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アイスに恋とスターチス  作者: 由寺アヤ
第三章 出会い
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十五話 好きな人①


 テストが終了し、夏休みに入った。

 

大学の夏休みは思った以上にただの日常だ。

休日の部活が毎日続いてる様な感覚だった。


しかも一年生にはスポーツマンキャンプと言う名の、地獄キャンプが夏休み後半には待ち構えている。

 

この地獄キャンプと言うあだ名は先輩から聞いた。


毎年、部活動に所属している一年が参加する合宿だ。体育実行委員が主催するキャンプで、その体育実行委員と言うのは部活に所属している意識の高い四年生の事であって、当然縦社会の部活動において私たち一年生に拒否権は無い。

強制送還される。

 

でも地獄ばかりでも無い。

そこで恋が芽生える事や、仲間ができる事だってある。

二泊三日の間に何が起きるかは誰にも分からない。

私たちも恐る恐る参加したが、終わってみれば楽しく過ごせた三日間だった。

 

このキャンプの目的は、簡単に言うと色んな部活の人たちと交流し、互いを知り、意識やモチベーションを高め、スポーツマンとして成長することだそうだ。


出発する前の全体集合の時に、恐らく体育員の中で一番偉い方であろうラグビー部男子の部長が説明していた。

そしてその後に、二番目に偉い方でありそうな陸上部の女子部長が、遊びに行くのでは無いので気を引き締めて怪我のない様にと言い、地獄のキャンプが始まった。

 

この時はどうなるのだろうと思っていたが、案外楽しく過ごせた。

 

各部活が男女均等に分かれる。

キャンプの間一緒に過ごすグループは前日に発表されていた。

私は陽咲と一緒になる事を願っていたがそうはいかなかった。

全員初対面のグループとなり、お先真っ暗だったが救世主が私のグループにはいた。

 

ここでも陽咲は私を助けてくれたのだ。

 

「もしかして、むぎむぎちゃん?」

 

声をかけてくれたのは、陽咲のチームメイトである九重音羽だった。

 

私は相手の服に付いている名札を見ながら尋ねた。


「きゅう……じゅう……?」


「ここのえって読むの。音羽でいいよ」

 

音羽は優しい笑顔で答えてくれた。

これが初めての会話だった。

その日の夜にはすっかり仲良くなった。


「ところでさ、そのむぎむぎちゃんは流石に辞めない?」


私が音羽に提案したけど却下された。


どうやらバスケ部女子の一回生の中で私は『むぎむぎちゃん』で認識されているらしい。

一体陽咲はみんなにどんな話をしているのか気になったが、尋ねる前に音羽が教えてくれた。


「陽咲、よくむぎむぎちゃんの話してるんだ。

陽咲が来世はむぎむぎちゃんと付き合いたいんだって。それぐらい好きなんだって。

今世の私の恋愛対象は残念ながら男なんだよねって言ってた」


音羽が楽しそうにするこの話は、私にとっても凄く嬉しかった。

こうして地獄と言われた三日間は音羽に癒され、音羽のお陰で楽しく過ごせた。

 

この九重音羽と言う人物は、見た目や雰囲気、話し方からは想像も出来ないくらい、スポーツマンだ。

常に笑顔で、優しくて、とてもスポーツをしてる様には見えないけれど、いざトレーニングをするとなると急に目付きが変わりバスケ選手になる。

 

これは後で知ったのだが、音羽は高校で全国大会で決勝までいったチームのエースだった。

 

私は彼女の魅力にまんまと引っかかったのだった。

 

この三日間、キャンプが始まる前は毎日陽咲に連絡を入れて、お互い励まし合いながら乗り切ろうと言っていたが、結局は一回も連絡しないままキャンプが終わった。

人数も多いので、陽咲と途中で会う事も話す事も無く終わった。


だから陽咲からも話を聞いた時は驚いた。

 

地獄キャンプが全日程終了し、次の日は部活もオフだったので陽咲の家に行った。


当初は電車に乗って買い物にでも出かける予定だったが、見事に二人とも全身筋肉痛で私は陽咲の家に行くだけでもしんどかった。


それでも陽咲も私も互いに話たいことがいっぱいあると言い、じゃんけんで決着をし、見事に負けた私は重い体を自転車に乗せて陽咲の家に向かった。

 

そして話を聞くと、私が地獄キャンプで楽しく過ごしていた三日間、陽咲は思いがけない出会いがあったという。


「聞いてくれる?」

 

陽咲はいつも楽しいことや驚いたこと、腹が立った時などとにかく誰かに話を聞いてほしい時、『聞いてくれる?』と初めに言う。

 

陽咲の『聞いてくれる?』は声のトーンで大体どんなジャンルの話なのかが分かる。


これは私が高校の三年間で取得した技の一つだ。


今日のジャンルは嬉しい話のようだ。


「高三の体育祭の借り物競争で、最後に健太と剣道部の空良と一緒に走ってた女の子覚えてる?」

 

陽咲は、目をキラキラさせながら私の顔を覗き込む。

私はてっきりキャンプの話をするのだろうと思っていたので、思い出すのに少し時間がかかった。


「私と涼がゴールテープ係だったやつ?」

 

段々と思い出してきた記憶を私は口に出した。


「そうそう」

 

私は完全にあの日のことを思い出した。

凄く印象的な場面だった。

 

仲の良い健太が走っているから覚えているのではない。

 

あれはまるで、映画のワンシーンの様なリレーだった。

 

私はあの時、一緒に走っていた女の子はもちろん、隣のクラスだった堀村空良とも接点は無い。

だから三人の関係性や状況は詳しく分からない。

それでも、車椅子から降り堀村空良に抱かれながら走るその女の子と、途中で合流した健太のこの三人は強い絆で結ばれ、互いが特別な存在で、何か事情があって――、それでも楽しそうにグランドを走るその三人が眩しく映った。


だからは私と涼は地面に落ちていたゴールテープをもう一度引っ張り三人を迎えた。


その後に堀村空良と健太に支えられながら写真を撮る姿は今でも忘れられない。


そこにはいつもの健太とは違う健太がいた。


そして皮肉にも、誰にも割って入る事の出来ない空気感である三人の写真を撮ったのは、三年間ずっと隠れて堀村空良に片思いをしていた陽咲だった。

 

なぜ今頃この話をするのだろうと、尋ねると陽咲はさらに楽しそうに話始めた。


「あの時の女の子!私たちと同じ大学なの!」

 

驚いて開いた口を両手で押さえている私にさらに陽咲は付け足した。


「しかも地獄キャンプで同じグループになったの!」

 

顎が外れそうだった。

色々気になる事はあった。


まず同じ大学なのは本当に驚いた。

そして次に、私が見た体育祭の時は車椅子に座っていて、立つ事さえも難しい様に見えた。

だから、サークルではなく部活に所属している人だけが参加のキャンプにいてることが不思議だった。


私は無意識にたくさんの質問を陽咲にぶつけていた。すると陽咲も楽しそうに全部答えてくれた。

多分陽咲もたくさんの疑問があって、キャンプの時に質問攻めしたのだろう。

 

その子の名前は薮谷蘭。

健太と堀村空良の幼馴染で、今は剣道部のマネージャーをしているそうだ。

高校の時は体調が悪かったが、今は地獄キャンプにも参加できるほど元気になった。


陽咲とは健太の知り合いと言うのもあり意気投合し仲良くなったそうだ。

だからキャンプ中に陽咲からも連絡が無かったんだと納得した。

 

今度、紬にも紹介すると言ってくれていたのだが、その日は割とすぐに来た。


私の想像以上に二人は仲良くなっていて、おまけに私もその日に蘭とは仲良くなった。


とても明るく一緒にいて楽しい性格だった。

初めて会ったその日は三人でたくさん会話をした。

そして最後に悪口で終わった。


「健太ってほんとに重要な事言わないよね」

「健太は昔から肝心な事は言わない」

「健太はそれでよく陽咲に怒られてるよね」

 

私たちはため息を吐きながら、その後は笑顔で解散した。

 

初めて話すとは思えないくらい、昔からお互いを知っていたかの様に仲良くなった。


 こうして私の大学生生活にもう一人仲間が増えた。


 

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