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アイスに恋とスターチス  作者: 由寺アヤ
第二章 別れ
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十一話  冬を越す


 岳が学校を辞めてから三ヶ月が経とうとしていた時だった。


 私達二人は順調だった。

むしろ団結力が磨かれたのか、以前よりもっと深い関係になった様な気がした。


 ただ私の両親には認めてもらえない。

岳はそのことがずっと気になっていたのは私も薄々気付いてはいた。


「やっぱり、隠すのは良くない」


今日も二人で勉強をしているのだが、岳はあまり集中している様子ではなかった。

ずっと隠れて付き合い、私の親には内緒で会っていることへの罪悪感もあったのだろう。


「一度話に行く」


岳は少し時間を置いてから力強くそう言った。

 

いつかは会って、話をして、認めてもらわないといけない。

このまま何事も無く受け入れてくれるとは、私も思ってもいない。でもまだ少し早い気がした。

それでも岳は近いうちに行くと決めた。

岳の意思は固かった。



 今日は父と母の機嫌はそれ程悪くない日。

今なら話を聞いてくれるかもしれない。

私は淡い期待を胸に岳を呼んだ。


しばらくしてから玄関のチャイムが鳴り、私の緊張が最大限に達した頃、母が玄関を開けてその名前を呼んだ。


「がっくん?」


玄関からの母の声に父が反応する。

父の顔色が変わるのが目に見えて感じ取れた。

父もすぐに玄関に行き、私もその後に続いた。


「お久しぶりです」


玄関には、綺麗目な格好をした岳が紙袋を片手に立っていた。

そんな岳の声が震えているのが伝わってきた。


「突然すみません。謝罪とお話があって来ました」


岳が話し始めようとした時だった。


「謝罪は受け入れるが、話すことは無い」


父はそう言って部屋に戻って行こうとした。


「僕たちの交際を認めて下さい」


岳の言葉に父は足を止めた。


私達のことは別れたとでも思っていたのだろう。


「お願いします」 


私も岳の隣に行って父と母に頭を下げた。

 

すると見事に私達は家の外に追い出され、玄関のドアを閉め、鍵のかかる音が外まで響いた。



 ……え?


 

頭を下げたまま、私は首だけを動かし岳の方を見た。

岳は目の前の玄関のドアを、静かに見つめていた。


私はまさか岳を家にも上げず、玄関先で追い出されるとは思いもせずに、今のこの状況に驚いている。

話すらも聞いてくれない。

でもこの現状に岳はさほど慌ててはいない様だった。


「また来るよ。

一回で許してもらえるとは思っていない」


岳は閉められた玄関のドアに向かってそう言った。

 

岳は諦めなかった。

 

私も家に入らなくなり、私達は家に背を向けトボトボと歩き始めた。行き先も決めずに、とりあえず家を後にした。


 

 


 大晦日の夜。

私は初詣に行く準備をしていた。

健太は先約があったので、涼と陽咲、私と岳の四人で少し離れた神社に行く予定だ。


岳が家の近くまで迎えに来てくれて、駅でみんなと待ち合わせをした。


電車で二駅のところにある神社だ。


「がっくん、勉強どう?」


「多分合格」


「あと岳だけだからねー」

 

私は三人の会話を聞いていた。

岳以外は大学進学が決まっており、私と陽咲は大学も同じ学校だ。

学科も一緒でこれからも長い付き合いになりそうだ。


心強い味方が、常に隣にいてくれるのはすごくありがたいことだ。


「あっちの方は?……紬の親」


涼の質問に私は顔を横に振った。


「二回とも門前払い。

自分の家なのに、私も追い出される」


陽咲が心配そうに私を見つめている。


「でもそんな状況でどうやって家に戻ってるの?」


陽咲が不思議そうに訪ねてきた。

それもそうだ。

私は二回とも家を追い出されたが、もちろん自分の家なので夜には家に帰っているが、気まずくて仕方がない。それを陽咲も想像できたのだろう。


「お兄ちゃんです」


私には困った時の秘密兵器である、優しい優しい五つ年の離れた兄がいる。

兄は実家暮らしなので、私が追い出されても兄がなんとかしてくれていた。


「お兄さんは、多分味方。僕にも連絡くれる」

 

兄の存在は私達にとってすごく大きい。

家族に一人でも味方がいる事は、本当に助かった。


 この後、四人で解決策を考えたが良い案は見つからず、そうこうしている間に神社に着いた。

四人で一列に並び賽銭を投げ、金を鳴らし、願いを唱えた。


 一番長く手を合わせていた陽咲に、何を願ったのか聞くと、

「私の一年間の安全、家族の安全、岳の専門学校合格、岳と紬の将来――」


次から次へと願い事が出てきた。

これには流石の岳も珍しく、涼より先にツッコミを入れていた。

 



 最後に陽咲がお願いをした『全員で無事に卒業』はこの後、別々の場所で達成できた。




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