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アイスに恋とスターチス  作者: 由寺アヤ
第一章 再会
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一話 光山高校の紬と岳


 この世に一人でも愛してる人や親友、

時には戦友がいるなら、

自分にとって大切な人がいるなら、

人は皆その人の幸せを誰よりも願うだろう。


私にとってはそれが岳だった。

誰よりも大切で、この世で一番愛している。


両親にとってはその対象者は私だった。


私が岳の幸せを誰よりも願っていた時、

同じ様に両親は私の幸せを誰よりも願っていた。


ただそれだけの話だ。


これは誰も悪くない。

誰のせいでもない。


ただお互いの幸せをと願い続けた結果が、

今の私達の形なのだろう。

 






 高校の入学式。

教室に着くと、同じクラスの一番遠い席に私達の席があった。

出席番号順に着席した私の席は、窓側の一番前だ。

廊下側の一番後ろに座っていたのが大河内岳だった。


このクラスをスポーツクラスとみんなは呼ぶ。

通称『スポクラ』。

この学校にはスポクラが二クラス存在する。

バレー、バスケ、剣道、テニス、空手、新体操に所属する男女が均等に、スポクラのAクラスBクラスに分けられ、みんなで全国大会優勝を目指す。

スポーツに力を入れた学校だ。

クラスの人数や男女比を毎年変えるのが大変なのか、スポクラだけはクラス替えが無く、三年間同じメンバーで過ごす。卒業する頃にはクラスの団結力は素晴らしいものだそうだ。


校則は特に厳しく無く、恋愛も自由だ。

恋愛を部活に持ち込まないと言うスポクラ内での暗黙のルールが効いてるからか、みんな割り切って部活と恋愛を両立している。

ただ全国優勝を目指し日々頑張っているので、恋人ができても普通の恋愛は中々できない。

仮にスポクラ同士のカップルが誕生したとしても、デートができるのは月に二回あるかないかの、日曜の昼からのオフだけだった。

   





 私は小さい頃から全国優勝を目標に、休む事なく練習してきた。

いわゆるスポーツマンだ。学生時代を部活に捧げた。

みんなから愛される様にと付けられた『紬』という名前。今の私は本当にみんなに愛されているのだろうか。

 

 彼の名前は大河内岳。彼も小さい頃から空手を習い、全国常連の選手だった。

彼こそ空手が好きで、空手に青春時代を捧げる予定だった選手だ。

山のように大きな心、高い志で生きていける様にと付けられたその名前。彼は今、大きな心で高い志で生きているのだろうか。

 

 私たちはいつの間にか、出口の見えない真っ暗なトンネルを歩き始めていた。

そのトンネルの中で随分と長い間彷徨い続けた。

気付けば、二人だけでは超えれそうに無い大きな山を、いくつも乗り越えなければいけなくなっていた。

その始まりは平凡だった私達の日常に突如現れた。


私たちの出会いは偶然なのか、それとも必然だったのか。



 




「皆さんお疲れ様です。只今より親睦会を始めます」


 四月中旬、スポクラの二クラスで親睦会が開催された。

この学校の恒例行事であり、結構な人数になるので焼肉屋さんを貸切にして行われる親睦会。

この日を境に仲良くなるかどうかが決まると先輩から聞いた事がある。


焼肉の席は事前に、私と涼でくじを作りランダムに席が決まった。

なぜかこの親睦会の指揮を取るのは、数日前に決まった各クラスの体育員だ。

その体育員が私と男子バスケ部の吉川涼。


全員が席に着き、隣のクラスの体育員と私たちはみんなの前にグラスを持ち集まった。

みんなの視線が涼に集まる。


「これから三年間、頑張りましょう」

涼がグラスの持った腕を上にあげ、叫んだ。


「乾杯」

涼の後に全員が続き、店員さん達がその声の大きさに驚いていた。


「すみません」

朝野陽咲は自分の席に戻りながら、定員さんに頭を下げていた。

隣のクラスの体育員だ。

バスケ部ですごくしっかりしてそうな性格で、もうすでに頼もしい。


私も乾杯が終わり自分の席に戻った。




「お疲れ様」

たまたま隣の席になった、同じテニス部の田渕明が待っててくれた。


あかりはテニス部の中でも特に仲が良く、お互い中学からの知り合いだ。

私たちのテーブルには率先してお肉を焼いてくれる人が二人もいた。

これは結構珍しい事だと思う。

いつもだと私が焼く担当をするのだが、今日はその二人に任せて私は食べる事に専念した。


なぜなら私には今日、自分の中でのミッションがあったから。

 

(…今日こそ、空手部の大河内岳と話す!)



 まさか同じ高校に入学するとは思ってもいなかった。

少しは期待していたけど、本当に同じ高校とは思いもしなかった。

だから合格者だけの学校説明会でその姿を見た時、私の胸は弾けた。


 私と大河内岳は小学生時代からの顔見知りだ。

関係性は、会えば話すが特に仲が良いわけでもない。それに、話すと言ってもほとんどが挨拶程度だった。

友達とは言えない、何とも微妙な関係だった。


私が彼を気になり出したのは中学三年生の夏頃。

当時はこれが恋愛感情なのかどうかも分からなかった。

ただ気になる存在であったのは確かで、彼の空手をやっている姿に思わず

『かっこいい』

と言ってしまったことがあった。


そんな彼が同じ学校に入学し、同じクラスになった。

これはもう仲良くなるしかないと思い、まずは話しかけようと。

それが今日だ。


それにしても私達二人の間には、何もきっかけが無かった。


出席番号が近くだと席も近くで話すチャンスはたくさんあっただろうに、私達はよりによって一番遠い席だ。

今日だって、自分が席を決める係だから同じテーブルにしても良かったのに、私はわざわざ運で全てが決まるくじを選んだ。

結果、同じ列でかろうじて見える範囲ではあるが、私と大河内岳の席はまた端と端だ。



「焼肉の席、俺らで適当に振り分ける?」


「そこは平等にくじにしよう」


数日前の涼との会話を思い出し、後悔している。

涼の言う事を聞いておけば良かった。

今日のミッションは恐らく失敗に終わるだろうと、私は早々に諦めてその場を楽しんだ。

 

 くじで決めた席にしてはみんなと気が合い、結局楽しく過ごす事ができた。

そして大河内岳のことはすっかり忘れ一時間くらいが経った。


隣のテーブルも盛り上がっていて見てみると、端の方で大河内岳と涼が話しているのが見えた。

意外な二人だった。

私が思うに、涼と大河内岳は多分性格が真逆だと思う。

何を話しているのだろうと思いながら、私は無意識に二人を眺めていた。

  

 



 俺の名前は吉川涼。

バスケ部所属でクラスの係は体育員だ。

俺には最近気になるやつがいる。それは大河内岳という男だ。


大河内岳は人見知りなのか、クラスでも同じ空手部以外の人とはあまり会話していない。

でも良いやつそうだ。親睦会の焼肉屋で俺と大河内は意図して席が隣になり、それがきっかけで仲良くなった。

仲良くなれば案外普通の空手少年だった。


「同じクラスに空手部以外で知り合いいる?」

俺が最初に話題を作ろうと話しかけたら、まさかの答えが返ってきた。


「一人だけ」

岳はそう言って、遠くに座っている一人の女の子を見つめながら答えた。


俺は岳のその目が忘れられない。

イメージとはかけ離れた岳の正体。空手以外に興味が無いと思っていた。

優しそうだが女子にはどこか冷たく、恋愛とは程遠い存在だと思っていた。

やっぱり人は見かけに寄らない。

俺は小さい頃から、予想外な人間が大好きだった。


「だれ?」


俺は知らないふりをして岳に質問した。


「矢波さん」


岳は何の恥じらいもなく答えた。


矢波と俺は委員が同じで最近よく話す仲だ。

矢波は明るい性格で周りからの信頼も厚そうなタイプだ。

これはまた岳とは真逆の性格で、面白い組み合わせだなと思った。

しばらく矢波の方を見ながら岳と話をしていると、俺は矢波本人と目が合った。


矢波が口をパクパク動かしながら何かを訴えているが、流石に遠すぎて分からなかった。

だから俺は岳の腕を引っ張り、矢波の所に連れて行った。


 




「矢波、岳と知り合いなの?」

涼が大河内岳を引っ張りながら私の所に来た。

見るからに大河内岳は戸惑っている。


「うん。知り合いって言って良いのか分からないけど、何回か話したことはあるよ」

私の答えに不快な思いをしていないと良いのだが、その心配は無さそうだった。


「久しぶり。これからよろしく」


大河内岳の顔はそう言いながら少し照れている様な気がした。


これが高校に入って、初めて交わした会話だった。


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