十九話 学園祭②
「お待たせ」
蘭が両手に沢山の食べ物を抱えながら、ダンスステージが始まる広場に到着した。
来る途中で、沢山の誘惑に負けた結果と笑いながら私たちにも分けてくれた。
「私、今日本当に楽しみだったの」
蘭はポテトを頬張りながら、話している。
「このダンスステージ、結構レベル高いらしいよ」
だから私は両サイドにいる二人を交互に見ながら、説明した。
「特にこのグループとこのグループは……」
しかし、私の必死の説明も二人には届いていない。
蘭は部活が終わってすぐに来て、よっぽどお腹が空いていたのか食べるのに夢中。
陽咲は先輩と会ったのか楽しそうに話をしている。
私は静かに正面を向き、誰も聞いていない説明を途中で辞め、持っていたタイムスケジュールに目を通した。
初めて見る学園祭のダンスステージは想像以上に盛り上がり、蘭と陽咲と肩を組みながらリズムに乗って楽しんだ。
辺りは夕方からすっかり暗くなり、ステージも終盤に入ってきた時だった。
どうやらさっきまでの雰囲気とは全く違う、バラード曲が流れ始めた。
プロと言いても過言では無い程の歌声を一人の学生が披露し、それに合わせて周りはダンサーは軽く踊り始める。
凄く素敵な時間が流れていた時だった。
どうやらこれはダンサーの中の一人が、客席の一番前に座っている女の子に告白をすると言うサプライズだったのだ。
その会場は拍手に包まれ、愉快な口笛がそこら中に鳴り、全体が二人を祝福し、みんなの笑顔が溢れている。
近くを通り過ぎる学生さえも拍手をしている。
私の頬には涙が溢れていた。
「……あ」
私は必死に何とか誤魔化した。
それでも、涙は止まらない。
「大丈夫だよ」
陽咲は全てを察したのだろうか。
決して羨ましい訳ではない。
...いや、少しは羨ましいかもしれない。
この感情が何なのかも分からない。
私は別に今も十分幸せだ。
でもたまに、本当にごく稀にしんどい時だってある。別にみんなに認めて欲しい訳ではない。
この状況の様に、この大学のみんなに、同じ学科のみんなに、通り過ぎり人々に認めてもらいた訳では決して無い。
ただただ、私は家族に認めてもらいたいだけだ。
私は静かに、目の前で祝福されている二人を見つめていた。
そんな私に暖かい温もりが加わった。
頭と頭がぶつかる。
そして私は二人に抱きしめられる。
「私は二人が知ってくれているだけで、見守ってくれているだけで、十分だよ」
また二人に心が救われた。
「いいじゃん、今は。ゆっくり進んでいこうよ」
「大丈夫、大丈夫」
『大丈夫』と言う言葉は、言う人によっては軽い言葉に聞こえる。
『大丈夫』と言う言葉は、時にはおまじないの様な言葉に変わる。
私にとって、今夜の二人からの『大丈夫』は、どんな薬にも敵わない心の安定剤になった。
久しぶりに三人でご飯を食べた。
「今日はハロウィンだし、ピザにしようよ」
「あり」
「同じく」
私の意見は直ぐに採用され、今夜は陽咲の家でピザパーティーを開催した。
もうすぐ夜の十時。
ピザを受け取った帰り道、私達はコンビニでお菓子と飲み物を調達した。
私はこの時間のコンビニが好きだ。
夢だった。
大学で一人暮らしをして、夜に部屋着で友達とコンビニに行く。
アイスやお菓子やジュースを買って、また友達と一緒に家に帰る。
この雰囲気と空気と夜の空が好きだ。
岳と一緒に歩きたかった。
夜にアイスを食べながら一緒に散歩したいな。
「陽咲はまだよね」
蘭は一応年齢確認をしている。
陽咲がまだ二十歳になっていないので今日の乾杯ドリンクはジュースに決まった。
そしてその後は永遠と恋バナをした。
この日の恋の中心は蘭だった。
蘭の恋はとても応援してあげたくなる恋だった。
私は相手が誰か分からなかったけど、なぜか陽咲は知っている様で沢山アドバイスをしていた。
私の知っている限り、陽咲は恋愛のアドバイスが出来る程、恋愛マスターでは無い。
陽咲が隠していない限り、涼が陽咲にとっての初めての彼氏だ。
陽咲の性格上、隠す選択肢は無さそうなのでそれで言うと初彼になる。
それなのに、的確にアドバイスしている様に思えた。
陽咲はまるで蘭の相手について詳しく知っているかの様に。その日は凄く不思議な時間だった。
それから何日か経った後、高校時代の夢を見て目が覚めた日だった。
体を起こしベットから出て水を飲みながら閃いた。
もしかして、蘭の相手って高校の時に陽咲がずっと片思いをしていた『空良』なのではと。
私の頭は急に、三角関係の構図が出来上がって焦り始めた。
どうしようかと、誰を応援したらいいのかと寝ぼけた頭で考えた。
心を落ち着かせようと暖かいココアを飲んで椅子に座る。
「……あ。涼がいるわ」
椅子に座り、遠くに飾ってあった五人の写真を見て、涼がいることを思い出した。
不意に出てきた言葉はどこか関西弁ぽくなり、少しおかしかった。
自分がまだ寝ぼけているのだと、その後は何も考えずにココアに集中した。
授業の準備が終わり玄関に向かう途中、五人の写真の前を通ると今日に限って涼に目が行った。
だから私は写真の中の無邪気に笑う涼に静かに謝罪した。
(そう言えば、涼はいつから陽咲の事を好きだったんだろう...)
私は自転車を漕ぎながら考えた。
全く見当も付かないこの問題は、今度涼本人に聞いてみることにした。




