罪をしたり話をしたりしてくれた。

 

それでも許してくれない。


私が家族と縁を切れば良いのかもしれない。

でもこれは岳にとっても、決して嬉しいことではない。これ以上岳が苦しむのも、私が苦しむのも、両親が苦しむのも、全て私と岳が諦めたら終わることだと気づいた。


そして兄の『この世には他にも色んな人がたくさんいる』という一言。


私は岳に執着し過ぎてしまったのかもしれない。

 

私が話を切り出すと、岳は少し悲しそうな顔をしていた様な気がした。


もしかしたらそれは本当に気のせいで、私の願望なのかもしれない。


岳はあっさりと私の話を受け入れた。

呆気なく別れることに同意をしたのだ。


まるで前から決めていたかの様に。

それとも私から別れを告げたら、従うと決めていたかの様に、あまりにもすぐに同意した。

私は少し驚いた。



「少しだけ待ってて」



岳はそう言って、どこかに消えていった。

 

岳が消えてから、今までのことを思い出して、私の目には涙が溢れていた。


高校時代は楽しかったな。

 

まさか同じ学校で、同じクラスになるとは想像もしてなかったな。

みんなで卒業できていたらな。

あんな事が起きなかったら岳は今頃、好きな空手を続けているのかな。


私は、岳の空手姿が大好きだった。

普段は無愛想な中学時代の岳が、空手をする時は顔付きが変わり、その姿が大好きだった。

彼が空手を愛しているのが分かる、普段の練習姿が大好きだった。


そんな淡い思い出が、徐々に怒りへと変わっていく。


やっぱり心が苦しかった。

こんなに苦しかったんだ。

悔しくて、苦しくて、こんなに辛い日々を私達は送っていた。

それなのに、そうとは気付かない程、私達はお互いに執着していた。まるでこの世に二人だけかの様に。


しばらく私は涙を抑える事に集中した。

 

ドラマではよく、別れ話をする時は雷が鳴っていたり、急に雨が降って来たりする。

雰囲気までもが最悪になる事が多い。


でも今日は、これでもかと言うくらいに天気は晴れ、今は上を向けば、綺麗な星空が空一面に広がっている。

一人で見上げたこの星空は、忘れられないだろうと思った。

それほでに綺麗だった。

 

遠くから岳が走ってくる。

長い時間一人だった気がする。

岳の襟元から汗が出ていて息も荒い。


ずっと走っていたのだろうか。

岳の右手には花束が握りしめられていた。


その花束と今日一日ずっと持っていた紙袋を私にくれた。



岳が私に花束をくれたのはこれで三回目だ。


初めての花束は、高校の卒業式の前日だった。


私はあまり花に詳しく無い。

特別、花が好きなわけでもない。


それでも、たまにくれる岳からの花束は、凄く嬉しかった。

気付けばいつも、同じ色の同じ花束だった。



最後だからと、岳は走って花屋さんに行ったのかな。その事を考えるだけで愛おしく感じた。


なんで別れるのに花束なんだよと、でもこれで岳からもらう花束は最後なんだと噛み締めながら、私は優しくその花束を抱きしめた。



「今まで、本当に今までありがとう」

 

岳はゆっくりと話始めた。


「最後ができるだけ悲しくならない様に……花束を。

僕はこれからも紬の幸せだけを願ってる」


岳の顔の緊張が、少し解けた様な気がした。

曇り一つない真剣な、岳の精一杯の笑顔だった。


「お陰様で、幸せな気持ちです」

 

私は岳の思いやりに、抑えていた涙が溢れ、それでも笑顔で岳に伝えた。


「ありがとう」

 

こうして私達は別れた。


私達は、この日がいつかは来ると覚悟していたのかもしれない。

いつからだろうか。

お互いが、出来るなら最後は悲しくない様にと考えていたのかもしれない。

それほどに、綺麗に、感謝だけを残して、私達は別れを選択した。



 

 岳から貰った花束は中々枯れなかった。

途中で何回も押花ににしようと考えたが、最後まで花瓶に飾っておいた。




まさか三ヶ月後、よりを戻すとは思いもせずに。

よりを戻すと分かっていたら、押花にしたのに。


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