十三話 4月
つい最近まで彩りの無いこの道も、少し前から蕾ができ始め、ピンク色のふわふわした花びらが満開を迎え、花びらがシャワーの様にヒラヒラと舞い落ち、今ではすっかり葉桜を終えようとしている。
初めてこの道を自転車で通った時、これから四年間この綺麗な桜並木の下を通学するのかと思うとワクワクした。
この桜並木を通り過ぎたコンビニで、いつも陽咲と待ち合わせをする。
私と陽咲はたまたま同じ大学に進学した。
初めは二人とも何も知ら無かった。
岳の件があって以降、進路の話をあまりしなかった。岳が学校を辞めた頃は、みんなの進路がそろそろ決定する頃だった。
私もその頃に今の大学の合格が決まった。
でもあの頃はそれどころでは無かったので、陽咲の進路を聞いたのは年が明ける少し前だった。
あの時の状況に、岳が隣にいないと言う状況に少しだけ慣れ、岳の退学を少しづつ受け入れ、ほんの少しだけ余裕ができた頃だった。
「大学の場所って、結構離れてる?」
ある日のファミレスで陽咲が涼の話を遮った。
これは陽咲の得意技だ。
確かに、涼がさっきまで話していた隣の家に植えられている、ヒイラギの葉のトゲが腕に当たって怪我をしたと言う話は、恐らく誰も興味が無かった。
だからすぐに大学の話に変わった。
「陽咲はどこだっけ?」
私は陽咲に地名を聞いたつもりだった。
それなのに、陽咲は私が四月から通う大学名を口にした。
「え?ん?」
もう一度、陽咲が言ったその大学名はやはり私が通う大学と同じ大学だった。
そして、もう一人私と同じくらい驚いてる人がいた。
「まじか。まさか――」
開きっぱなしの口がやっと動いた健太がそう言った。
なんで健太が驚いているんだと考えようとしたが、そんなことより私と陽咲は四月からも一緒にいられことに、頭と心の感情が追い付いていなかった。
なにしろとにかく喜んだ。
これからみんなバラバラで、頻繁に会えなくなると悲しみながら話していたのに。
これはまさかの展開だった。
むしろ今まで何故、お互いの大学名を聞かずに過ごして来たんだろうと不思議なくらい、私は何気に陽咲の大学だけ知らなかった。
こうして年が明ける頃、私は一気に大学生活が待ち遠しくなった。